村山 聡

 「統計はウソをつく、だから信用できない。」という人がいます。
 果たして本当にそうなのでしょうか?データ分析の専門家の視点から解説します。

はじめに
 2015年は5年に一度実施される国勢調査の年です。今年からインターネットを使った回答も可能になったため、ネットで回答した方もいらっしゃるでしょう。
 一方でネットで、「統計 ウソ」で検索サイトを検索してみると、驚くほどの多くの検索結果が返ってきます。ビジネスにおいて、統計調査はさまざまな分野で利用されているにも関わらず、ウソといわれるのは穏やかではありません。いったいどういうことなのでしょう。

■調査側の課題
 前述の国勢調査は、全ての国民を対象としており、いわゆる全数調査と呼ばれています。
 このような調査に対しては、基本的に調査データにウソがあるとは言われることは少ないのですが、それでもウソの要素が内包されることはあります。すなわち回答者が質問に対してウソをつく可能性があるということです。調査においては、個々の回答は重要視されずまとまったデータが価値を持つものですが、回答者は一人の人間です。
 例えば年収についての質問があった場合、自分を良く見せたいという心理が働き、実際より大目の年収を選択するなどが考えられます。

 また、無意識にウソの回答をする場合も考えられます。製品やサービスの調査において、新しい機能やサービスが追加されたら購入したいか?といった質問があることがありますが、この質問に対して購入したいと回答した人は必ずしも購入してくれるとは限りません。回答者はその質問に対して、まじめに回答をしているのですが、実際に製品やサービスを購入する時は、一つの機能以外に、全般的な機能、デザイン、ブランドなど、さまざまな要素が購入判断に関わってくるため、回答と行動が一致しなくなることがおこりえます。

 上記の全数調査と比較して、課題が多いといわれているのが、サンプル調査です。国勢調査が5年に一度しか実施されないことからも分かるように、全数調査には莫大なコストがかかります。そこで、全体をうまく説明できるようにサンプリングを実施して調査をするのですが、そのサンプルが全体を本当に表しているかという課題が常に存在します。
 一つは回答率です。国勢調査のように回答者が回答することを義務として認識していれば回答率は高くなりますが、一般的な調査ではそうも行きません。調査を依頼された場合にしっかりと回答する人の意見に偏った結果になる可能性があります。回答率を上げるために、回答した人にお礼の品を出す調査もありますが、今度はお礼の品を目的に回答する人の意見に偏る可能性が出てきます。もう一つは調査の母集団そのものが偏っている場合です。ネット調査ではネットで回答する人に偏っていると言われますし、電話調査は昼に行われるため、昼間在宅していることが多い主婦や老人に回答が偏るということが考えられます。

 もう一つの課題は、調査結果を分析するアナリストに関する課題です。アナリストは調査で集められた結果をまとめ、調査報告を作成しますが、アナリストも一人の人間ですから、その考え方には当然、偏りがあります。この偏りにより調査報告で触れなければならない結果に無意識に触れないといったことが考えられます。また民間の調査では、調査を依頼するクライアントの主旨を過剰に意識してしまい、それほど重要ではない結果を意図的に重要だと解釈することもありえるでしょう。

■調査を見る側の視点
 このように統計をとるために、調査する側にも様々な課題がありますが、調査結果を見る側にも課題が存在します。
 例えば、自分の感覚と合わない調査結果を信用しない人がいます。仮説を立て、その仮説が本当に正しいかどうかを確認するために統計調査を実施したはずが、自説の裏づけとして調査結果を利用したいと考えているため自説と結果が違うことを受け入れられないのです。そのため、自説が間違っているのではなく、前述の調査側の課題などを指摘することで、調査結果が間違っていることにしてしまいます。

 また統計の知識が十分ではないために勘違いをしてしまう場合があります。インターネットで検索すると政府統計における平均年収がウソという意見をみかけることがありますが、これは平均年収として示された値が、世の中の大部分の人の年収と認識していることによるものです。平均値は、統計上では代表値と呼ばれる一つの指標に過ぎません。最も多い値は最頻値になるのですが、ほとんどの統計結果では平均値を報告上利用するためか、平均値が最頻値であると考えてしまう人が一定数いるようです。

■統計とどう向き合うべきか
 以上のように、統計にはさまざまな課題があります。では統計とは、どう向き合うべきでしょうか?
 まず理解して欲しいただきたいのは、前述したように統計調査はサンプリング調査である以上、完全ではないということです。その上で完全ではないことと、イコール、ウソであると単純に考えないようにするべきでしょう。
 例えば、今日は晴れると予報した天気予報を信じて傘を持たずに出かけたとします。ところが実際は雨が降ってずぶぬれになった経験がある人は多いかと思います。では天気予報は二度と信じずに、自分の勘を信じるかと言うとそんなことはない訳です。なぜなら天気予報は外れることもあるけれど、自分で予報するよりは信頼に足ると知っているからです。統計調査も天気予報と同じなのですが、天気予報は自分の専門外である一方、統計調査は自分の専門分野の結果を見ることが多いため、自分の経験と異なると、どうしても自分の経験を信じてしまいがちになるのです。
 従って、統計調査を見る場合は、調査の方法をよく見た上で、完全ではないかもしれない可能性を考慮しつつ、事実として受け止める態度が大切だといえるでしょう。

■村山 聡(むらやま さとし)
中小企業診断士 執行委員