三澤 響

 最近、「スマートフォン決済」という言葉を聞くことが多くなってきた。スマートフォンやタブレットに専用アプリケーションを設定することで、クレジットカード決済が可能になる。このなかには、店舗側が決済端末としてスマートフォンを利用するサービスと、利用者(消費者)側がスマートフォンを利用して支払い処理を完了するサービスの2種類がある。
 店舗側が決済端末として利用する代表的な例としては、米国の「Square」や「PayPal」というサービスがあり、既に日本国内でもサービス提供されている。利用方法は、スマートフォンのイヤホンジャックに専用のカードリーダーを挿して利用する。利用開始の手続きとしては、最初に、専用のアプリケーションをスマートフォンに設定し、決済用の銀行口座を登録する。カードリーダーを入手する必要があるが、「Square」の場合、インターネットで申込か、コンビニで購入することが可能で、現時点では実質的に無料で手に入れることができる。また、準備から約1週間もあれば利用開始ができるように簡単に導入可能だ。「Square」では、決済手数料として、3.25%〜3.75%が必要となるが、利用しない場合の固定費用等は発生しないようなので導入に際しての敷居は低いと言える。
 次に、利用者(消費者)側がスマートフォンを利用して支払い処理を完了するサービスの例としては、最近、日本国内にも進出してきた「ZNAP」がある。これは、店舗を訪れた消費者が、スマートフォンを利用して注文と支払いができるサービスである。利用者は事前に専用アプリケーションを登録しクレジットカード情報を設定する。店舗を訪れると、テーブルにQRコードが書かれているので、それをスマートフォンで読み取ると、来店したお店のメニューをスマートフォンで見ることができる。そのメニュー画面から注文することでお店にはオーダが流れるような仕組みになっており、また、注文と同時に、その場でクレジットカードでの支払いが完了する仕組みだ。
 こういった新たな決済方法の登場により、何が変化していくことになるのだろうか。
 前者、つまり店舗側が決済端末として利用する場合では、個人で所有しているスマートフォンやタブレットを利用できることから、これまではクレジットカード決済を導入していなかった小規模事業者や個人事業主がクレジットカード決済を導入しやすくなることが考えられる。更に言えば、事業者と消費者間の決済だけに限らず、個人間での現金の受け渡し(たとえば、飲食会費の立て替え・集金など)においてもクレジットカードで支払いすることも可能になる(現時点においては決済手数料の負担が課題ではある)。SuicaやPasmo等の電子マネーが普及した事により、以前に比べて現金での支払いをするケースは減っているが、こうしたスマートフォン決済の登場により、更に現金決済のケースは減り、クレジットカード決済の出番が増えてきてくることが予想される。
 後者、利用者(消費者)側がスマートフォンを利用して支払い処理を完了する場合では、スマートフォンを利用しているという特性から、他のアプリケーションとの連動による広告宣伝(プロモーション)が多様化する可能性が考えられる。事前に利用者の許可を得ることが必須であるが、個人の属性情報(年齢や世代、趣味嗜好)に応じて、スマートフォンに飲食店の割引クーポン等の情報を配信することも可能だ。GPS機能を利用し、お店の近くを通りかかっている人に割引クーポン等をプッシュ配信して、来店を誘引することもできるようになるだろう。また、来店時に、消費者アンケートをスマートフォンで行い、アンケートに回答してくれた人には、その場で電子クーポンを配信することも更に容易になってくる。これまでは、注文や支払いは従業員を通して行い、アンケートのみスマートフォンを利用して実施しているケースがあるが、この一連の行為がすべてスマートフォンで実施できるようになることでアンケートの回答率や精度も格段に進歩することが予測される。
 前述した通り、電子マネーの普及により、ここ数年、店舗と消費者間での決済は変化してきている。そして、今後も、多様な決済方法の登場により、消費者の利便性は向上していくと思われる。逆に言えば、店舗側にとっては、消費者のニーズに合わせた決済手段を提供することが、他店との競争上の観点からも、重要な要素になってくると言えるだろう。
■三澤 響


2007年4月に中小企業診断士に登録し、現在、東京都中小企業診断士協会中央支部執行委員。