日置 律子

はじめに

 求人難や人手不足が広がっています。特に、IT技術者などの専門職、介護業、飲食業、運送業など労働集約的な業種、そして周辺住民が比較的少ない都心のパート・アルバイトなどで顕著となっています。中小企業は少ない従業員で業務を運営しているため、たとえ1人の退職でも業務に支障をきたすことになりかねません。また、大企業のようにネームバリューがないため、求人に苦労することも多くあります。
 しかし、求人難や人手不足のなか、派遣スタッフを活用したり、紹介予定派遣などを利用して直接雇用したりすることは、中小企業にとっても人材確保の有効な方策です。2015年9月に改正された労働者派遣法を踏まえて、中小企業の派遣労働活用の方策を解説いたします。
 
1.労働者派遣法の改正

 労働者派遣法は今から30年前の1985年に成立し、その後何度か改正を繰り返してきており、2015年9月に大きな改正が行われました。
 30年前にできた当時の労働者派遣法では、13業務の専門業務にのみ認められましたが、専門業務は26業務(再編成されたあとは28業務)に広がり、また、一般事務や軽作業などの一般業務にも派遣労働が認められるようになりました。ただ、専門業務の派遣期間に制限がない一方、一般業務は同じ職場に原則1年長くても3年という制限がありました。
 2015年9月の労働者派遣法の改正では、専門業務と一般業務の区別がなくなり、すべての業務で3年までという縛りができました。ただし、3年までの縛りは派遣スタッフ1人に対してのみです。過半数労働組合等から意見を聴取さえすれば、最長3年ごとに派遣スタッフを入れ替えることで何年でも同じ職場に派遣スタッフを置くことができます(図1参照)。また、派遣スタッフも最長3年ごとに部署を変わることで、同じ派遣先で何年でも働くこともできるようになっています(図2参照)。

図1

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図2

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資料出所:図1、図2ともに、厚生労働省「平成27年度労働者派遣法改正法の概要」

 さらに、期間制限には次の例外があります。
・派遣会社に無期雇用されている派遣スタッフ
・60歳以上の派遣スタッフ
・終期が明確な有期プロジェクトの業務への派遣
・日数限定業務(1カ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下)への派遣
・産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する者の業務への派遣

 また、派遣会社は派遣スタッフが同一の職場に継続して1年以上継続して派遣されるなどの場合は、派遣終了後の雇用を継続させるための取り組みをすることになっています。なお、派遣先企業が派遣スタッフを直接雇用することを禁止したり妨害したりすることは労働者派遣法の趣旨に反し、指導等の対象になります。

2.派遣スタッフの活用

 労働者派遣法の改正を踏まえて、中小企業では、派遣スタッフをどのように活用したらよいでしょうか。また、留意する点はどのようなことでしょうか。

(1)専門職への活用
 専門職の求人は大変厳しくなっており、専門職の社員が退職するといった事態になった場合、求人を出してもすぐに代わりの人材がみつかることは期待できません。そうした場合に派遣による人材確保も一つの方策になってきます。
 次の正社員がみつかるまでのつなぎであれば、最長3年間という派遣期間は問題になりませんが、求人難から派遣スタッフを長く活用するのであれば、あらかじめ次のような対策を取る必要があります。
①専門職を受け入れる部署を2つ以上に分けて、派遣スタッフをローテーションできるようにしておく。
②派遣会社に無期雇用されている派遣スタッフを受け入れる。
③60歳以上の専門職の派遣スタッフを受け入れる。
 
(2)パート・アルバイトへの活用
 都心を中心に、求人広告を出してもパート・アルバイトが集まらないといった声が多く聞かれます。パート・アルバイトが集まらなくても、求人広告を出せば広告掲載費用が発生します。また、急いで人を集めたいときは求人広告では間に合わないこともあります。そのため、直接雇用ではなく、派遣スタッフによるパート・アルバイトの活用を考えてみてはいかがでしょうか。
 パート・アルバイトで、同じ者を3年間以上雇う場合は、次のような対策を取る必要があります。
①日数限定業務(1カ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下)での活用
②パート・アルバイトを受け入れる部署を2つ以上に分けて、派遣スタッフをローテーションできるようにしておく。
③60歳以上のパート・アルバイトの派遣スタッフを受け入れる。

(3)産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する者の代替
 中小企業で、従業員が産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得した場合、休業期間中の対応が大きな問題になります。退職するのではないので、代わりの人材を新たに雇用するわけにはいきません。そうした場合に派遣スタッフを活用するのはよい方法です。産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する者の業務への派遣は3年までといった期間の制限もありません。

3.派遣スタッフの直接雇用

 求人難の時代にあって、中小企業にとって人材の確保は最重要事項です。しかしながら、求人難ということで急いで採用し、自社や自社の業務に合わない者を採用することは避けなければなりません。従業員が少ない中小企業だからこそ、採用は慎重に行わなければなりません。そのため、派遣スタッフとして受け入れているうちに働きぶりや実力などもわかっている派遣スタッフを直接雇用するのも、自社の人材を確保する有力な方法です。 

(1)紹介予定派遣の活用
 紹介予定派遣とは、3カ月から6カ月程度の派遣期間を決め、派遣期間終了後、派遣先企業は働きぶりなどをみて直接雇用するという制度です。もちろん、派遣先企業が直接雇用したいと希望し、派遣スタッフもその企業の社員になりたいと両者が同意した場合のみです。直接雇用が決まった場合は、派遣先企業は派遣会社に人材紹介料を支払います。
 紹介予定派遣の場合、派遣スタッフは正社員を希望しており、やる気のある、優秀な人材が派遣されることが多いようです。また、派遣期間に働きぶりや実力をチェックしてから直接雇用できるというメリットがあります。派遣スタッフも会社の実情を知った上で入社するので、入社してすぐに退職してしまうという事態を避けることができます。
 紹介予定派遣の場合、人材紹介料はかかりますが、求人広告費は必要ありません。

(2)派遣契約終了後の派遣スタッフの直接雇用
 労働者派遣法は、派遣スタッフの雇用の安定のために、派遣契約終了後、派遣先企業が派遣スタッフに直接雇用を申し入れることを認めています。また、派遣会社は派遣先企業が派遣先企業が派遣スタッフに直接雇用することを禁止したり、妨げたりしてはいけないことになっています。
 したがって、ぜひ、自社で直接雇用したいという派遣スタッフであれば、派遣スタッフに社員を募集していることを伝え、派遣期間終了後、派遣スタッフに直接雇用を申し入れるとよいでしょう。
 なお、派遣契約終了後に派遣スタッフに直接雇用する場合は、派遣会社に人材紹介料を支払う必要はありません。

まとめ

 派遣会社に依頼すると、直接雇用するようにも人件費が高くなりがちで、敬遠している中小企業もあるかもしれません。しかし、求人難の時代を迎え、中小企業も派遣労働の活用によりスムーズな業務の運営や優秀な人材の確保につなげています。
 新規学卒の採用が難しかった企業が、紹介予定派遣によって優秀な人材を確保することができたという事例もあります。また、求人はすべて紹介予定派遣によって行っている中小企業もあります。経理事務にパート派遣を活用している場合もあります。
 大企業よりも求人が難しい中小企業だからこそ、派遣労働を活用も人材確保の有効な方策の1つとなっています。

■日置 律子
 中小企業診断士、有限会社幸永ビズ 代表取締役
 一般社団法人 東京都中小企業診断士協会 中央支部 執行委員