松枝 憲司

1.中小企業金融円滑化法の背景と現状
 平成20年秋に発生したリーマンショックを契機とする世界的な不況により、経営環境が悪化した中小企業向けに、その資金繰りを支援することを目的として、21年12月に中小企業金融円滑化法が施行された。景気低迷による中小企業の財務支援を行う目的として、借入返済猶予や返済条件変更を柔軟に対応するように金融機関に努力義務を求めた法律である。この円滑化法のもと、貸出条件の変更や返済の猶予が実施されてきたことで、中小企業にとっては一時的な資金繰りの目途がつくこととなった。
 円滑化法の当初の期限は 23年3月末とされていたが、景気回復の足取りが重く、円高の進行や東日本大震災の発生も重なったことから、期限が2度延長されてきたところであったが、いよいよ来年25年3月を最終的期限とすることが正式に決定された。
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「金融円滑化法の出口戦略等」H24年7月金融庁発表資料より

 金融庁によると、24年3月末で、申込件数が累計308万件以上あり、そのうち9割以上の285万件が実行されており、対象貸付債権額は 79 兆円にのぼる。また、申込み件数の 8 割、実行件数の7割が地域金融機関(地域銀行、信用金庫等)となっている。
 一方で、貸付け条件の再変更等が増加している。貸付条件を変更する場合は、「経営改善計画の策定」が条件となっているにもかかわらず、計画が策定されていない中小企業者が存在したり、計画は策定したが実行されていなかったりと、抜本的な経営改善への取り組みがなされていないために、依然として厳しい経営状態の企業が多い。
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2.出口戦略政策パッケージ
 25年3月の円滑化法失効後は、中小企業の資金繰り悪化が懸念されているため、金融庁から、終了後に向けた出口戦略のための政策パッケージが発表された。(注:出口戦略とは、軍事的、経済的な損害が続く状況から、損失・被害を最小限にして撤退する戦略)
 骨子は以下のとおりである。
(1)金融機関によるコンサルティング機能の一層の発揮
 金融機関は、自助努力による経営改善や抜本的な事業再生・業種転換・事業承継による経営改善が見込まれる中小企業に対して、必要に応じ、外部専門家や外部機関、中小企業関係団体、他の金融機関、信用保証協会等と連携を図りながらコンサルティング機能を発揮することにより、最大限支援していくことが求められている。
 このため、金融庁は、以下の取組みを行うことにより、金融機関によるコンサルティング機能の一層の発揮を促す。
① 各金融機関に対し、中小企業に対する具体的な支援の方針や取組み状況等について
  集中的なヒアリング(「出口戦略ヒアリング」)を実施する。
② 抜本的な事業再生、業種転換、事業承継等の支援が必要な場合には、判断を先送りせず
  外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見を積極的に活用する。

(2)企業再生支援機構及び中小企業再生支援協議会の機能及び連携の強化
 財務内容の毀損度合いが大きく、債権者間調整を要する中小企業に対しては、企業再生支援機構(以下、「機構」という。)や中小企業再生支援協議会(以下、「協議会」という。)を通じて、事業再生を支援する。両機関の機能及び連携を大幅に強化する。
 金融機関等の主体的な関与やデューデリジェンスの省略等により、再生計画の策定支援を出来る限り迅速かつ簡易に行う方法を確立する。
 (標準処理期間を2ヶ月に設定(従来は半年程度)。協議会ごとに計画策定支援の目標件数を設定し、24年度に全体で3千件程度を目指す
 そのための専門性の高い人材の確保及び人員体制の大幅な拡充を図る。
(3)その他経営改善・事業再生支援の環境整備
 各地域における中小企業の経営改善・事業再生・業種転換等の支援を実効あるものとするため、協議会と機構を核として、金融機関、事業再生の実務家、法務・会計・税務等の専門家、中小企業関係団体、国、地方公共団体等からなる「中小企業支援ネットワーク」を構築する等。
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3.中小企業者に求められる対応
 上記金融庁の方針を受けて、各金融機関では返済猶予先に対して、金融円滑化法終了後の対応をどうするかを検討している。経営改善計画の進捗状況等から対象企業の実態に応じた適切な債務者区分の引き下げを行い、9月期に厳格に引当の実施を予定しているとの報道もある。10月以降、新たな債務者区分に基づき、法案失効後は支援しないとした企業への対処方法を検討していくという。
 このとおりであれば、仕分けされる9月までが企業にとって重要な期間である。
 返済猶予契約を行っている多くの企業が、経営改善が図れていないため、契約期間終了後も再度の返済猶予契約を行っている。この条件変更を複数回行っている重複実行先は、信金信組で7割、地銀で5割と言われている。もし、あなたの企業が次の条件に該当するのであれば、早急な対応策を講じる必要がある。
 ①経営改善計画書を策定していない
 ②改善計画は策定しているが、目標とした売上高、経常達成率が8割以下である
 ③次回も返済猶予等の条件変更が必要な状況である
最低限必要な対応策としては、
 ①経営改善計画書を作成していない場合は至急作成する
 ②計画書の進捗状況を報告書として、書面で金融機関に提出し経営者が報告する
こと等である。
 仮に支援を継続してもらえない企業となってしまった場合は、「次の返済猶予に応じない→当初の約定(返済額)での返済を要請される」ことになり、その返済原資確保のための一層の厳しい対応が求められることになることが想定される。
※いずれにしても、早めに中小企業支援機関や中小企業診断士等にご相談ください。
4.中小企業経営力強化支援法とは
 H25年3月の金融円滑化法の終了に代わるものとして「中小企業経営力強化支援法」が今年の7月に成立した。
 本法律は、先に揚げた金融円滑化法の出口戦略の一環として、
 ・ 企業の再建及び経営革新を支援する機関を国が認定し、中小企業の経営力を強化する
 ・ 中小企業の会計の定着を図り、会計の活用を通じた経営力の向上を図る
 ・ 中小企業の海外展開を促進するため、中小企業の海外子会社の資金調達を円滑化するための措置を講ずるとしている。
 経営力支援法は、金融円滑化法での返済猶予企業を含めて、広く中小企業経営を支援するための「経営革新等支援機関」を認定し、海外展開企業の資金支援を行う法律である。
 この「認定経営革新等支援機関」は、以下のような組織が想定されている。
 ・商工会、商工会議所、全国中小企業団体中央会、中小企業診断士等
 ・金融機関、・士業関係(税理士、公認会計士、弁護士等)
 ・民間コンサルタント会社、NPO法人
 また具体的な認定基準は、以下が想定されている。
 ① 税務、金融及び企業の財務に関する専門的な知識を有していること
 ② 専門的見地から財務内容等の経営状況の分析等の指導及び助言に
   一定程度の実務経験を有すること
 ③ 長期かつ継続的に支援業務を実施するための実施体制を有すること
 全国で数千から1万社の認定を予定しているとのことである。
 認定制度のスタートはH24.10月で、認定期間3年、その後の継続時には支援実績の判断も行われる予定。
 以上のように、中小企業経営力強化支援法は、中小企業診断士・税理士・コンサルタント等を認定経営革新等支援機関の一員とすることにより、中小企業の再生や経営革新の推進を図っていくことを目的としている。
■松枝 憲司(まつえだけんじ)
中小企業診断士
(株)ビジネスソリューション代表取締役 Email:kmatsueda@nifty.com
(一社)東京都中小企業診断士協会理事 中央支部支部長