姫野 剛慶

 
 リーダーシップという言葉には多くの解釈があり、状況やメンバーによっても異なりますが、私はリーダーシップとは「組織目標の達成に向けて、メンバーや周囲を巻き込んでゆく対人影響力」と考えています。では、リーダーシップを発揮するための対人影響力とは、どのようなものでしょう。アメリカの社会心理学者ジョン・フレンチとバートラム・ラーベンは、それは「正当権力」「報酬力」「強制力」「専門力」「同一視力」の5つで構成されているとしています。
 この理論を基に、部下や周囲に対人影響力を発揮するためのポイントを考えてみます。
1.上司は上司らしく【正当権力】
 正当権力とは、公式に認められた地位や立場から生じる力です。「なぜ上司の指示に従うのか?それは相手が上司だから」といったものであり、組織の根幹を支える力です。
上司であれば当然備わっている力ですが、この力だけを頼りに一方的に権力を行使しても組織力は向上しません。かといって、「物分かりの良い上司」「人情味のある上司」として部下や周囲との人間関係ばかりを重視していても結果は同じでしょう。
 どんな上司であれ、大切な場面で上司らしさを発揮できる上司でなければなりません。
これは、内部だけでなく外部に対しても同じです。
そのためには上司としてのビジョンと自覚をしっかりと持ち、それを部下や周囲に示す事が正当権力発揮の土台となるでしょう。
2.仕事ぶりを評価する【報酬力】
 報酬力とは、報酬を与えることで相手への指示、命令や依頼を受け入れさせる力です。
報酬というと、部下には昇給、昇格やボーナス、関係者には取引量の拡大、取引期間の延長や資金援助など金銭的なものが浮かびますが、それだけではありません。相手が喜ぶものは全て報酬だと考えれば他にも沢山あるはずです。部下や関係者が欲しいものは何か、その中で自分が与えられるものは何かを考え実行することは相手との関係を良好にし、更に相手のモチベーション向上にもつながると思われます。
 身近な報酬としては「褒める」ことが挙げられます。部下や関係者の仕事ぶりをしっかりと見て、良い点があればすかさず褒めたり感謝を述べたりすることも報酬力の発揮と言えるでしょう。
3.きちんと叱る【強制力】
 強制力とは、失敗や反抗に対して罰を与え従わせる力です。部下には人事評価による減給、降格や左遷、関係者には取引停止や値引き要請、訴訟などが考えられます。しかし、それらの行使は部下のモチベーション低下や関係者との軋轢につながるので注意が必要です。日常的には、部下には「きちんと叱る」関係者には「きちんと要請する」という態度を明確に示すことも強制力の発揮と言えるでしょう。
 最近、部下を叱れない上司が増えているそうで、顔を見て叱れないのでメールで叱る上司もいるようです。しかし、メールでの文章だけの叱責は言葉が強く伝わり過ぎるので相手との関係性を損なう危険があります。関係先への要請も同様です。
4.専門性を極める【専門力】
 知識や技術などの専門性を持つことで、部下や関係者からの信頼を得る力です。
本来は高い専門性を持つ相手から受ける力であり、範囲も限定的と考えられていますが、ビジネスの現場ではもう少し広く応用できるでしょう。
例えば、マネージャーには「決断力」「判断力」「折衝力」「統率力」「問題解決力」など必要とされる能力は沢山ありますが、それ以外にも「○○○に関しては敵わない」といった業務上の専門性を持つことは「一目置かれる存在」となり周囲への影響力をより強くすると思われます。また、業務を離れた後でも、あるテーマに興味を持ち続けて学んだり訓練したりする事は、周囲への自己啓発を促す効果もあるでしょう。
5.人間性を磨く【同一視力】
 同一視とは、ある人物の態度や価値観を理想像として受け入れ、それを自分に取り込もうとする心理的な行動であり、同一視力とは自分を理想の人物として相手に同一視させる力の事です。言い換えれば、人間性やカリスマ性による影響力と考えられます。
 これは一朝一夕に身に付くものではなく、日々の鍛錬の結果として与えられる力と言えるでしょう。
 最近はこの5つの力に「情報力」「説得力」などを加える考え方も提唱されています。
部下や周囲に影響力を与えるためには全ての力を持つことも大切ですが、今自分が持っている力は何かを知り、その力を効果的に活用するには「誰に」「いつ」「どうやって」行使すべきか考え、それを実践する能力を身につける事が更に大切と言えるのではないでしょうか。
 
 
 
■姫野 剛慶
中小企業診断士
産業カウンセラー
プロモーショナル・マーケター