Global Wind (グローバル・ウインド)
経済急減速?バブル崩壊?中国はどこに向かってゆくのか

中央支部・国際部 井村 正規

 今回のグローバルウィンドは少し趣向を変えて、2015年6月23日に開催された第13回中央支部国際部サロンでの掲題講演内容を当日出席できなかった会員の方にもご覧いただくことを目指したものです。
【日本人vs中国人】
 さて、下の絵は何に見えるでしょうか?
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 実は桃とココナッツの模式図です。桃は皮が薄くてすぐ果肉に到達できますが、種は硬くてちょっとやそっとでは、その中心には入れません。一方ココナッツは殻が硬くてなかなか割れませんが、一旦割れると中心まですぐに到達できます。
 これは日本人と中国人の性質の違いを表現しています。
 桃に例えた日本人は初対面の方にもすぐ心を開いて友達になることができるが、自分の本当の内面まで他人が入りこませることは非常に難しい。一方でココナッツである中国人は、面識の無い他人には当初興味をもちませんので、日本人のように誰とでも仲良くなることを求めていません。ただし、一旦仲良くなると家族や兄弟と同様の扱いをするようになります。
【ホフステッドの国民性研究】
 オランダのグールト・ホフステッドは様々な国の文化(国民性)を定量的に測定し、指数化しようと試みました。ホフステッドは米IBMの世界40カ国11万人の従業員に行動様式と価値観に関するアンケート調査を行い、 1980年にはその国の文化と国民性を数値で表すことのできる「ホフステッド指数」を開発しました。
 今回はホフステッド指数の中から4つの指数について中国・日本・アメリカを比較してみました。
 比較した指数は
1) 権力に対する容認度:どれだけ上の人の言うことに従いやすいか。
2) 個人主義度:どれだけ集団から離れて個人での活動を貫きやすいか。
3) 男らしさ:難しい表現ですが競争に対する意識の強さと説明されています。反対の女性らしさの場合には協調・協働の意識が強いとされています。
4) リスク回避に対する選好度:リスクを回避する傾向が強ければ強いほど高い数値を示します。
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           中国・日本・アメリカのホフステッド指数比較
           出典:http://geert-hofstede.com/china.html
 顕著に出ている傾向として、まず中国人は権力に対して弱い。上が言ったことには従います。次に個人主義度では極めて低い結果となっています。意外に感じる方も少なくないかと思いますが、中国人のFamilyに対するロイヤルティは極めて強いです。同様に中国という国に対する忠誠心も強い。また中国人同胞という意識も極めて強く、強烈な集団主義傾向があると考えられます。
 日本に来日する中国人観光客のマナーの悪さを見て個人主義ではないかと思われる方もいらっしゃるかと思いますが、この点では先にご説明したココナッツ型の人たちですので、自分と関係のない場、ココナッツの殻の外側には興味がないと説明できるかと考えます。
 一方日本人はリスク回避を好む傾向が強い。私の職場でもコンプライアンス問題を発生させないようにがんじがらめのルールを策定していますが、日本人以外このルールをきちんと守ることは難しいのではないかとも感じます。この項目では中国人はアメリカ人よりもリスクを取るという結果が出ています。中国系企業の意思決定の速さを思い浮かべると納得できる結果のように思います。
【ここ30年間の中国】
 私は1989から90年に大連、2001年から07年にシンガポール⇒香港⇒北京、2012年から15年に北京⇒上海に駐在する機会を得ました。中国はこの30年間で、ものすごい発展を遂げています。下表は1980年からの日本と中国のGDPの推移をグラフとしたものです。丸で囲ってある部分は私が駐在していた期間を示しています。本日のお話はこの3時点を中心に中国がどう歩み、これからどこに向かってゆくのかをお示しできればと思っています。
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                   日本と中国のGDP推移
【1990年頃の中国】
 まだまだ貧しい時代でした。乗り物は自転車中心。服はほぼ全員が着た切りの人民服を着ていました。現在高層ビルの立ち並ぶ金融街になっている上海の浦東地区は、当時は水族館があるだけの緑多い公園で上海の小学生たちの遠足の場所となっていたようです。
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           1990年の浦東                  現在の浦東
   出典:中国(上海)自由貿易試験区HP          上海市政府HP
 この時代の中国のリーダーは鄧小平。人物としての良しあしは別として、国益を伸ばすという意味では極めて優秀な政治家だったのだろうと思います。共産主義・社会主義の世の中で「白い猫でも黒い猫でもネズミを捕る猫が良い猫だ」「富める者から先に行け」という発言はセンセーショナルでもあり、国有だった土地を70年のリースという縛りはつけながらも私有制を認めたことは中国を成長へと大きく転換させたものと理解しています。
 また、香港返還という領土問題の解決を仕切ったのも鄧小平です。なんとなく99年の租借期限が切れたからと曖昧に記憶していたりするものですが、香港島は1842年アヘン戦争により、九龍半島は1860年のアロー号戦争によりそれぞれ中国から英国に「割譲」された明確な英国の領土でした。99年間租借されていたのは香港・九龍と中国領土との緩衝地帯である新界(New Territory)と言われるベルト地帯のみです。1982年に訪中した当時のサッチャー英国首相に対し、鄧小平は租借延長の拒絶のみならず、香港・九龍の返還を求め、応じない場合には人民解放軍が武力で占領すると恫喝したと噂されています。中国では「鉄の女」が「鋼の男」にひれふしたと言う人もいます。サッチャー元首相自身が自分の政治的最大の失敗はこの時の英中共同声明への署名だと回顧しています。
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                         鄧小平
【鄧小平後2012年までの中国】
 鄧小平が築いた基盤から華やかな発展を遂げた時代です。当時のリーダーは江沢民と胡錦濤。個人的な印象ですが、鄧小平と比べると少々小粒に見えてしかたありません。彼らは単に鄧小平が作ったエスカレーターに乗っていただけなのかもしれません。
 しかしこの間、中国は大きく経済発展してゆきます。中国には安い労働力が大量に存在していましたので、これを使ってくれる外資の誘致を進めました。二免三減と言われる外資に対する税制面の優遇策は有名です。2年間法人税を免除し、その後の3年間は減税するというものです。特に設備投資の大きな製造業にとっては創業から黒字化するまでの間に税優遇があるという制度と大量の労働者を格安で雇用できる環境は非常に魅力的でした。
 中国には世界中から特に製造業を中心に進出が急増し「世界の工場」と言われるようになったことはみなさんの良く知るところです。
 2007年の北京オリンピックで首都北京の再開発は大きく進み、2008年のリーマンショックも4兆元の財政出動で乗り越え、2010年には上海万博を成功させますが、この急成長にはひずみという痛みも伴いました。大気や環境の汚染、フェラーリを乗り回す超大金持ちの横ではその日が暮らせない人々が大量に存在する極めて大きな格差社会が生まれてしまいました。社会主義国家なのに・・・。
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                     江沢民・胡錦濤
【直近の中国】
 現在、中国人の所得は大きく上昇しました。工場の労働者の給与も以前と比べモノにならないくらい上昇しています。一般的な中国人が日本に来て爆買いできるレベルになっています。こうなると安い労働力を重要要素として構築されてきた世界の工場というビジネスモデルは既に時代にそぐわないものとなりつつあります。一方で中国は爆買いできるお金を持った人々が大量に住む「世界の市場」に変化しているところです。
 中国政府自身が経済構造改革として労働集約的な第2次産業から付加価値の高い第3次産業へのビジネスモデルの転換を推進しています。
 また、これまでのようなひずみを伴う急成長はもう必要なく、持続的な安定成長を求めています。減速したとはいえGDPは7%の成長を遂げています。北京にある日本の政府系金融機関に勤める私の友人から「実質GDPは7%でも名目GDPは10%の成長となっていて、これはインドネシア(名目GDPがちょうど中国の1/10)が毎年ひとつ生まれていることと同義である」と興味深いことを教えてくれました。
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                         習近平
【中国はどこへ向かってゆくのか】
 さて、中国という国は極めてわかりにくいとおっしゃる方が少なくありません。私たちは日本という民主主義の国で生まれ育ったため、選挙によらずにリーダーが決まって、リーダーが思うままに権力をふるって国を運営してゆく中国に対して違和感を覚えてしまうかもしれません。私は中国を考える時には国ではなくて一つの大きな会社であると考えるようにしています。社長は後継者を自分の意思で決め、従業員(国民)は社長の鶴の一声で右にならいます。社長の発言に多少の矛盾があっても、全体として良い方向に進んでいるのであれば、文句も言わずに仕事にまい進します。社長はなかなか末端の関連会社(地方政府)まで目が行き届かなかったりするのですが、赤字関連会社のスクラップアンドビルドを繰り返して、全体としての連結利益を成長させようと努力していたりするわけです。
 中国はこれまでは中国独自のルールで国を発展させてきました。中国は発展途上国なので国際ルールにはそぐわないという言い訳で為替を動かし、法律を変え、なかなか対応が難しい国という印象をもたれています。ただし、今のリーダーである習近平は中国を国際ルールに対応できる国に変えてゆこうとしているように感じます。 経済構造を変革し、金融を自由化し、法体系を整備することにより、国際社会の中で欧米や日本と変わらない世界をリードする「本当のトップ先進国」になりたいと考えていると思われます。その結果として中国の国民のために格差の小さい調和のとれた国造りをしたいと考えています。振り返ってみれば中国はアヘン戦争から現代までの約200年を除けば、常に世界のトップの先進国であったわけです。習近平は自身の就任演説で繰り返し中国民族の復興を唱えました。これを「中国の夢」として語っています。中国が「本当のトップ先進国」になる日が訪れるとすれば、習近平は鄧小平以来の極めて優秀な政治家として後世に名を残すことになるでしょう。
■井村 正規(いむら まさのり)
1962年生まれ
慶応義塾大学法学部政治学科卒
総合商社勤務
大連,NY,シンガポール,香港,北京,上海駐在
2010年診断士登録
中央支部国際部
マスターコース「経営革新のコンサルティングアプローチ」運営団体BCNG副幹事
「中小企業診断士一発合格道場」創業(ハンドルネームJC)
北京診断士会設立/上海診断士会