佐藤 正樹(さとう まさき) 中小企業診断士

 ■健康経営とは
 健康経営とは、経営の観点から従業員の健康管理を考えることです。経済産業省と厚生労働省が普及させようとしている概念です。
 従業員が健康であれば、欠勤もなく、長期に勤めることができます。突然の退職者が少なければ、余計な費用をかけて従業員の補充に追われることがなく、入社後の研修費用も押さえることができ、会社としても金銭的なメリットがあります。また、従業員が心身ともに健康であれば会社の生産性も上がるという理屈です。
 加えて、従業員が健康でいられる職場環境であれば、企業イメージが高まり、優秀な人材が確保しやすくなります。
国のメリットとしては、雇用が確保され、健康保険料や医療費の削減につながるという思惑があります。

■健康経営の事例
 健康経営を実践している事例をご紹介します。タクシー業界は、平均勤続年数が2年という会社も多いのですが、あるタクシー会社は従業員の健康度合いを改善する工夫を続けた結果、従業員の定着率が向上し、平均勤続年数が15年となり今も更新中です。

■何をやれば良いのか
 それでは、具体的になにをやればいいのでしょうか。
 第1には、意外にも、といいますか、やはりまずは社長の意識改革です。国が音頭を取っても、社長自身がメリットを感じないと実践しないので、従業員の健康が経営にどのようにメリットになるのか理解してもらうことが大事です。

 第2に働きやすい職場環境づくりです。整理、整頓からはじまって、普段から行っている業務を地道に改善すること、などです。

 第3に健康づくりの観点からの取り組みです。職場の自動販売機の飲み物を健康的な物に入れ替える、健康飲料を安く販売する、職場で運動を推奨する、など様々な取り組みがあり、これから事例の収集が進みます。

■「従業員の健康」が先か、「会社の業績」が先か
 疑問が湧くことと思います。「従業員の健康」と「会社の業績」に因果関係はあるのかと。
 「会社の業績」が良い企業は、「従業員の健康」レベルが高いことは統計データから分かっています。「会社の業績」が良ければ、社内は明るく、給与も良く、人間関係も良く、健康増進にコストをかけることができるために、従業員も心身ともに健康でしょう。「会社の業績」が悪ければ、社内の雰囲気が重く、従業員の心身にも悪い影響が出そうです。

 一方、「従業員の健康」レベルが高ければ「会社の業績」が上がるという因果関係を明確に示した論文は少ないようです。健康の程度を指標化することが難しいのが理由です。
 コスト面で見たときには、明確なメリットがあります。「従業員の健康」が高ければ、離職者が少なく、新規採用のコストや教育の手間が減ります。従業員の生産性も高く、結果的にコストが抑えられて「会社の業績」が良いという因果関係はありそうです。

 問題は、経営課題として考えた時に、「従業員の健康」レベルを上げるために、会社の資源(カネ、時間)をどの程度、投資するかです。前回のコラムでも取り上げましたが、費用をかけない方法がいくつかありますので、まずは気軽に取り組んでみるというのが回答になります。

 経済産業省と東京証券取引所は、従業員の健康管理に経営戦略として取り組んでいる上場企業を「健康経営銘柄」として認定・表彰しています。2016年までで47社が選出されています。選定基準として、「健康経営度調査」の総合評価の順位が上位20%以内であること、過去3年間のROEの平均値が業種平均又は8%以上であること、となっています。選定企業は、選定後に業績も株価が上がっているようです。

 健康経営に関しては、今後も様々な情報が提供されますので、ぜひ気にかけてみてください。

■佐藤 正樹
一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 能力開発推進部・部長、中央支部・副支部長
健康ビジネス研究会 副会長 / 健康経営アドバイザー