社団法人中小企業診断協会東京支部 中央支会
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専門家コラム「中小企業における内部統制の必要性」(2011年12月)
佐藤 裕二


【内部統制の現状】

 内部統制という言葉を聞くことが多くなった。会社法の改正に加えて金融商品取引法が施行され、財務報告に関わる内部統制について、上場企業は整備・評価を義務付けられ、内部統制報告書を提出しなくてはならなくなった。上場企業は構築された内部統制、そしてその運用を評価し、また評価され、有効と判定されなくてはならない。

 米国ではエンロン、ワールドコム等の企業会計不祥事をうけ2002年に企業改革法(SOX法と呼ばれる)が成立した。日本でも、雪印食品や三菱自動車工業の企業不祥事や、西武鉄道による有価証券報告書の虚偽記載、カネボウやライブドアの粉飾決算等が発覚し、2006年5月に『会社法』が改正、7月に『金融商品取引法』が施行され、それぞれ内部統制について規定された。

 そしてまた、オリンパス、大王製紙という大企業の不祥事は、日本国内にとどまらず、世界を騒がすことになっている。

 金融商品取引法は日本版SOX法(J-SOX法)と呼ばれる。重要な企業情報が公開されていないと、さまざまなステークホルダー(利害関係者)にマイナスの影響を与えるため、上場会社を対象に「企業内容等の開示の制度」を構築するものである。

 そして2009年3月期には多くの上場企業が初めて内部統制報告書を提出した。米国のように内部統制の重大不備があるとした企業は少なく、内部統制報告書で有効の評価とならなかったのは初年度2.4%、2年目0.9%、3年目0.3%となっている。しかし各社の内部統制構築のための費用負担は大きく、また運用テストなど評価に時間と労力がかかっているという意見が多いなか、金融庁は簡素化・明確化を意図した実施基準の見直しを行い、2012年4月以降に開始する事業年度から実施することとなった。制度の趣旨・ねらいにそぐわない運用の是正であり、真にリスクのあるところを明確にして行こうという改訂である。

 オリンパスと大王製紙の不祥事の影響としては、財務に係る内部統制の問題ではなく、企業のガバナンス・コンプライアンスの問題として、社外取締役の選任、監査役機能の強化といった視点で論議されている。


【内部統制とは何か】

 内部統制には会社法で規定されている広義の内部統制と金融商品取引法で必要とされる狭義の内部統制(財務に係る内部統制)の2つがあり、意味を混同することも多いので、注意したい。

 『会社法・会社法施行規則』では「内部統制」は広義で使われ、企業全体のガバナンス(統治)、コンプライアンス(法令遵守)、各種のリスク管理(危機の予防、察知、対応)等を徹底できる体制構築を求めている。狭義の「内部統制」は『金融商品取引法』の財務報告に関わる部分に限定して使われている。この法律は、企業情報開示を目的としており、財務報告にかかる内部統制の整備・評価を義務付けている。

 小規模な会社では経営者が全ての判断を行い、従業員も全て把握できるが、規模が大きくなると難しくなる。そのため権限を委譲し役割分担を決め、事故を予防するためのルールが必要になる。この「ルール」が「内部統制」といえる。

 外部の人間に管理されるのではなく、会社内部で統制が取れる状態を作り、維持する、健全な会社経営をしていくための仕組み・手法が「内部統制」である。社内のだれかが起こした不祥事は会社全体の不祥事であり、経営者はどこかの国の政治家のように、「部下(秘書)のやったこと!架空取引(母からの献金)は知らなかった!」では済まなくなった。


【内部統制の目的】

 内部統制には4つの目的がある。1,業務の有効性及び効率性2,財務報告の信憑性3,事業活動に関わる法令遵守4,資産の保全である。さらにこれらは6つの構成要素から成り立つ。1,統制環境2, リスクの評価と対応3, 統制活動4, 情報と伝達5,モニタリング(監視活動)6, ITへの対応である。


【内部統制の実践】

 内部統制を分かりやすく表現すると「業務の見える化」となる。内部統制の実践においては、この「見える化」というのは業務を「文書化」すると言いかえることができる。業務フロー図・業務手順書・RCM(リスクコントロールマトリックス)という三点セットを作成するのである。必須ではないが、必要なものということになる。

 上場企業はこの「文書化」の膨大な作業(ちなみに弊社グループで、A4サイズ換算16000ページ)をしなければならず、さらに毎年PDCAサイクルで見直す必要がある。

 しかしこの作業こそが、目的の一つである業務の有効性及び効率性につながる。企業において、どのような業務があり、どのように作業が流れているかをチェックしていくと、責任者が承認しないで作業が進行している(不正・誤謬につながりやすい)とか、かならずしも必要でない作業を実施している(ムダ)、などという事例が発見されるのである。これを是正していくことも内部統制なのである。


【中小企業における内部統制】

 金融商品取引法における「財務に係る内部統制」の構築・評価、内部統制報告書の提出は非上場の中小企業においては必要ない。しかし会社法における内部統制を構築しなければならないのは、上場企業に限ったことではない。

 中小企業でも社内の業務について、業務の「見える化」を実施することにより、有効性及び効率化を図ることは企業の体質を強化するために重要なポイントである。

 中小企業は様々な業務において、個人の能力・知識に頼りすぎていることが多い。それは経営者であったり、経理部長であったり、社歴の長い事務員の女性だったりするわけだが、業務の内容や流れが共有されていないため、その人が欠けると業務に大きく支障が生じることになる。業務の見える化=文書化がされていれば、他の人が替わって執行できることになる。

 また、不正や誤謬をなくすためには、職務分掌や職務のローテーションが重要であることはわかっていても、中小企業のように社員数が少ないなかで実践することは非常に難しい。業務を文書化すると、業務の内容が明らかになり、その中でどこが重要な部分がわかり、どの作業のリスクが大きいかが明確になる。そしてそのリスクを小さくするためのコントロール(数字のクロスチェック・処理日付の記入・上長の承認証跡など)を実践するように規定していくのである。

 当初は負担が大きいが、一度構築してしまえば、変更したところだけをチェックしていくだけで長期間の運用が可能になる。

 それ以外にも、上場企業の仕事を受託する場合、その仕事が委託企業にとって「財務に係る」業務であると、上場企業としては委託業務の内部統制評価が必要になる。その流れで、一般的に上場企業と取引する中小企業においても、「財務に係る内部統制」が構築・運用されているか問われたり、官公庁の調達において、納入企業の内部統制の環境の整備が条件とされるという可能性も考えられる。

 今後ITの新規導入やITによる業務改革を進める場合などには、内部統制の視点を加えて業務フローを考えると、ITの部分だけでなく、内部統制の目的にもかなった効率化を図ることが出来ることになるので、ご留意いただきたい。
 
 
 
■佐藤 裕二(さとうゆうじ)
中小企業診断士・社会保険労務士・公認内部監査人(CIA)
中央支会理事・会員部副部長
(株)学研ホールディングス 内部統制室主事
E-mail:fwks5547@mb.infoweb.ne.jp


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