グローバルウィンド

グローバルウィンド「インドネシア・ジャカルタの地元市場を歩く」(2025年10月)

2025年9月21日

中央支部・国際部 瀧上 翔

はじめに

2025年7月、インドネシアの首都ジャカルタを訪問する機会を得ました。人口約2億8,000万人を擁するインドネシアは、ASEAN最大の人口大国であり、近年は年率5%前後の安定した経済成長を続けています。若年人口比率が高く、購買力の底上げが見込まれる一方で、国内の所得格差や購買行動の多様性は、日本企業が市場参入する際に考慮すべき重要な要素となります。

本稿では、ジャカルタ東部に位置する伝統市場「Perumnas Klender Market」を中心に、現地の小売実態を報告します。あわせて、中間層向けスーパーや高所得層向け大型スーパーの視察で得た知見にも触れ、日本の企業が海外市場を考える上での示唆をお伝えできればと思います。

インドネシア小売市場の背景

インドネシアの小売業は、伝統的小売(トラディショナルトレード)と近代的小売(モダントレード)の二つに大別されます。伝統的小売は地域密着型で、個人経営の小規模店舗や露店などの業態です。対して近代的小売は、スーパー、ミニマーケット、コンビニエンスストア、ショッピングモールなどを指し、整然とした陳列やエアコン完備の売り場が特徴です。インドネシアでは依然として半数以上を伝統的小売が占めていると言われています。特に低所得層にとっては、価格交渉や少量販売が可能な伝統的小売が主要な購買場所であり、文化的にも根強い存在感を放っています。

Perumnas Klender Marketの現場

ジャカルタ東部にあるPerumnas Klender Marketは、庶民の生活が凝縮された典型的な伝統市場です。朝9時頃に訪れると、すでに多くの人々で賑わっていました。通路は人一人がやっとすれ違えるほどの幅で、その両脇に肉、魚、野菜、果物、香辛料、衣料品、日用品まで、あらゆる商品が所狭しと並んでいました。
市場内に一歩足を踏み入れると、生鮮食品特有の匂いが立ち込め、氷に覆われた魚の冷気、雑然と並べられた野菜や果物の色彩、鶏肉をさばく包丁の音などが五感を刺激します。また、時折、バイクが通路をすり抜けていく光景など、日本の商業施設ではまず見られない混沌と活気が感じられました。

現地駐在員によりますと、多くの人々は午前中に食材や日用品をまとめ買いし、午後になると市場は急速に静まり、店を閉めるところが増えるそうです。この「午前集中型」の購買行動は、日中の高温や交通事情、生活リズムが影響していると考えられます。

※筆者撮影

サシェ文化と購買習慣

市場の一角で目を引いたのは、シャンプーや調味料、インスタントコーヒー、洗剤といった商品の「サシェ」売りです。小容量の使い切りパックが壁一面に吊るされて販売されており、価格は数十円程度です。低所得層の多くは日々の現金収入に基づき、その日に必要な分だけ購入するため、まとめ買いではなく「日々買い」が主流です。

※筆者撮影

この販売形態は、商品の鮮度や収納スペースの制約といった理由だけでなく、家計管理の面からも合理的だとされています。インドネシアでは月給制だけでなく日雇いや歩合制の仕事も多く、日ごとの収入に応じた消費行動が根付いています。日本企業が現地市場に製品を投入する場合、こうした購買単位や価格感覚への対応が求められます。

他の小売形態の一例

今回は伝統市場だけでなく、中間所得層向けの地元系スーパーや、高所得層向けの大型スーパーも視察しました。
中間層向けスーパーは、比較的整然とした売り場と冷房設備を備え、日用品や食料品を手ごろな価格で販売しています。ただし、私が訪問した平日の午前中は来店客が少なく、週末や夕方に需要が集中しているとみられます。
一方、高所得層向けの大型スーパーは、輸入品を含む豊富な品揃えと広々とした売り場を特徴としており、午前中から多くの買い物客で賑わっていました。こうした店舗では、商品陳列やマーケティングも国際水準に近く、日本ブランドの商品も複数見かけました。

日本との比較と所感

今回の視察で特に印象に残ったのは、購買行動の時間的偏りとパッケージサイズの多様性です。日本のスーパーではまとめ買いや週末の大量購入が多いですが、インドネシアの低所得層では毎日少量ずつ購入するのが一般的です。また、商品のサイズや包装は、現地の生活様式と密接に結びついており、価格帯の細分化も進んでいます。
もう一つの違いは、現金取引の多さです。電子マネーやQRコード決済は都市部を中心に普及が進んでいるものの、伝統市場では現金が依然として主流であり、販売現場でのデジタル化は局地的でした。

まとめ

今回視察した市場は、インドネシアの生活文化と消費行動を凝縮した場所でした。雑多な活気、生鮮食品の匂い、交わされる値段交渉、そしてサシェに象徴される日々のやりくり。日本の商業施設ではなかなか感じられない生活の熱量を感じました。
現地市場を歩くことは、統計や報告書だけでは掴みきれない生の情報を得る貴重な機会でした。今後もこうした現場感覚を大切にし、海外市場のリアルな情報を収集、発信していけたらと思います。

■瀧上 翔(たきがみ しょう)

2023年中小企業診断士登録。東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属。
日用品メーカーにて営業を経験した後、株式実務、監査業務に従事。岡山県岡山市出身。

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