Global Wind (グローバル・ウインド)
10年ぶりのインコタームズ改訂の概要
中央支会・国際部 井村 正規
Incotermsは国際商業会議所(International Chamber of Commerce)が制定する、貿易の基礎条件として使用される貿易条件の統一的な規則です。貿易取引条件についての認識の違いによる誤解や混乱を防止するために利用度の高い取引条件をパターン化しているものです。およそ10年ぶりに改定され、2011年1月1日より発効となりました。
今回のグローバル・ウインドでは、この改訂のポイントと留意点を必要と思われる要点のみ、かいつまんで掲載することといたします。貿易をなさっている診断先・顧問先の企業様からのお問い合わせもあるかもしれないと思い、今回の改訂に合わせて筆をとらせていただくものです。
貿易になじみのない方でもFOBとかCIFという建値は耳にされたことがあるのではないでしょうか?輸送を伴う貿易では売主の工場から買主のお店までものが運ばれるとした場合、どこの時点までの危険(商品に対する責任と言い換えても良いかもしれません)を分担するか及び運賃や保険料、通関等の費用を売主と買主のどちらが負担するのかを決める必要があります。
同じ原価の同一商品であっても単に船に乗せる時点までのFOB価格と運賃・保険料も含んだCIF価格では当然ながら値段は違います。インコタームズは貿易に必要な基礎的契約金額と役割分担を決める一般的ルールといっても良いかもしれません。しかしながら当事者同士の合意に基づいて変更可能なルールでもあります。このため、双方の勝手な思い込みによるトラブルや不要なコスト発生の防止のためにも売買契約書締結の段階で、明確な相互確認を行うべきと考えます。
◆変更の主なポイント◆
①「本船の手すり」の削除
これまでのインコタームズでは引き渡し地点(危険と費用負担の分岐点)を「本船の手すり」を超えた時点と規定していましたが、新しいインコタームズでは引き渡し地点は「船上に置かれた」時となりました。
20年ほど前に、中国であさりの船積みを体験したことがあります。この時には袋詰めされたあさりをクレーンで埠頭から船に乗せる際、クレーンが手すりの上空を通過するタイミングでチンチンとベルが鳴っていました。「ここが分岐点なんだ!」と本で読んで知っていた知識と実際の体験が一致したことに興奮を覚えた記憶があります。
しかしながら厳密に言えば手すりの垂直線上の上空の地点というのは、かなりあいまいであったことも事実です。今回の改訂では、「船上に置かれる」安定した状態を分岐点とすることで、実務に即した変更であると感じます。
②大分類の変更
これまで条件の性格による4グループだった分類が輸送手段に着目した2クラスに変更となりました。大きな変更というよりも使い方の整理の意味合いが強いと感じます。
「いかなる輸送手段にも適した規則」として
EXW・FCA・CPT・CIP・DAT・DAP・DDPの7条件
「海上輸送のための規則」として
FAS・FOB・CFR・CIFの4条件の合計11条件
に分類されています。
これら、11条件についてはご参考までに文末にご説明いたします。
③ターミナルハンドリングチャージへの言及
荷揚げ地(輸入地)でのコンテナターミナルでの物品取扱に関する手数料の負担については、契約に記載がない場合には買主(輸入者)負担とされています。
想定外の費用発生を避けるためにも、売買契約を締結する際にターミナルハンドリングチャージの負担を明記するべきであると考えます。
◆留意点◆
インコタームズは国際的な商慣習としての規則であり、法律でもなく、強制力を伴うものでもありません。常に売買契約の内容が優先されます。
このため、売買契約書上、あるいは裏面約款にIncoterms2000を使用する旨の記載があれば、2011年以降も2000年版のインコタームズを使用することとなります。
今後しばらくの間はインコタームズ2010と2000の混在は避けて通れないと考えており、売買契約を締結する際には輸出者・輸入者間でどちらのインコタームズを使用するか・費用負担をどのように分担するかについて契約の都度、確認してゆくこと必要がありますので、企業様へのアドバイスを差し上げると喜んでいただけるのではないかと思います。
【ご参考:11条件の説明】
●EXW:(Ex Works工場渡)
売主の施設または指定場所(工場、倉庫等)での引き渡しです。車両への積み込みも含めて、引き渡し後の危険と費用の負担は買主となります。
次の3つの条件は運送人への引き渡しまでが危険負担の分岐点ですが、運賃・保険料を含むか否かで価格が変わるものを示しています。それぞれFOB・CFR・CIFと似た条件ですが、引き渡し場所を船上以外にも指定できる点が特徴であり、いかなる輸送手段にも使用可能と位置付けられています。
●FCA:(Free Carrier運送人渡)
買主に指定された運送人への引き渡し場所(コンテナヤード等)までの責任を持ち、輸出通関手続きは売主の義務となります。
●CPT(Carriage Paid to輸送費込)
危険負担の分岐点はFCAと同様ですが、運送契約が売主の義務となり、FCA価格に運賃が上乗せされたものです。
●CIP(Carriage and Insurance輸送費保険料込)
危険負担の分岐点はFCAと同様ですが、運送契約及び保険契約が売主の義務となり、FCA価格に運賃及び保険料が上乗せされたものです。
次の3つの条件は売主が荷揚げ地までの危険を負担する持込渡しであることは共通で、荷降ろし費用・輸入通関の責任分担による違いがあります。
●DAT(Delivered At Terminalターミナル持込渡)
輸入地の指定ターミナルで輸送手段から荷降ろしされ買主の手にわたるまでが売主の義務となります。荷降ろしの責任は売主、輸入通関の責任は買主です。
●DAP(Delivered At Place仕向地持込渡)
危険負担はDATと同様ですが、荷降ろしの責任と輸入通関の両方が買主の責任となります。
●DDP(Delivered Duty Paid関税込持込渡)
危険負担はDATと同様ですが、荷降ろしは買主、輸入通関は売主がそれぞれ負担します。
最後の4つの条件は比較的なじみのある名称ですが、インコタームズ2010では海上輸送及び内陸水路輸送のための規則と明記されており、コンテナや航空機を使用する輸送には適さない整理が改めてなされています。これらの条件は先に例にあげたあさりの船積みのように、実際に船上に貨物が置かれた時に危険が分岐するような場合の条件と考えるべきでしょう。これはコンテナや航空貨物の場合には、貨物の引き渡しが「船上に置かれた」時ではなく、ターミナルでの運送人に引き渡すという実務に即した状況があり、コンテナや航空貨物の場合にはFCA・CPT・CIPを使う方が、引き渡しによる貨物の危険分岐の実態に即していると考えられているからです。
●FAS(Free Alongside Ship船側渡)
買主によって指定された本船の船側(埠頭等)に物品が置かれた時が危険負担の分岐点です。輸出通関は売主の義務です。
●FOB(Free On Board本船渡)
買主によって指定された本船の船上に物品が置かれた時が分岐点です。輸出通関は売主の義務となります。
●CFR(Cost and Freight 運賃込み)
危険負担の分岐点はFOBと同様です。費用負担に関してはFOBに運賃が上乗せされます。以前はC&Fと呼ばれていたものです。
●CIF(Cost, Insurance and Freight運賃保険料込)
危険負担の分岐点はFOBと同様です。費用負担FOBに運賃および保険料が上乗せされたものとなります。