Global Wind (グローバル・ウインド)
グルジアの地域振興

中央支部・国際部 関 佳予子

グルジアの地域振興
 グルジアは、アジアの北端である、コーカサス地方に位置する国で、旧ソビエト連邦構成国のひとつです。北をロシア、南をアゼルバイジャンとアルメニア、西をトルコと黒海に面しています。東洋と西洋の交差点に位置する地理的条件から、東西混合と言える文化が古くから形成されて来ました。一方で、その地理的重要性により、近隣国から度重なる侵略を受けて、モンゴルやトルコ、ロシア等から支配される歴史が続きました。1991年のソ連崩壊後、独立を果たし、今年で建国21年目となります。独立以降は、政治的革命が続き、また、近年では、2008年にオセチア紛争(別名ロシア-グルジア戦争)が勃発しました。以来、国の一部がグルジアから独立した状態になっており、現在も、グルジア、ロシア両国間では、軍事的緊張が続いています。
 この様に、グルジアは、大国ロシアとの対立をはじめとして多くの問題を抱える国です。そして、その問題の一つに、地域格差の拡大があります。グルジアの国土面積は約7万㎡、人口は約450万人で、面積も人口も、丁度、北海道の8割程度ですが、全人口の約25パーセントが、首都であるトビリシ市近郊で生活しています。トビリシに次ぐ、グルジア第二の都市クタイシ市の人口が、約20万人である事からも、首都への人口集中度が顕著である事がお分かり頂けるでしょう。
 この状況は、一重に地域に有望な産業が非常に少ない事が大きな要因です。若者が、将来を見いだせる様な有望産業が地域に少ないため、教育を受けた若者は、地元で職を得ることが出来ず、または志向せずに、大都市を目指します。地方産業の多くは農業等の第一次産業ですが、こうした産業自体に若者が発展の可能性を見いだせない状況も人口が首都へ集中し、地方が疲弊している要因であると言えるでしょう。
グルジアの有望地域資産
 冒頭からネガティブな側面ばかりを書き連ねてしまいましたが、実際に訪れてみると、グルジアの土地はとても肥沃で豊富な農産品があり、また歴史、文化の豊かな国であることにすぐに気付かされます。今はまだ多くを知られていませんが、今後、グルジアの地域産業発展を担うであろう地域資産をご紹介します。
グルジアワイン
 グルジア語では、ワインはgvino「グヴィノ」と呼ばれ、グルジア人の自慢の種のひとつと言われています。実は、グルジア語のgvinoは、英語のWineやフランス語のvinの語源であると、言語学者が一致して認めています。つまり、グルジアはワイン発祥の地と認識されており、その生産の歴史は8000年とも言われています。
 グルジアでは、どの家庭においても少しの場所があれば、ブドウの苗を植え、大切に育て、自家製ワインを造ります。戸建の家の庭には必ずブドウ棚があり、トビリシのマンションのベランダにもブドウの植木鉢が見られます。収穫されたぶどうは果汁が絞られ、クヴェヴリと呼ばれる素焼きの甕に注がれます。そして、クヴェヴリを地中に埋め、熟成させます。各家庭には、代々伝わる自家製ワインがあり、宴会や客を迎える席では、必ずテーブルに並びます。グルジア人は、グルジアワインは世界一おいしいと口を揃えて自慢をし、各家庭ではウチのワインが一番おいしいとまた口を揃えて自慢をします。グルジアワインは、グルジア国民の、そして家族の大切なアイデンティティとなっているのです。
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伝統的なワイン生産小屋と大クヴェヴリ
グルジア流宴会
 ワインに合わせて、グルジア流の宴を紹介します。グルジアでは、「客は天からの贈り物」と言われ、どこに行っても、たとえアポなしの訪問であっても、大変な歓迎を受けます。挨拶と簡単な立ち話などをしている間に、たちまちテーブルが用意され、ご馳走が並び、席につく様に促されるのです。
 そして、こうしたグルジアの宴の席では、自家製ワインでの乾杯がつき物です。「ガウマルジョス!(乾杯!)」の掛け声と共に祝杯が重ねられます。実は、グルジアの宴には、儀式の様に守るべきルールがいくつかあります。そのひとつが乾杯で、乾杯は必ず何かに捧げられなければなりません。その対象はさまざまで、神に、平和に、愛に、友情に、命に、家族に、女性たちに、子供たちに、故郷に、などなど、私たち日本人にはちょっと恥ずかしくなってしまう様なテーマも持ち出され、宴会の仕切り役が個人的なエピソードを交えて、乾杯をし、宴を進行して行きます。そして、興がのってくれば、歌を歌い、合わせて踊りだします。伝統を守る厳粛さと軽快なお祭り騒ぎが同居するのが、グルジアの宴です。
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グルジア流宴のご馳走
 グルジアの地方都市には、ワインや宴の手法以外にも刺繍、裁縫、工芸品など、未だ多くを知られていない資産が沢山存在しています。それらを目当てに、ヨーロッパや北米からは多くの観光客が訪れています。グルジア国が、こうした資源を更にフル活用することで、魅力的な中小都市の産業が育成される事を心待ちにしています。