城和 広之
政府による事業仕分けの際の「二番じゃダメなんですか?」という発言や最近の世界最速「京」コンピュータというのですっかり有名になったスーパコンピュータ、いわゆるスパコン。パソコンなどの一般的なコンピュータと比べて、極めて演算処理が高速なものを指す。
スパコンは、天気予報や中長期的な気象研究、航空機の設計、原子力や高エネルギー分野でのシミュレーションなどに使われてきた。スパコンが速くなれば、それだけ処理速度が短縮して計算結果が早く分かる。また、これまでより短時間で緻密な計算を行うことができるため、正確なシミュレーションが出来るようになる。スパコンは、こうした分野で大きな成果をあげ、我々の生活をより豊かで快適なものにするのに一役買ってきた。また、今後も様々な分野で大きな役割が期待されている。
日本が今後も世界トップクラスの科学技術力、産業競争力を維持・向上させていくためには、特に世界最先端のスパコンはなくてはならない。産業のコメといわれる半導体で新材料を研究したり、ライフサイエンス分野における新薬の開発、自動車の衝突解析などに使われる。こうした分野では、最先端のスパコンにより研究開発から製品化・市場投入までの期間が短縮されコストダウンに繋がることが期待できる。つまり、最先端で世界一のスパコンを使えてこそ、時間的なアドバンテージが得られ、タイムベース競争戦略を優位に展開できるのだ。
ただし、いまの所最先端のスパコンの用途が限られているのも事実であり、国の研究機関や大学の一部の研究者と一握りの大企業の研究部門で使われているだけである。メーカーにとっては、市場が限定的なこともあり、また、他のビジネスへの展開にすぐに結びつかないため、金食い虫でもあるのだ。従って、事業としての採算性を考えると最先端のスパコンを継続して開発していくのは非常にハードルが高い。
日本でスパコンを作るのをやめて、海外(アメリカ)から輸入すればすむのではないかという議論もある。しかしその場合、アメリカの後塵を拝すことを覚悟せねばならない。最先端のスパコンは科学技術や産業用だけでなく、安全保障面でも重要な役割を担っているため、そうした戦略物質をたとえ同盟国であっても、やすやすと輸出するはずはないからである。
日本で作るのをやめアメリカから輸入するとしても、最先端のものが手に入るとは限らない。それは、時間と戦っている最前線の研究者や科学者たちからアドバンテージを奪っていくのだ。
世界のトップを目指す研究者・科学者たちが、事業仕分けの発言に敏感に反応し、資源のない日本がこれまで通り科学技術立国を掲げることを変えてはならない、世界一のスパコンを目指すことは国家として必要だと結集したのはこうした背景によるものである。
遅ればせながら、スパコンの産業利用をもっと拡大していこうという動きが出てきた。これまで中小企業においても、製品設計などでスパコンによるシミュレーションを取り入れることで、開発期間の短縮やより精度の高い設計が行うことが指摘されてきた。
一部の大学では、民間との共同研究を行いスパコンの利用を促している。また、クラウドコンピューティングにより、自らは資産を持たなくても、スパコンを利用することが可能になってきている。これまで大学や研究所に蓄積されてきたスパコン活用のノウハウも、民間に活用されつつある。
スパコンは、科学技術力、産業競争力を維持・強化するための象徴的な道具である。中小企業においても、スパコンを使って自らの競争力を向上させることができつつある。
■城和 広之(しろわ ひろゆき)
中小企業診断協会東京支部中央支会理事
中小企業診断士