Global Wind (グローバル・ウインド)
2010年4月1日より外為法「輸出者等遵守基準」施行
三上 彰久
日常生活のシーンでも、私たちの回りには軍事転用可能な製品・技術があふれている、と言ったら驚くでしょう。事実、化粧品や自動車の不凍液、シャンプーの成分は化学兵器の原材料に、テニスラケットやゴルフシャフトの炭素繊維はミサイルの構造部材に使われる可能性があります。
さて、軍事転用、安全保障といえば、「ココム」を思い起こす方も多いと思います。ココムは冷戦時代に、共産圏諸国に対する戦略物資統制を目的に設けられた国際協約やその管理体制のことです。冷戦構造崩壊によりココムは解消され、新たな脅威となってきたテロ等の地域的な紛争に対応する必要が出てきました。そこで、地域の安定を損なう恐れのある通常兵器及び関連汎用品・技術の過度の移転と蓄積の防止という新たな国際社会の課題に対応するために、1995年12月、その会合の地オランダ・ワッセナー市にちなみ「ワッセナー・アレンジメント(WA)」と呼ばれる体制が成立しました。今日ではWAを含め、通常兵器や大量破壊兵器等に関する4つの国際的な輸出管理のためのレジーム(枠組み)があります。これらに基づく輸出管理は、「特定国への禁輸」ではなく、「不拡散型輸出管理」を目的とするものです。
我が国では、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)をベースとし、貨物の輸出については「輸出貿易管理令」(輸出令)で、役務(技術)については「外国為替令」(外為令)で規制品目を定め、その具体的なスペックを省令や通達などで規定しています。
外為法では「リスト規制」といって、兵器そのもの、兵器もしくはその一部として使われそうな高性能汎用品、兵器開発に利用しうる高性能汎用品などのうち、一定のスペックに該当する物が15項目リストアップされています(「リスト規制品目」といいます)。これに該当する場合は、輸出に際して経済産業大臣の許可が必要です。また、「キャッチオール規制」といって、上記以外の全品目(木材、食料品等を除く)について、その用途や最終ユーザーが兵器の開発に関連している旨を商談の過程で輸出者が知った様な場合も、輸出にあたり許可が必要です。更に「貨物」の輸出だけでなく、たとえばリスト規制品目に関連する技術を外国人にUSBメモリやメール添付などで提供する場合や、海外代理店のサービスエンジニアを研修するなど、関連技術を教える場合も外為法の規制対象とされています。
注意すべきは、輸出しようとする貨物や提供しようとする技術が外為法の規制対象となるか否かの判断(これを「該非判定」といいます)は、輸出企業の自主判断に委ねられている、ということです。
一般的に法令遵守のことを「コンプライアンス」と言いますが、貿易業界で「コンプライアンス」という場合には、輸出に際して外為法を遵守する取り組み(輸出管理)のことを指しています。
しかし、外為法違反が後を絶たないため、2010年4月1日より「輸出者等遵守基準」が導入されました。これにより、反復継続して貨物の輸出、技術の提供を行う者は経済産業大臣が定める「輸出者等遵守基準」に従う必要があります。
「輸出者等遵守基準」では ①リスト規制品・技術に該当か非該当かを確認する責任者を明確にすること、②輸出等の業務に従事する者に対し、法令遵守のための必要な指導をすること、が求められています。更に、前述した「リスト規制品」に該当する貨物・技術を扱う場合は、大量破壊兵器などに転用されるおそれが大きいので、次の9項目にも取り組むことが求められています。
①組織を代表する者を輸出管理の責任者とする
②輸出管理体制(業務分担・責任関係)を明確にする
③リスト規制品・技術に該当か否かを確認する手続きを明確にする
④用途やエンドユーザーを確認する手続きを明確にする
⑤リスト規制品・技術か否かを確認したものと、輸出するものが一致するかを確認する
⑥輸出管理の監査手続きを定め、実施するよう努める
⑦法令に則った輸出や技術提供を実施するための研修の実施に努める
⑧輸出・技術提供関係の文書などを適切な期間保存するように努める
⑨法令違反などが発覚した場合は、速やかに経済産業大臣に報告し、再発防止策を実施する。
経済産業大臣は、基準に従い指導や助言、違反があった際には勧告・命令を行うことができ、命令に違反した場合は罰則の対象となります。
「輸出者等遵守基準」は法が定めた基準を守るという受身のものですが、これを包含した上で更に、企業が自主管理として輸出貿易管理に関する一連の手続きを社内規程として任意に定めることがあります。これを「輸出管理内部規程」、通称CP (Compliance Prgram)と言います。また「輸出管理内部規程を整備しました」と経済産業省に届け出ると、個別の輸出許可を取ることなく輸出者等の自主管理の下で一定範囲のリスト規制品等を包括的に輸出等を行える「一般包括許可」の取得が可能となるなどのメリットが得られます。届出の過程では、経済産業省から業種・業態に応じた策定に関する指導が受けられます。
輸出管理は何も大手輸出企業にだけ求められているものではありません。中小企業も例外ではないのです。むしろ、輸出管理に疎いとして、貿易取引を装ったテロリストから商談を持ちかけられないとも限りません。通関業者に任せきりにせず、自ら輸出管理を実施し、自社を守る、そして社会を守る事を心がけてゆく必要があります。
参考:経済産業省安全保障ホームページ http://www.meti.go.jp/policy/anpo/
■三上 彰久(みかみ あきひさ)
中央大学法学部卒業。総合商社にて東南アジア向け産業機械の海外営業に従事。
シンガポール駐在から帰国後は医療機器メーカーに転職し、海外マーケティング畑を歩む。
その後団体職員に転じ、現在は企業内診断士として国際協力・中小企業交流に従事。
中小企業診断協会東京支部中央支会常任理事、同国際部長。
ジェトロ認定貿易アドバイザー。