高野 武彦

 ご存知の方も多いでしょうが、去る2月1日に『中小企業の会計に関する基本要領(以下中小会計要領)』が、公表されました。
 中小企業に関わる統一的な会計処理ガイドラインとしては、会社法成立を機会に平成17年8月に『中小企業の会計に関する指針(以下中小会計指針)』が、公表されています。中小会計指針の目的は、中小企業が計算書類を作成するに際して、拠ることが望ましい会計処理や注記等を示すものであるとされ、中小企業がこの指針に拠り計算書類を作成することが推奨されていました。
 しかしながら、中小企業向けといわれながらも中小会計指針は「望ましい会計処理や注記等を示すものであること」とか「一定の水準を保ったものであること」とされたため、有価証券の評価や退職給付会計等については、大企業並みに企業会計基準が多く取り入れられています。このため、中小企業経営者にとって高度で難しく理解しにくい、あるいは中小企業の商慣行や会計実務慣行の実態に即していないのではないかという声が聞こえていました。
 こうしたことから、中小会計指針よりも簡便な会計処理や実際の会計処理に近い新たな会計ガイドラインの作成を求める声が寄せられていました。そこで中小企業庁や中小企業会計の関係者等により新たな中小企業向けの会計処理のあり方が検討されてきた結果、今般、『中小企業の会計に関する検討会』において中小会計要領が取りまとめられ公表されたものです。本検討会では、今回、中小会計要領が策定されたことから、今後はこの中小会計要領普及・活用をいかに進めていくかが喫緊の課題であるとしています。
 以下に中小会計要領の目的等をかいつまんで記載します。
1.中小会計要領の目的
(1)
中小企業の多様な実態に配慮し、その成長に資するため、中小企業が計算書類を作成する際に参照するための会計処理や注記を示すもの。
(2)
中小会計指針に比べて簡便な会計処理が適当と考えられる中小企業を対象にしており、実態に即した会計処理をめざすべく以下の考え方に立っている。
・中小企業経営者にとって、理解しやすく、自社の経営状況の把握に役立ち経営に活用できること
・金融機関、取引先、株主等への情報提供に資すること
・実務慣行を十分考慮し、会計と税務の調和を図っていること
・計算書類の作成負担を最小限にとどめ、中小企業に過重な負担を課さないこと
2.中小会計要領の利用が想定される会社
 金融商品取引法の規制の適用対象会社や会社法上の会計監査人設置会社を除く株式会社が想定されている。
 また、特例有限会社や合名・合資・合同会社も中小会計要領を利用できるとされている。
3.企業会計基準や中小会計指針との関係
 もっとも基本要領の利用が想定されている会社(中小企業)が、企業会計基準や中小会計指針に基づいて計算書類を作成することを妨げるものではない。
4.国際会計基準との関係
 中小会計要領は、安定的に継続利用可能なものとする観点から、国際会計基準の影響を受けないものとする。
5.記帳の重要性と留意事項
 経営者が自社の経営状況を適切に把握するために記帳が重要である。記帳はすべての取引につき、正規の簿記の原則に従って行い、適時に、整然かつ明瞭に、正確かつ網羅的に会計帳簿を作成しなければならない。
 また、以下の考え方に留意する必要がある。
・真実性の原則
・資本取引と損益取引の区分の原則
・明瞭性の原則
・保守主義の原則
・単一性の原則
・重要性の原則
 なお、中小会計要領の構成は、Ⅰ.総論、Ⅱ.各論、Ⅲ.様式集となっています。詳しくは、基本要領を公表している中小企業庁、日本商工会議所、企業会計基準委員会や金融庁のホームページをご参照ください。
■高野 武彦
中央支会