一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部
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グローバル・ウインド  シンガポールから上海へ(2010年9月)

Global Wind (グローバル・ウインド)
シンガポールから上海へ
~間違ってもOKラ!?シングリッシュに学ぶコミュニケーション力~

中央支会 中国・上海在住  後藤 さえ


 2007年9月、晴れて中小企業診断士登録を果たし、独立を目指していた私だが、2008年8月、夫の突然の転勤でシンガポールに渡ることになった。
 幸い、シンガポールは「ホワイトカラー」の外国人には寛容で、「駐在員の家族ビザ」のため就労資格のない私でも、MOM(Ministry of Manpower)に申請すれば、独立開業は可能であった。そこで、個人事業主として「コンサルタント業」を立ち上げ、何件かクライアントも開拓し、財務会計の講師として呼んでいただいたりもした。
 「シンガポールでも診断士としてやっていけるかも」。そんな自信が芽生えかけたころ、またもや夫の上海転勤。人生楽しむしかない、と、折角開業したシンガポールの事業を廃業、2010年4月に中国・上海に引越し、二人の幼児を抱えながら次への道を模索し、準備する毎日である。
 もともとシンガポールや中国の制度や経済に詳しいわけでもないが、現地に生活の拠点を置く中小企業診断士として、目で見て、肌で感じたことを、お伝えしたい。

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シンガポールフライヤー(大観覧車)から見たマーライオン  上海名物、東方明珠塔と曇り空


◆社会の概況◆

 数字でシンガポールと上海を見てみよう。人口はシンガポール498万人(内、外国人が100万人余)に対し、上海は1657万人(都市部は949万人)、面積はシンガポール710平方km(東京23区とほぼ同じ)に対し、上海市は6340平方km。
 また、最近のニュースで、中国のGDPが日本のそれを抜いたと話題になったものの、一人当たり名目GDPを見てみると、日本39,731ドル(2009年)、シンガポール37,293ドル(2009年)、上海11,563ドル(2009年、なお中国全体では3,687ドル、日本の1/10!)。
 シンガポールは、中華系(7-8割)、マレー系・インド系(それぞれ1-2割)の3民族で構成される複合民族国家で、英語・中国語(北京語)・マレー語・タミール語の4ヶ国語を公用語とし、地下鉄の車内アナウンスもやはり、4ヶ国語が次々に流れる(そのうち次の駅に着いてしまう)。国土面積、天然資源、人口の限界から、国家施策としては、第一次・第二次産業にはさっさと見切りをつけ、第三次産業に注力、東南アジアの「ハブ」「金融リーダー」としての役割に徹している。
 唯一の資源である人材育成のため、教育システムは幼少期から過酷を極める。子供達の通っていたローカル保育園では、年中組から毎週英語と中国語のテスト、そろばん、毛筆、コンピューターのカリキュラム(ホントに幼稚園児!?)。と、いうのも、小学校6年の卒業テスト(PSLE:The Primary School Leaving Examination)の前段階として小学校4年生次に実施されるテストで、その後の進路が実質限定されてしまうのだ。敗者復活の道は海外へ出て頑張るしかないようだ。
 唾吐き、落書き、ゴミのポイ捨てに罰金が課せられることは有名だが、短期駐在の外国人増加で多少ルール遵守の風潮に乱れが見られるものの、規制・罰則だらけのこの国だからこそ、これだけ外国人が増え、多民族が暮らしていても治安や秩序が保たれるのであろう。なお、シンガポールの外国人と一口にいっても、所謂ホワイトカラーの外国人駐在員とその家族、及び「シンガポール事業」を低コストで支えるフィリピン・インドネシア等から来るメイド(10家族に一人はいるとの話も)、アチコチで進む建築ラッシュの現場で働くパキスタン・バングラディッシュ等の肉体労働者に大別される。

 一方の上海。こちらは、私の滞在日数がまだ浅いものの、北京オリンピックや上海万博が、国の威信を賭けた大契機となり、社会マナー・サービス態度が大きく向上したのには驚くばかり。右は立つ人、左は急ぐ人に二分されているエスカレーター、「いらっしゃいませ(歓迎光臨)」と笑顔の店員、銀行・公安・税関などの公共カウンターに設けられた「服務員へのサービス態度満足ボタン」などなど、20年前、7年前に訪れたときと比べ、全く別の国である。

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春節の中華街(新加坡)  リトル・インディアの花屋(新加坡)  マレー系マトンカレー(新加坡)


◆日本企業進出の概況◆

 日本人長期滞在者数は、正確な数字の把握は困難だが、ざっくりとシンガポール2.5万人、上海5万人、と言われている。
 また、日系企業の進出の形態・目的として、ジェトロの興味深い調査結果(※)の一部をご覧頂きたい。(ジェトロが、海外に拠点を置く日系企業に質問し、国別に回答をまとめたもの。「上海」独自の調査はないので、「中国」の回答をご参照。)

経営上の問題「雇用・労働面での問題点」(複数回答)

シンガポール
 1位:日本人出向役職員(駐在員)コスト (47.3%)
 2位:従業員の賃金上昇 (45.3%)
 3位:従業員の定着率 (21.4%)

中 国
 1位:従業員の賃金上昇 (62.7%)
 2位:解雇・人員削減に対する規制 (33.9%)
 3位:管理職・現場責任者の現地化が困難 (32.5%)

※『在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2009年度調査)』2010年1月日本貿易振興協会(ジェトロ)海外調査部アジア太平洋課 p16 経営上の問題(3)参照

 シンガポールは、日系企業も東南アジア進出の拠点として、日本人管理職を送り、在シンガポール日系企業のオフィスには、幼少からの戦争を勝ち抜いたエリート・シンガポーリアンが、自信満々で働き、自分の成果を主張し、他によりよい条件を見つけたら、恩も人情も関係無しにポンポン転職していく、そんなイメージが浮かび上がる。(実際、そうであろう。)
 一方の中国は、大都市北京、上海、広州ならシンガポールとも似たようなケースもあろうが、全体で見れば、日系企業にとっては、依然「労働コスト削減のための進出地」の色が濃いようだ。


◆在外診断士としての(わずかな)経験から◆

 私がシンガポールで独立開業していたとき、或る日系研修会社から、日本人駐在員向け財務会計講座の講師の依頼を受けた。その研修会社の意図としては、次の通りである。
 「この不況下、どの日系企業も人員削減で、コストの高い管理職クラスを駐在に出さず、駐在員の若年化が進んでいる。若い駐在員は、英語ダメ、経験無し、もともと営業や技術の担当だったのに、駐在員になった途端、総務・財務・人事も任され、元気もやる気も失っている。ローカルスタッフに聞くにも、エリート・シンガポーリアンから馬鹿にされないか心配で、日本の本社との板ばさみで、孤独に苛まれている。なんとか、基礎の経営知識を日本語で教育し、日本人駐在員に元気になってほしい。」
 私も、どのレベル・分野の話をするのが良いのか、研修会社と事前に何度も打合せを重ね、受講者の事前アンケートを取り、念入りに準備した。極々初歩の決算書の読み方と、分析指標の紹介、さらにチョット実践っぽく、シンガポールの実在の会社の財務分析の「触り」をやってみた。
初 めは緊張した面持ちのビジネスマン達が、まるで呪文が解けたように「次は経営会議に出てもコワくありません!」と笑顔で帰って行かれ、少しは日系企業の「元気化」に貢献できたか、と、ホッとしたものである。
 また、企業経営のコンサルタントも、数件担当させて頂いた。やはり「その業界のプロ」ではあるものの、主に経営・管理部門で「全く知りません」という、典型的な中小企業の管理者に、少しだけ「ポイント」を示させていただき、喜んでいただいた。特に、海外進出に際しては、その国の制度、通貨管理など、調べることと、ルール通りに手続きをこなしていくことだけで精一杯で、「経営理念」「事業方針」「売上計画」など、小規模な企業なら尚更手が回らないのである。
 残念ながら、少しだけ喜んでいただいたクライアントのその後の成長を確認することもなく、上海に来てしまったわけだが、また一からこの大陸での自分の活動の場を模索しつつ、英語と中国語の勉強を続ける日々である。


◆海外進出とコミュニケーション力◆

 シンガポールでの経験はわずかであったが、その中でも今後「アジア系国際派診断士」として、大事にしていきたい課題が確認できた。
 中小企業の海外進出の鍵となるのは、様々な書物等で様々に言われているが、私は一つ挙げるとすれば「現地パートナー選び」であり、その為には「コミュニケーション力(りょく)」が必須であると思う。
 外国語を話すのにシャイな日本人は、間違うことへの恥ずかしさに気をとられ、本当にやりたいことの表現・アウトプットが十分できず、それが相手の誤解を招いたり、チャンスを逃したりすることに繋がっているようだ。
 シンガポールの市場へ行くと、中華系シンガポーリアンのおじさんが、海老を売るのに「ワン・ファイブ、ワン・ファイブ!」と叫んでいる。1キロ5ドル?そんな安い訳ない。横に置いてあった発砲スチロールの箱の値札には、マジックで「$15/kg」と書いてある。ワン・ファイブは15ドルという意味らしい。また、ホーカー(屋台)でマントウや中華菓子を売る中華系シンガポーリアンのおばあちゃん、マトンカレーを売るマレー系のお姉さん、みんな「売ること」が大事で、話す英語は時制も文法も全く無視。"OK"に中国語の完了の「了(ラ)」をつけて「オッケーラ!」と平気で言う。(一説にはマレー語の影響とも。)所謂「シングリッシュ」(シンガポール訛りのひどい英語を揶揄する言葉)より、さらにひどい市場の英語(に、似た言葉)。
 それでも「売りたい」ことが明確で、売れてなんぼ、の彼らに、私は感服すると同時に、「日本人の英語も、初めはこれで良いのだ。」と思えた。

s-マーケットの魚屋(新加坡).jpg     s-ホーカー(屋台)で名物お粥に並ぶ人々(新加坡).jpg
  マーケットの魚屋(新加坡)   ホーカー(屋台)で名物お粥に並ぶ人々(新加坡)


 少子高齢化、景気の低迷を背景に、日本企業は市場を海外に求めざるを得なくなっている。アジア圏も、今やコスト削減のための下請けでなく、市場としての価値が高まっているのは否めない。「語学」としてのコミュニケーション力は、あるに越したことはないが、それよりも、自分とは異なる社会・歴史背景を持つ相手の話を聞き、状況を観察し、その中で自分が「こうしたい」ということを、「自分のことばで」表現する力(思いやりと度胸!)こそ、日本国内でも必要であるが、海外進出には、より一層、要求されるものであろう。
 幸いにして、診断士の資格を持ち、大陸に住み、大陸の言葉を生で学べる私は、シンガポールでの経験を大切に、今度は上海で更なるブラッシュ・アップを試み、それを強みに日系企業のお手伝いにあたりたい。


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