鳥居 経芳

 ナノマテリアル・・・一般的にはまだまだ耳慣れない言葉ではあるが、技術の進歩に伴い製造業において、ナノオーダー(1nm=0.000001mm)の大きさの粒子を製造、他取り扱う事例が増加している。例えば身近な例であれば、小麦粉の粉の1粒はおおよそ直径50μm(0.05mm、品種により異なる)であるが、これのさらに千分の1:50nmがナノマテリアルの世界である。ナノマテリアルについては民間企業においてはその規模を問わず、また大学を始めとする各種研究機関においても日々扱われ、改良され続けている。その結果として、多くの電子デバイスの小型化・省エネ化をはじめとする技術革新が生み出されてきた。
 ナノマテリアルは、その小ささからこれまでにない機能・特性を示すことが多く、それに伴い体内に取り込まれることによる生体への影響が懸念されている。通常こういったナノマテリアルに起因するリスクについて「ナノリスク」と呼称される。が、どういったナノマテリアルがどのような状況にあったときに人体に悪影響を及ぼすのかは未だ明確にはされておらず、多くの研究機関において代表的なナノマテリアル(カーボンナノチューブ等)について調査・研究が進められているのが実情である。しかしながら、このようなナノマテリアルを取り扱うなどの作業を行う事業者については、以下に記載している様な情報の収集・把握を常に行い、そのナノマテリアルが何か、製造量等を踏まえたうえでリスク評価・管理に関する取り組みを行うことが期待されている。
 現在、ナノリスクに対する対応策としては、平成21年3月31日厚生労働省労働基準局よりだされた「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について」(基発第0331013号)が挙げられる。(http://www.jniosh.go.jp/joho/nano/files/mhlw/Notification_0331013.pdf)
 本対応策において、予防的アプローチの考え方に基づき、ナノマテリアル等の製造、これを取り扱う作業、及び廃棄・リサイクル作業における曝露防止等の対策として作業環境管理、作業管理等について記載されている。
 併せて、環境省からは「工業用ナノ材料における環境影響防止ガイドライン」が、
(http://www.env.go.jp/chemi/nanomaterial/eibs-conf/guideline_0903.pdf)
経済産業省においても、ホームページに「ナノマテリアルの安全対策について」と題し関連する情報を掲載している。(http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/other/nano_index.html)
 また、独立行政法人労働安全衛生研究所のホームページ中に「職場におけるナノマテリアル取扱関連情報」という題目で特設ページ(http://www.jniosh.go.jp/joho/nano/)が設けられており、海外の情報も含めて見やすく纏められている。このほか、粉体に関する団体である一般社団法人日本粉体工業技術協会(http://www.appie.or.jp/)においても、ナノリスクに関する委員会を設け、ナノマテリアルの曝露防止対策ガイドライン(案)を作成しセミナーを度々開催するなど、ナノマテリアルを取り扱う実際の作業・環境上における問題、及びその対応への一助となる情報の発信に努めている。
 上記は日本国内で普通に得られる情報の一部でしかないが、海外においても日本国内と同様に、EU各国、米国を中心として各国毎にナノリスクへの対応を目的とした取り組みがなされており、年々変更が加えられている。ナノマテリアルに関係する事業の場合、国内外問わずの取引となることも多く、相手国における制度・取り組みについての情報を収集することも事業リスクの低減の意味では重要である。
参考資料
1.一般社団法人日本粉体工業技術協会
 「ナノ物質曝露防止技術セミナー(粉体工業展大阪2011)」
2.社団法人日本粉体工業技術協会
「ナノ粒子の安全な取扱に向けて 『ナノ粒子曝露防止技術』『管理技術』の基礎と実際
-シンポジウム(平成21年2月6日)」
3.厚生労働省労働基準局
「ナノマテリアルに対するばく露防止等のための予防的対応について」(基発第0331013号)
 
 
 
■鳥居 経芳
中小企業診断士