山根 孝一

~はじめに
 経営者にとってこの時期は、年度の節目ということもあり、過年度の振り返りや次年度の計画作り、従業員がいれば人事異動や昇格など考えることが山ほどあり、多忙な毎日をお過ごしのことと思います。おまけに個人の確定申告もあり、まさに猫の手も借りたいほどではないでしょうか。
 書店を覗くとタイムマネジメントに関する書籍が目に留まります。単純にこのジャンルの本が売れるのでたくさん並んでいるのか、興味が湧くから目につくのかは分かりませんが、何冊か手に取ると、なるほどと思うことも多く、つい読みふけってしまうこともよくあることです。ただその中身は、手帳の使い方などが書かれたハウツー本から人生設計の指南書までさまざまで、人によってタイムマネジメントの捉え方に違いがあることが分かります。
 本稿では、私なりにタイムマネジメントとは何かについて考えてみたいと思います。

~目的と手段を分けて考える
 「タイムマネジメント」と言うと、単純に「スケジュール管理」という考え方をする方もいます。確かにタイムマネジメントは直訳すれば時間管理であり、来客予定や社内打合せの時間など、あらかじめ決まっているスケジュールを管理することは経営者でなくとも社会人として当然といえます。しかし反対に、スケジュール通り仕事をこなすだけでタイムマネジメント力があると言い切れるでしょうか。
 少し大きく捉えると、毎日毎日の積み重ねが人生であり、今という瞬間も自分の人生の一部分なのだということができます。ならば、あなたが主体的に生き、能動的に時間を使い、納得の行く生き方をするためにこそ、タイムマネジメントが必要なのです。つまり、タイムマネジメントは、自分の人生マネジメントそのもの。この考え方がなければ、タイムマネジメントは単なるスケジュール管理で、終わってしまいます。
 また、タイムマネジメントは、自分の持っている時間の可能性を、自分自身が知る方法でもあります。時間の可能性を知ると言う事は、自分自身の可能性を知る事にもつながります。
 タイムマネジメントの目的は、大きく3つあります。
 ①人生の夢を叶えるため
 ②人生の目標を達成するため
 ③自分の人生をより充実させるため
 このようにタイムマネジメントの目的を考えると、スケジュール管理は単なる手段に過ぎないことが良くわかります。

~目的が明確になったら手段を考える
 目的は何となくわかったら、次は何から手をつければよいかすなわち手段を考えます。ここではサンフランシスコにあるクリエイティブエージェンシーbtrax社のCEOであるBrandon K. Hill氏の「忙しい人のためのタイムマネジメント法」をご紹介します。

1. 一日の始まりは簡単ですぐに終わるタスクから始める
 数あるタスクのうちまず最初に手を付けるのはごく簡単ですぐに終わるもの。あまり重要なタスクでなくても、幾つかこなして行くうちにその達成感から気分がノッて来て、一日の作業効率がアップする。仕事のウォームアップとしてもおススメ。

2. 完璧を目指さずにとりあえず始めてみる
 仕事の基本は完璧を目指さずに少しずつでもよいから進める。気が重いと思われる仕事でも “とりあえずこれだけやってみよう” と思って少しだけでも始めてみると以外とさくさく進むと事も多い。完成度よりも締め切りを優先し、多少不完全でもスケジュール通りにリリースしてしまおう。Doing is better than perfect.

3. 限られた時間の方が良い仕事ができる。重要なのは集中力
 余裕のあるスケジュールよりも、かなりタイトな締め切りを目の前にした方が以外に良い仕事ができるケースがある。時間に制限があった方が集中力が格段にアップし、速いスピードでクオリティの高い仕事ができる。ダラダラと長時間仕事をする事が必ずしも良い結果を生むとは限らない。重要なのは短時間でどれだけフォーカス出来るか。

4. スケジュールを入れるときは一日4-5時間を目処に
 打ち合わせや外回り、デスクワーク等、一日のスケジューリングを行う際にはキツキツにはせずに、最大でも4-5時間程度に抑え、3-4時間は急に重要な予定が入った際の為の予備として空けておく事。もし入らなかった場合は他のタスクを前倒しで行う事が出来るので気分が良くなる。

5. 重要な事柄がある場合は、なるべく一日の早い時間に入れる
 大切な打ち合わせなど、重要なスケジュールは午前中などのなるべく早い時間に設定する。一日の後半に入れてしまうと、それまでの時間はそればかりが気になって、集中力が下がり良い仕事が出来なくなり、時間を無駄にしてしまう。

6. 最もインパクトの大きい事柄を認識しておく
 常に一日のうちに”これだけ”は行わなければいけない最もインパクトの大きい仕事内容を理解しておく。いざとなったら他の予定を全てキャンセルしてでも、それだけにフォーカスする覚悟で。

7. 集中出来る時間は日によって異なる
 どんな人でも気分がのる時とのらない時で一日で集中出来る合計時間が日によって違う。仕事モードで15時間働いてもまだまだいける時もあれば、ほとんど仕事が手に着かないときもあってOK. 気分がのっている時に集中し、のらないときは無理に仕事をせずにリラックスする。

8. 大きな仕事は細かなタスクに分け、それぞれに締め切りを設定する
 全体スケジュールが長く、大きめの仕事に気後れしてしまう事もある。そんな時はその中でも細かなタスクに分けそれぞれに締め切りを設定し、毎日少しでも進める。そうでもしないといつまでたっても終わらない事態になってしまう。

9. やる事リストを作成した時点でタスクの半分は完了している
 実は仕事が進まない多くの理由は仕事を始めていないからである。そんな時はまずはやる事をリストアップするTo doリストの作成を行う。リストの作成が終わった時点で気持ちの整理が付くのでタスクの半分は完了していると思っても良い。

10. To doには必ず優先順位をつけ、相手に関連する事柄を先に片付ける
 To doリストを作成する際にはタスクの名前と同時に優先順位を必ず設定する。そして自分以外の人や外部ファクターが関わる事項をなるべく早めに片付ける。そして、お知らせ機能付きのTo doリストアプリを活用する事をおススメする。

11. 重要だが緊急性の低いタスクにフォーカスする事を意識する
 とある研究によると、タスクを重要度と緊急性で4つのカテゴリーに分けた場合、最も仕事のできる人は、常に”重要だが緊急性の低い”タスクをこなす事にフォーカスしている事が分かった。これにより、重要で緊急性が高いタスクを作らない事で、いざそのエリアのタスクが現れた時に動きやすくなる。

12. タスクが終わるごとに短時間好きな事をする
 ついついFacebookやTwitter、ネットサーフィンなどを行ってしまい、仕事が手に付かない場合がある。そんな時はそれらをご褒美としてタスクが一つ終わるごとに短時間だけ好きな事をする時間を自分にあたえ、集中力を高める。この方法をアメリカではPomodoro (トマト) 方式と呼ばれ、25分間仕事をしたら、5分間の自由時間を設ける。ちなみに、Pomodoro (トマト) は元々冷蔵庫に張るトマトの形をしたマグネット式タイマーが由来。

13. タスクと締め切り設定はSMARTコンセプトを活用する
 それぞれのタスクにゴール設定をする場合は以下のSMARTの項目を意識して行う
S-Specific (具体的)
M-Measurable (計測可能)
A-Actionable (行動可能)
R-Realistic (現実的)
T-Time-based (締め切り重視)

14. 結局マルチタスクは不可能
 仕事ができる人=マルチタスクが上手、というイメージがあるが、実はマルチタスクは不可能だという事が実証されている。タスクが複数ある場合は、時間を区切ってそれぞれの一つずつのタスクに集中する事で、短時間ですべてを終わらせる事が出来る。逆に全てのタスクをいっぺんに行ってしまうと、いつまで経っても終わらない。

15. 単純作業と頭脳労働は分けて行う
 タスクの種類をあまり頭を使わない単純作業と頭脳労働に分ける。同じ種類のタスクをまとめ、同時間に脳の同じ部分を使う事で集中力と能率をアップさせる事が出来る。右脳と左脳の使い分けも同様。

16. 同じ日にコンテキストの同じタスク内容をこなす
 外回り、デスク作業、会議、戦略立案、製作、事務作業、財務などコンテキストの違う仕事はカテゴリー分けし、同じもの同じ日にまとめて行い、気持ちのモード設定をする事で効率をアップさせる。例) 営業は全て火曜日にまとめ、金曜日は財務関係を片付ける。

17. 自分以外の人が行った場合でも80点以上の場合は仕事を振る
 自分の仕事を他のスタッフに振った場合、自分が行った場合と同じかそれより良い仕事ができるケースは少ない。でも全て自分でやるわけにはいかない。そんな時は、他のスタッフが行った場合でも80%程度のクオリティーで仕事がこなせると思ったものは、すべて振ってしまおう。仕事における合格点は80点以上が基準。

18. 自分の時間は有限であり、貴重である事を常に意識する
 人生には限りがある。自分の時間も有限である。その事を意識し、一分一秒を大切に使う。他の人の人生を生きる時間は無い。

19. 仕事のペースを一定に保てばある程度のハードワークもこなせる
 日々の生活のリズムを安定させ仕事のペースも保つ事が出来れば、速いスピードでの仕事でも高い集中力が身に付き、出来る様になる。逆に不規則な生活と、不安定な仕事のペースが一番効率が落ちる原因となる。

20. 仕事が終わる時には少しやり足りない、と感じるぐらいが良い
 どんなに忙しい時でも、仕事のやりすぎは禁物。燃え尽きてしまう原因になる。一日の仕事が終わる時は少し早めに切り上げ、”すこしやりたりない” ぐらいの気持ちの方がその後も長いスパンで良い仕事ができる。
21. やりたく無い仕事は終了日を設定する
 誰でもやりたく無いと思う仕事はある。その場合は後回しにするのではなく気が進まない仕事が全て終わるスケジュールを設定する事で、少し気持ちが楽になる。
22. たまには何も考えないでリラックスできる時間を無理にでもつくる
 インターネットとテクノロジーの進化で、仕事の事を全く考えない環境に身を置く事がかなり難しくなってきている。でも心のリフレッシュは必要。そんなあなたは、ネットもWiFiもスマホもテレビもゲームも無い無人島に行ってみる事をお勧めする。

 皆様の人生が実り多きものとなりますように・・・(完)

■山根 孝一(やまね こういち)
東京都診断士協会中央支部渉外部副部長
ちよだ中小企業経営支援協会理事長
近著「10分の面談で部下を伸ばす法」(アニモ出版)