Global Wind (グローバル・ウインド)
カイロ便り ~ その後

中央支部・国際部 井上 義博

 
 4月上旬1年ぶりにカイロを訪問した。ムバラク政権崩壊後国軍が政権を掌握し、少し落ち着きを見せ始めた昨年3月末にカイロ勤務を終え帰国してから1年余。カイロの町は平穏でムバラク時代と変わらぬ様子だったが、5月23日・24日に予定されている初の民主的大統領選挙に向けた候補者選びが連日報道を賑わしていた。
 政治的に「アラブの春」と讃えられ若者を中心に時代の変革を満喫したのも束の間、この1年間でエジプトを訪れる観光客はがた減り、ピラミッドやハンハリーリ市場など観光名所は閑古鳥が啼き、外貨準備も330億ドルのレベルから150億ドル台まで低下し、国の格付けも3~5ノッチ下落。若者達の就職機会が増えないのは軍の失政とのみ決め付けられず、自分たちの蒔いた種にも一因があるではないかと思った。
 この1年で報道や表現の自由が増し、ストを繰り返すことで自分たちの要求を軍政に受け入れさせることに成功したケースも多々あったことは事実。その一方で、何でもかんでも言えば勝ちといったような無責任な行動が流行り、これに対し軍も毅然たる態度を取らないことが続けば事なかれ主義が蔓延ることになりはしまいか、という懸念も感じる次第。
 昨秋の議会選挙の結果、大方の予想通り、ムバラク時代に非合法化されていたモスレム同胞団が最大勢力に台頭し、強硬派・穏健派を含めてイスラム勢力が議席の太宗を占めた。
 最近の大統領選挙やその候補者選びをめぐるメディアの動向を見ても、イスラム勢力が大統領選に勝つかということに焦点が集まっているかのようだ。
 更に、最近エジプト政府・ガス公社がイスラエルとの間で締結していた長期天然ガス供給契約を破棄したとの報道に接し、少なからず衝撃を受けた。この契約はエジプトが歴史上初めてイスラエルに対して戦略的な武器を持つものだと私は高く評価していたが、その一方でこの契約は敵に塩を贈るものだという根強い批判があったことを思うと、今回の契約破棄は軍政によるある種のポピュリズムのような気がしてならない。イスラエルと歴史的な和平を成就しその後30年にわたって戦争のない時代をもたらしたサダト大統領の英断に対し凶弾をもって答えた国民感情がまだ生きているのかと認識をあらためた。
 とはいえ、昨年3月に投稿した「カイロ便り~最終回」で、エジプト人の政治感覚、軍政に対する国民の信頼に期待を寄せると書いたが、その期待感は変わっていない。23人まで膨らんだ大統領候補は軍政による審査を経て最終的に13人に落ち着いた。その中の有力候補とされる人達の顔ぶれを見る限り、穏健派に落ち着くようだ。6月21日の決選投票で決まる次期大統領に期待したい。