遠藤 利樹

 「それは本当に必要ですか?なぜ、誰のために行うのですか?」これらは改善のタネを見つけるための質問で、業務の見直しを行う際に重用します。皆さまの企業では日々業務改善に取り組めているでしょうか。
【業務改善の効果】
 業務改善は、変化の激しい環境で生き残りをかけて取り組む中小企業にとって、売上拡大施策と同様に日夜真摯に取り組むべき両輪でしょう。業務改善に取り組んで効率化を進めると、時間と労力に余裕ができます。そして、忙しさのあまり手が付けられなかった、本来やるべき業務に集中できます。
【業務改善の風土】
 非常に大切で良いことなのですが、改善を続ける風土ができていないと、実際には総論賛成、各論反対になりがちです。「業務には常に改善の余地があって、ベストはない」という考えが共有されていない場合、自身の業務に冒頭の質問が浴びせられた途端に、すべての業務に対して「はい、必要です。」という答えが返り、改善が進まずに頭を悩ませることもあります。確かに不必要ではないでしょうが、改善の余地を疑ってほしいと感じます。
 端から見ていて「ここのチェックはこうした方が良いのでは?」などと迂闊に言おうものなら担当者の反感を買ってしまい、業務改善は暗礁に乗り上げてしまうでしょう。誰でも非効率にやっているわけではありません。ただ、各自が効率を求めるために部分最適になって、却って全体の効率を落としている場合や、他の部署との重複業務が発生している場合もあるのです。改善ポイントを指摘しあえる空気作りが必要です。
【抵抗の存在】
 改善に抵抗は付き物です。たとえば、次のような4つに思い当たる節はありませんか。
①長年慣れている作業手順や仕組みが変わってしまい、覚えなおすのが面倒だと感じる人
②チェックや承認印など自身の職位に応じた業務が省略されることに難色を示す人
③IT化や簡略化で自身の仕事がなくなる可能性がある人
④そもそも現状では何も問題が起こっておらず、順調ゆえに改善の必要性を感じないために本気で取り組まない人
【解決策はトップダウン】
 業務改善を行うにあたっては、上記のような抵抗を乗り越えなくてはなりません。しかし、社長が、いくら業務の「ムダ・ムラ・ムリ」を無くせと熱心に取り組んでも一人でできることには限りがあります。たとえ指示があったとしても実際にことにあたる社員の意欲が低い場合は期待する効果が得られません。
また、逆の場合もあります。社員のモチベーションが高くて業務の変更を求めても、上司の姿勢やシステム変更などの個人ではどうにもできない大きな壁に当たり、結果として何も変わらなくなってしまうなどです。
業務改善は、トップダウンで社長が旗を振り、担当者のモチベーションを上げながら、抵抗を乗り越えて全社一丸となって取り組むことが求められているのです。
【業務改善の定石】
 では、業務改善を成功させ、自然と定着する組織風土を作っていくには、具体的にどのようなステップを踏んでいけばよいのでしょうか。今回は、定石としてハーバード大学ジョン・P・コッター教授の「8つの変革ステップ」を紹介したいと思います。
「8つの変革ステップ」(1から8の順番に行います)
1. 社内の危機意識を高める
2. 変革推進のために強力なチームを作る
3. ビジョンとプランを作る
4. ビジョンとプランを周知徹底する
5. メンバーに権限を与えビジョン実現のために行動するよう促す
6. 短期的な成果を実現する
7. 改革の成果をまとめてさらに変革を促す
8. 新しい方法を仕組みに根付かせる
1. 社内の危機意識を高める
 社長が感じている危機意識に、周囲の人たちは気付いていないかもしれません。上記4つの抵抗の「④現状に満足している人」に危機意識を持ってもらわなければ改善はスタートしません。競合と比較した場合の弱点を隠さずに共有する、各自の専門分野以外の業務を経験させる、目標をチャレンジングなものにするなど、敢えて組織をかき乱すことが必要です。
 コッター教授によると、この段階が最も困難であり、約50%以上の企業が失敗してしまうとのことですので、腰を据えて取り組む必要があります。
また、改善を進めた結果として得られる効果を伝えることも意識向上に役立ちますので、できる限り周知していきます。
2. 変革推進のために強力なチームを作る
 最終意思決定者として社長が参加することで、抵抗を弱めると同時に本気度を示すことができます。他には、賛同してくれる専門知識を備えた信頼性の高いベテランや、評判が良く人脈のある人材、まだ業務に対する偏見の少ない若手をメンバーとするとよいでしょう。特に若手の場合は、社内人脈の形成やスキルアップなど育成面も期待できます。
 後々、抵抗が強く評論家体質になりそうな社員に、アドバイザーとして巻き込んで一部分を担当してもらう方法もあります。そうすることで、他の社員に説明する同じような立場となり、抵抗しにくくなります。ただし、過度に不適切であれば外す必要があります。
3. ビジョンとプランを作る
 5~10年先の企業のありたい姿を示す力強いメッセージを考えましょう。ただし、夢ではなく、実現可能で方向性のはっきりした「わくわく」するものにすることが大切です。
そして、プランを考えます。業務改善では、業務を「業務ルール、人(担当・能力)、システム」を明確に分けて洗い出しながら現状分析を行い、ありたい業務の姿を考え、ギャップとなる大課題に優先順位をつけながら大まかなスケジュールを組んでいきます。
4. ビジョンとプランを周知徹底する
 ビジョンとプランは作成しただけでは何の価値もありません。何度も繰り返し社員に説明し、理解と協力を依頼していくことが大切です。ただ、改善をしましょうと伝えるだけでは担当者に無理やりやらされた感が強く印象づいてしまうため、なぜ変えていく必要があるのか、担当者にとってどんな利点があるのか、空いた時間に何をしてほしいのか、それがなぜ重要なのか、なぜあなたにしてほしいのか、結果として会社をどうしたいのかなど、短時間でも回数を重ねて説明します。顔を合わせる回数が増えるだけでも、心理学的に受け入れやすくなる傾向があり、抵抗①~③の緩和にもつながります。社長から全体に向けて話す機会を作ることも効果的ですので、機会があれば繰り返し行ってください。
5. メンバーに権限を与えビジョン実現のために行動するよう促す
 権限や責任を与えるだけでなく、メンバーの通常業務を軽減したり、自発的行動を阻害する上司の影響を排除したりするなど、環境の整備にも力を入れます。また、必要なトレーニングも提供します。参加した若手社員にとってはモチベーション向上にもつながり、自発的な行動や成果が期待できるはずです。
6. 短期的な成果を実現する
 長期的なプランでは、途中で息切れが生じる恐れがあるため、まずは短期的な成果を得ることを目指します。この段階では、誰が見ても成功だと分かるような成果を達成して周知するとよいでしょう。ひとまずの成果を祝って祝勝会を行うなども一つの方法です。
7. 改革の成果をまとめてさらに変革を促す
 すでに改善が終了したと思われないよう、短期的成果の達成で得た知見を共有し、新たな課題を設定して取り組みを継続させます。一時的なものではないことをアピールし、流れを作ることを意識します。厳格な計画ではなく柔軟に対応していきましょう。
8. 新しい方法を仕組みに根付かせる
 新しい方法が効率化などの成果につながっていることを確認して、研修や人事も検討します。同時に、業務改善の仕組みや方法、価値観を次の実行者に引き継いでいくことも大切です。これを続けることで、現状満足を防ぎ、業務改善が自然とできる風土が根付いていきます。
【最後に】
 内容にかかわらず、「必ず改善を続けていく」というその感情や空気がまず重要です。必ず今より良い方法が存在するはずだと考え、時間の許す限り対応策を練り、お互いに指摘し合える風土を作っていきましょう。
■遠藤 利樹
中小企業診断士
業務:MD、業務改善、システム化計画