山本 修

1. はじめに
 2013年は、新しい時代の始まりとも云われており、経済・社会システムの変革が多くの方にとって、目に見える形になってくる年だと考えています。具体的には、消費税増税、原発の再稼働、TPP加盟交渉開始などの問題に直面することであり、多くの個人にとって、混迷や危機感を強めるものとなるでしょう。
 その中の1つであるTPPにより大きな影響を受ける農業問題、すなわち食料自給の問題が、これから注目されると想像しています。日本の食料自給率(カロリーベース)は、戦前は90%近くであったものが、戦後から急速に自給率の低下が進み、1990年代には50%を下回り、現在では39%という低水準です。さらに、穀物自給率でみると30%未満という状況です。TPPによる強制的な開国で食料の外国依存度がさらに高まると、経済危機や地域紛争発生時に食料供給が確保できなくなるリスクが高まり、「食料安全保障」の観点から大きな問題を内包していると考えています。
 この食料の安定的確保の問題に関しては、震災後の政府の、国民の生命・安全に対する対応を鑑みても、政府に頼っているだけでは不十分であると考えています。そこで、個人や企業がこれからの混迷の時代に備え、生き抜く方策として、「半農半X」と呼ばれるコンセプトについて、ご紹介したいと思います。
2. 「半農半X」とは
 「半農半X」というコンセプトは、農業に興味を持つ方を中心に、近年注目されています。これは、京都府の塩見直紀氏が1990年代半ば頃から提唱してきたコンセプトで、自分や家族が食べる分の食料は「小さな自給農」でまかない、他の時間を自分のやりたい仕事「X」を行い、生活する上での収入源とするという生き方です。
 「小さな自給農」というのは、大規模な農業に対して東アジア的な小さな農、家族の自給程度の農、持続可能性を大事する農ある暮らしを意味しています。また、「小さな自給農」の大きさとしては、農薬に頼らないで育てられるサイズがポイントになるとのことです。この半農半Xは、サラリーマンなどの都市生活者の中で、農業に興味があるが、いきなり就農することは難しいと感じている人の間で注目されています。少しずつできることから農業体験を積んで、ゆくゆくは農業に関わって行きたいという人達の共感を集めているのです。
 なお、塩見直紀氏は、半農半X的な生き方に興味をもったら、5年以内にアクションを起こせるよう、好きなこと、大事なことにエネルギーを注力してほしい、と著書で語っています。
3. 企業と「半農半X」
 この半農半Xというコンセプトは、もともと個人の活動を念頭にしたものではありますが、私は企業経営者の方にこそ、興味を持って頂きたいと考えています。半農半Xは、多くの都市生活者に農業に取り組んでいって欲しいというコンセプトではありますが、やはり、「半X(生活する上での仕事・収入源)」の確保が問題になります。サラリーマンの人が、いきなり仕事をやめて、半農半Xへ急に転身しても、この「半X)」をすぐに確立するのは容易ではありません。
 そこで、個人という単位ではなく、企業が農業へ参入していく動きの方が容易なのでは、と考えています。企業の場合は、すでに「半X(現在の主力事業)」はあるため、新たに「半農(農業事業、農業法人)」に取り組めば良いので、個人よりは容易に参入できるはずです。この企業版の半農半Xは、企業の経営者・会社の本当の役割の1つである、社員の生活を守るという観点からも矛盾するものではありません。
 総務省の「緑の分権改革」の改革モデルとして紹介されていますが、企業が人事制度や福利厚生制度のあり方を考えていく中で、中高年社員に対する生きがいの確保や第二の人生の充実などを念頭においた、企業主体の「二地域就労」という取り組みがあります。この二地域就労は、都会の企業が地方で事業を起こし、社員が都会と地方の二地域で働き、居住するという取り組みです。つまり、企業の新規事業への参入や雇用調整、多様な就労体系の創出や社員の生きがいづくりといった「企業活動」と、地域資源の活用による「地域の活性化」をつなげようとする取り組みです。
また、パソナの「農援隊」、クボタの「クボタeプロジェクト」など、社会貢献活動としての農村交流に取り組む、全国的な企業も出始めています。
 このような観点から、多くの企業に半農半Xというコンセプトを知ってもらい、企業主体の半農半X活動が拡がっていくことが、これからの日本の社会の安定や幸福度の向上のために望ましい、と考えています。
【参考文献】
 『半農半Xという生き方』塩見直紀(2008年、ソニー・マガジンズ新書)
 『半農半Xの種を捲く』塩見直紀と種まき大作戦(2012年、コモンズ)
 『緑の分権改革』椎川忍(2011年、学芸出版社)
 
 
 
■山本 修
 中小企業診断士