加藤 茂

【スカイツリー効果】
 昨年開業した世界一の高さを誇る電波塔、東京スカイツリーが2013年5月22日に開業1周年を迎えた。展望台への入場者は638万人。タワー、水族館、商業施設を合わせた東京スカイツリータウンとしては、1年にならない358日で、累計の来場者数が5,000万人を超えた。開業時の想定を大幅に上回る来場者を集めている。引き続き2年目も好調が続くと見られている。観光業への波及効果も大きく、スカイツリー効果という言葉まで出来上がっている。スカイツリー効果は浅草などに現われており、東京の下町に明るい話題を提供している。
【中央支部新事務所からスカイツリーまで】
 2013年4月に日本橋堀留町に移転した中央支部事務所の前からは、ビルに挟まれた道路の先に空に向かって伸びている東京スカイツリーが身近に見える。気軽に歩いて行けそうである。
 実際は、支部事務所から東京スカイツリーまで直線距離で、4km弱。意外と遠いが、大きくはっきり見えるので方向を間違うことはない。ビルに隠れ一瞬見失っても、少し歩けばまたビルの谷間から姿を現す。少々回り道をすることにはなるかもしれないが、地図なしでも、たどり着ける。
【スカイツリーの役割】
 東京スカイツリーは渋谷ヒカリエなどとともにトレンディースポットとなっているが、本来の役割は、電波塔である。これまで電波塔の役割を担ってきた東京タワーからの電波が都心部に林立する超高層建築物の影響により届かない電波障害世帯が非常に増えてきたため、新たな電波塔が必要になった。それが東京スカイツリーである。電波障害世帯を減らすために、東京タワーの2倍近い634mの高さ、首都圏の端ではなく都心部に比較的近い墨田区という立地になったのである。
【スカイツリーと経営】
 首都圏の電波塔である東京スカイツリーと同じ役割を企業で果すものが、ビジョンである。東京スカイツリーは隅々まで放送波を届ける役割を持っているが、ビジョンは企業のステークホルダーに企業の将来の方向性を示す役割を持っている。東京スカイツリーが超高層建築物の影響を受けにくい高さ、立地を検討して決定したように、ビジョンも企業理念や将来の環境変化を十分検討して決定する必要がある。電波塔も、東京タワーから東京スカイツリーへと移行した。ビジョンも、時代に合わせて進化させる必要がある。
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【地図の役割】
 中央支部事務所からと東京スカイツリーまで、目的地がはっきり見えていても地図を見ながら歩く人が多いと思う。近年であればスマートフォンを片手に、東京スカイツリーを目指すことだろう。
 地図の役割は、現在地から目的地まで最短距離の経路を選ぶ手助けをすることである。
【地図と経営】
 東京スカイツリーまでの地図に当たるものは、経営では経営計画である。経営計画は、現状からビジョン実現までの具体的な経路を示す。経営計画に従って進めば、ビジョンに到達できる。
【ビジョンと経営計画】
 東京スカイツリーのように遠くからでもはっきり見えるビジョンがあり、詳細な地図にあたる経営計画を持って企業経営を行う。経営も、特別なことではなく、普段の生活と同じことである。
 地図を一生懸命見ながら歩いていても、道に迷うことがある。地図にあったコンビニが移転していたり、道路が工事中であったりと、街は常に変化しているからである。地図ばかり見るのではなく、東京スカイツリーを自分の目で確かめながら歩いた方が良いだろう。
企業経営も同じである。外部環境は常に変化している。立案時点では精緻な経営計画も方向がずれてしまうことがある。経営計画に従いながらも、ビジョンはしっかりと見据えて進むべきである。
■加藤 茂(かとうしげる)
一般社団法人東京都中小企業診断士協会 中央支部執行委員