押田 圭太

はじめに
 物流は、我々の生活には欠かせないインフラであり、また企業活動においても重要な役割を果たしている。今回は私達の身近にある物流業界が、近年どのように変化してきているのかを紹介する。
EC(電子商取引)市場の台頭
 今更だがインターネットの出現は、多くの産業においてその構造を大きく変化させた。物流業界も多分に漏れず大きな影響を受けている。その筆頭なるものが、EC(電子商取引)市場、いわゆるネット通販の台頭である。インターネットを介して、消費者は何時でも、何処からでも欲しい商品が、安く手に入るといったシステムは、その利便性・割安感から広く受け入れられ、従来の購買行動に大きな影響を与えている。
             図1 日本のBtoC-EC市場規模の推移(2008年~2013年)
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                            出典:経済産業省 電子商取引に関する市場調査
 図1に示したグラフから解るように、対個人を対象にした電子商取引の市場規模は、わずか5年で2倍近くの伸びを示している。
 急激な勢いで広がりつつある市場を支える裏方・物流業務には、即日配送、多頻度配送、ジャストインタイムといった高度なサービスが要求されるようになってきている。そのため、業務の大半を担う物流施設には、高効率な出荷作業を可能とする、最先端の設備・システムが要求されるようになってきている。
 そこで次は、物流業務を担う物流施設の動向を見ることにする。
物流施設の動向
 最近、週末郊外を運転していると、やたらと大きな物流施設の建設現場を見かけることが増えた。この物流施設の増加の背景には大きく3つの要因が考えらる
理由① 既存倉庫の立替需要増加
 既存の物流倉庫は、1960年~1970年の高度経済成長期、もしくは1990年前後のバブル期にその多くが着工された。物流施設の減価償却期間が概ね30年程度であることを考慮すれば、その多くの倉庫で老築化が進んでおり、建替えの需要は大きいと考えられる。
 一方で当時建てられた施設の大半は、その経済規模から倉庫面積が2・300坪の施設が多いため、大量の商品を貯蔵する・仕分けることを要求される近年のニーズを考えると、単に立て直すだけでは、ニーズを満たすことはできない。そこで物流会社の多くが、各地で使用している既存物流施設を見直し、新たに大型施設を賃借し利用するといった動きが見られる。
理由② 政府の施策による後押し
 既存物流施設の老朽化に加え、2011年に発生したの「東日本大震災」も大きな影響を与えた。当時地震や津波の直接被害に加え、土地の液状化や街道の崩落により、サプライチェーンが大きく混乱したことは記憶に新しいところである。
 この経験を踏まえ政府は、大都市圏の防災機能強化、または周辺地域の交通混雑解消などによる都市環境改善を行い、大都市圏の国際競争力の強化を図るため、「国際競争流通業務拠点整備事業」や「国土強靭化計画」などを定めた。
             図2.流通業務の統合化及び効率化の促進に関する法律 概要
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                                      出典:国土交通省ホームページ
 具体的には物流施設の新設を考えている企業に対して、税制の優遇処置を施し、従来の法律では建設できないでいた土地の地目変更の便宜を図ることで環境を整え、民間企業の投資の後押しを行っている。そのため、主要幹線道路や高速道路のインターチェンジ付近に最新鋭の設備を備えた大型物流拠点の整備が進んでいる。
理由③ 物流施設が投資の対象に
 一方で、物流施設がREIT(不動産を対象に投資を行う金融商品)の対象として注目を浴びている。なぜなら、物流施設は前述した、EC市場の台頭、既存施設の老築化、高効率な大型物流施設の充実より、借主が付き易い。一度借りると長期間に渡り安定した収入源になることが見込まれので、安定した利回りが期待できるのである。
 そのため投資対象になり易く、日本国内だけでなく海外ファンドの資金も流入しており、非常に活性化している。
 こうした3つの理由から、今郊外には超大型の物流施設が増加している。
 そこに通販物流を手掛ける会社のほか、複数カ所で貨物を管理していた大手物流会社などが、効率化・集約化によるコストダウンを目的に積極的に利用している。この傾向は今後も続くことが予想される。
 ここまで物流施設という設備(ハード)を見てきたが、続いて物流企業が行っているサービス(ソフト)について紹介させていただく。
多様化されるサービス
 近年国内貨物の輸送は減少しつつある。また追い打ちを掛けるように、今後日本は本格的な人口減少の時代を迎えることになる。このことは、収益の多くを国内に求めている中小規模の物流会社にとって、とても大きな課題とされている。
                  図3.国内貨物輸送推移(1995年~2013年)
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                              出典:国土交通省 自動車輸送統計年報
 一方でこのような逆境を見据え、従来の物流サービスに囚われず、新たなサービスの提供に取組む企業もがある。
 ある大手物流企業では、物流施設内で「パソコンの修理」や「使用済み医療器具の洗浄・包装・出荷」という新しいサービスに取組んでいる。従来、物流とは生産者から次の生産者、または最終消費者へ届けることが主な業務だったが、現在そんな産業の川上から川下へ、一方向に向かう従来の物流構造が見直されつつある。
 別の事例で、食品の保管・配送を行っていたある物流企業は、物流施設内に新たにクリーンルームを設置し、従来メーカーの工場で行っていた食品の詰合せ、梱包業務を代行できるような体制を整えた。食品メーカーには、在庫を削減できるほか、業務の効率化など様々なメリットが期待できるのである。。こういった事例は食品に限らず、どんな産業にも応用することが可能であると言える。
 このように従来存在しなかった付随サービスの提供は、今後物流会社に求められてくる一つの姿なのかもしれない。
 つまり物流だけを切り離し、その保管・配送業務のみをドメインとしている従来の姿に対し、今後は川上・川下の工程を担うことで、サービスの付加価値を上げていくこと(新たにドメインを広げていくこと)が、一つ重要だと言えるのではないだろうか。
 物流はどんな会社にも必要な機能である傍ら、利益を産み出さないコストセンターを捉えられる場合がある。しかしながら、外部の資源や新たなサービスを有効活用することで、コストの削減や製品の付加価値を上げることもできる。業務改善を行う際は有効な切口の一つとなるため、是非試していただきたい。
                      図4.バリューチェーン・ドメイン
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■押田 圭太
中小企業診断士
2級ファイナンシャルプランニング技能士
(一社)東京都中小企業診断士協会 中央支部所属