山本 修

1.はじめに
 今から約5年前の2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。あれから約5年の月日が流れました。しかし、私は10年位経ったような感があります。震災後は、恐らく多くの方が同じかと思いますが、それだけ密度の濃い日々を過ごしているのではと感じています。
 事業継続計画(BCP=Business Continuity Planning)とは、自然災害や大規模な事故に会社が遭遇したとき、早期に事後を再開するための方法や手段をあらかじめ定めておくものです。災害や事故などの発生により、事業の継続が困難な状態に陥ったときに備える計画です。そのため、経営的な目標を達成するというよりも、危機的な状況からの早期のリカバリーを目指すという意味合いの濃いものですが、大きな災害を経験した私達は、それが決して過去や机上の出来事ではなく、現実の問題として、それに備えておくことが、ひいては日頃の円滑な業務運営や事業の継続に役に立つことと感じています。

2.事業継続計画(BCP)の重要性
 事業継続計画は、大地震等の発生といった緊急事態においても、お客様や、従業員とその家族の安全を確保しながら、自社の事業を継続していくことを目的としています。
 たとえば、日頃サプライチェーンなどにより事業の効率化を追求する事業戦略をとっていたような場合、その流れのうちの1つが機能しなくなることによって、製品の製造や供給がストップしてしまうリスクも相対的に高まります。

 大地震や、集中豪雨等の自然災害、新型感染症の蔓延など、不測の事態に見舞われた状況で、会社の事業の継続や、従業員やその家族を守ること、お客様からの信頼を維持するためには、どのように備えておけば良いのでしょうか。
緊急事態で的確に判断し行動するためには、平常時に、緊急時に行うべき行動をあらかじめ整理して、関係者と取り決めておくことが、重要になってきます。

3.事業継続計画(BCP)策定の基本手順
 突然の地震災害のようなリスクから企業や従業員やその家族、お客様の信頼を守るための、中小企業でもできる、事業継続計画(BCP)の基本的が策定方法をご紹介します。

 事業継続計画(BCP)を策定する際は、最初から完全なものを目指しても、実現が困難である場合も多く、かえって導入が進まないことになるかもしれません。そのため、まずは自社の身の丈にあった、実現可能な、事業継続計画(BCP)を策定して、そして、それにPDCAなどによる改善を重ねることにより、緊急事態への対応力を備えていくことが中小企業の「事業継続計画(BCP)」においても重要といえます。

 事業継続計画(BCP)の策定は、以下記載のように、大きく、基本方針の立案から始まり、緊急時の体制の整備までの5つの手順を踏んで策定していくことになります。そして、事業継続計画(BCP)を策定した後は、事業継続計画(BCP)の運用・定着及び、見直しのサイクルが重要になります。

-事業継続計画(BCP)策定の基本的流れ-
 ①基本方針の策定
 ②重要商品・サービスの検討
 ③被害状況の想定
 ④事前対策の実施
 ⑤緊急時の体制の整備
 ⑥BCPの運用・定着及び見直し

 大規模地震災害等で被害を受けた中小企業が事業中断となると、そのまま廃業や倒産といった事態につながりかねません。また、それが長期に渡れば、被災地の地域経済はもとより、我が国経済全体に深刻な影響を及ぼしかねません。
 緊急事態を生き抜くためには、会社のメンバーひとり一人が、日頃から、事業継続計画(BCP)の方針を理解し、いざというときにはそれを実践・運用することが求められると考えています。

4.事業継続計画(BCP)策定の基本ポイント
 中小企業でもできる、事業継続計画の基本的策定方法のポイントをご紹介します。

(1)基本方針の策定
 まず、災害時の事業継承計画を策定する上での、自社の目標とする基本方針を決めておき、緊急時における事業継続に向けた対応や行動の基本的指針とします。

 【基本方針の例】
 □ 人命(顧客・従業員・家族)の安全を守る
 □ 自社の経営を維持する
 □ 顧客からの信用を守る
 □ 供給責任を果たし、従業員の雇用を守る
 □ 地域経済の活力を守る

(2)重要商品・サービスの検討
 企業においては、様々な商品・サービスがありますが、災害等の発生時には、限りある人員や資機材の範囲内で、会社の事業を継続させ、基本方針を実現していくことが大きな目的となります。基本方針を立案した次の手順は、災害時を想定し、限りある人員や経営資源の中で、優先的に製造や販売する、守るべき商品・サービスを検討し絞り込んでおくなど、あらかじめ取り決めておくのが良いでしょう。

(3)被害状況の想定
 災害等の発生といっても、地震や自然災害、新型感染症の蔓延など、様々な災害が想定されます。こうした災害により、従業員が出勤できなくなり、工場が生産停止となったり、店舗が壊れて商品を販売できなくなったりする場合があります。このように、例えば、大規模地震(震度5弱以上)で想定される影響を想定しておきます。
 災害の影響度合い、震度5強、震度6弱といった程度に応じて、被害状況の想定をすることは、それぞれの状況で守るべき重要商品やサービスを特定するという意味でも重要になります。

(4)事前対策の実施
 地震等による大きな影響が発生している状況の中でも、会社は重要な商品やサービスを提供していくことができるでしょうか。重要商品を提供し続けるためには、製造や販売に携わる従業員の安全が確保され、機械設備等、様々な経営資源(人、物、情報、金 等)が必要となります。緊急時においても、こうした必要な経営資源を確保するための対策(事前対策)を平常時から検討・実施しておくことが重要です。

 事前対策の検討は、例えば「顧客管理簿を十分に整理しておく」、「重要商品の材料等の備蓄を行う」「近隣企業や、協力会社との連携を取り決めておく」、「金融機関と友好な関係を構築している」等が挙げられます。
 近隣企業との連携の例として、緊急時対応のための施設や資材(非常食や簡易トイレ等)を、例えば、商店街内の企業と共同で設置・備蓄する等が挙げられます。また、発災当初は、通信途絶時の情報共有、瓦礫の撤去等、共通の課題として、近隣の異業種であっても連携し、事業継続の取組を効率化できる可能性があります。こうした企業の連携は、緊急時の対応力を向上することができるだけでなく、経営者同士が事業継続への取組状況を話合うことで、友好的な関係を構築でき、結果として、平常時から互いに助け合いができる関係へとつながる可能性もあります。同業他社は、このような視点になってとき、単純なライバル社から、社会の基盤を支えるインフラを持った企業となるわけです。

(5)緊急時の体制の整備
 実際に災害等が発生した際でも、会社が事業継続のために適切な行動ができるよう、緊急時の対応とその責任者をあらかじめ決めておき、体制を整備しておきます。緊急時の対応には、初動対応、復旧のための活動等、様々なものがありますが、最低限そうした全社の対応に関する重要な意思決定及びその指揮命令を行う統括責任者を取り決めておくことが重要となります。また、統括責任者が不在の場合や被災する場合もありますので、代理責任者も決めておく必要があります。
 緊急時でも連絡が取り合えるよう、安否情報伝言板の活用や、メールやSNSを活用した連絡手段を確保、周知しておくことをお勧めです。また、簡易なIP電話(050番号)での連絡網の整備もお勧めです。災害発生時、一般の電話網は通信規制がかかりますので、純粋なIP電話は、比較的規制が緩いと思われますので、連絡が付きやすいと想定しています。

(6)事業継続計画(BCP)の運用・定着及び見直し
 いざ、緊急事態になった時に、従業員がBCPの存在や内容を理解していなかったため、適切に対応することができなかったということでは、BCPを策定した意味がなくなってしまいます。このような事態に陥らないために、従業員への BCP の運用定着や策定した BCP の見直しを行う必要があります。

 BCPは、緊急事態になった場合に、従業員がBCPを有効に活用し、適切な対応ができるよう準備しておくことで有効なものとなります。そのため、BCPを策定した後は、従業員とBCPの内容やBCPの重要性を理解してもらう事が重要になります。そのために、社内における教育活動を実施することを、例えば、毎年1回は行うようにするなどの定取り組みが重要となります。

■策定したBCP のポイントに関する社内勉強会を年1回以上開催する
■従業員が BCP の取組状況、役割分担の定期的な確認を行う

5.個人レベルでの防災対策
 補足として、個人単位での備えについて、ご案内します。一番お勧めしたいのが、日常の中での食料備蓄です。備蓄量は、食料1か月分です。食料消費のサイクルの中で1か月分の食料を備蓄しておくものです、やや多いと思われるかもしれませんが、これは、自分一人だけで無く、いざというとき、食料に困っている方がいたら、その方の分も補えるように、という意味を込めた備蓄量になります。

 また、昨年9月に、東京都より、防災冊子、「東京防災」が発刊されました。災害時への普段からの備えやその重要性について、分かり易く説明されているので、お勧めです。ぜひ、以下のサイト等にご参考に、いざという時に備えておいてください。

●東京都防災ホームページ
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/

●防災ブック「東京防災」
30年以内に70%の確率で発生すると予測されている、首都直下型地震。あなたは、その準備ができていますか。
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/1002147/index.html

●「東京防災」デジタル版(電子書籍)
今やろう。災害から身を守る全てを。
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/book/index.html

●J-anpi安否情報まとめて検索
http://anpi.jp/top

●事業継続計画策定のご参考
中小企業BCP策定運用指針
http://www.chusho.meti.go.jp/bcp/index.html

■山本修(やまもとおさむ)
中小企業診断士、システム監査技術者、情報セキュリティアドミニストレータ
東京都中小企業診断士協会広報部長