清瀬 和彦

1. はじめに

 国や自治体による事業者への多種多様な支援制度があり、平成27年にも経済産業省による補助金をはじめとして各機関から補助金・助成金の公募が予定されています。これまでにも、多くの事業者が補助金を申請して活用し、業績向上の効果を上げています。しかし、補助金は、活用した全ての事業者にとって有効なものになっているでしょうか。

2. 補助金活用でよくある失敗

 補助金を使い失敗している事業者も存在します。
 製造業の例を紹介します。多額の費用をかけて導入した生産設備がほとんど活用されていない場合があります。工場の中央部に配置され、広いスペースがムダになり、工場内の物の流れの妨げにもなっています。メンテナンスが十分に行われていなく、稼働率が低いにも関わらず故障が頻発し、修理費用も多額になっています。財務面では減価償却費の負担が大きく、利益圧迫の一因になっています。
 小売業やサービス業など他の業種においても、補助金を使って店舗の新設や情報システムの導入などを行い、同様に失敗している例もあります。
 補助金の申請や設備導入に多くの労力をかけたにも関わらず、設備の用途・効果・運用方法について検討が不足していたために、後で設備がお荷物や制約になることもあります。目的を果たすために何が本当に必要なのかを勘違いして考え、目先の困り事を解決するために補助金を活用すると、失敗する可能性が高くなります。

3. 補助金申請時の正しい検討手順

(1)既存設備をベースとした徹底的な業務改善
 まずは、お金と時間をかけずにすぐ改善できることを実施します。現状業務にムダや異常が全くないということは、ほとんどありません。業務の手順や方法、既存設備の活用方法を見直すことで、多くのムダや異常を排除することができます。業務改善を、これ以上はできないというところまで徹底的に実施し尽くします。

(2)個別設備の改良・導入
 問題があるプロセスや不足する機能に対して、設備の改良や導入を実施します。業務改善と比較して費用がかかるため、必要最小限の範囲のみを対象とします。補助金があるからといって余分なことまですると、上記のような失敗につながります。何を(どの設備を)、いつ、誰が、どこで、どんな目的で、どのように使うか、すなわち5W1Hを明確に決めて実施します。また、効果やデメリットについても想定します。このステップで、補助金の活用を決定します。

(3)全体設備や建屋の見直し・新設
 上項(2)の考え方で改善を進めた上で、さらに改善したい場合や大きな効果を得たい場合は、大規模な全体設備やそれらのレイアウト、建屋の変更も検討します。このステップではより多額の費用が必要となり、中長期的な経営戦略も考慮した判断となります。

4. 正しい手順で効率アップ

 正しい手順で業績向上のための検討を行うことにより、費用、時間、労力の面で効率的な活動となります。「ただでいただける補助金は、とにかくいただいた方が良い」という意見もありますが、それは正しい検討を行った場合には当てはまります。上記の手順を守らずに、先に設備導入した場合は、以下の事態になります。
 ●設備導入のために多大な費用や時間がかかる
 ●一旦、設備を導入してしまうと簡単にやり直しがきかない
 ●業務改善を実施せずに、そもそもムダや異常が多いプロセスに、いくら良い設備を導入しても良くなるはずがない

5. おわりに

 補助金活用での失敗も述べてきましたが、決して補助金を使わない方が良いというわけではありません。補助金は、特に資金不足の事業者にとって有効なツールです。補助金によって導入した設備も、事業者にとって非常に大きな武器となり得ます。しかし、設備が宝の持ち腐れになっている場合も多く、デメリットばかりのことも珍しくありません。
 正しい手順を守って十分な検討をしてから補助金を申請し、有効な使い方をして自らの事業のため、お客様のため、社会や世の中のためになるようにしましょう。

■清瀬 和彦(きよせ かずひこ)
中小企業診断士
茨城県よろず支援拠点サブコーディネーター