Global Wind (グローバル・ウインド)
バングラ・成長プロファイル

中央支部・国際部 青津 暢

バングラデシュとの係わり
 バングラデシュへはこれまで国際協力案件の調査団員として3回訪れています。1回目は今から13年ほど前、残り2回は本年7月から11月の間です。3回の滞在期間は延べ100日間ほどです。
バングラデシュ事始
 バングラデシュの正式な国名は「バングラデシュ人民共和国(People’s Republic of Bangladesh)」です。国土は日本の約4割(約14万4,000 km2)ですが、人口は日本より多く、1億5,400万人ほど(2012年世銀)です。人口密度は約1,071人/km2であり、都市国家を除くと世界最稠密です 。首都はダッカで、ダッカ都市圏の人口は1,465万人(2010年国連推計)です。民族はベンガル人が98%を占めており、公用語はベンガル語ですが、政府関係機関で役職のある職員や民間企業の社員の多くは英語が通じます。
 バングラデシュはイスラム教国(イスラム教徒:89.7%)です。その他にヒンズー教徒(9.2%)、仏教徒(0.7%)、キリスト教徒(0.3%)がおり、憲法で各宗教との調和がうたわれています。そのためか宗教上の対立はありません。また、イスラム教国のため一般の飲食店でビール、ワイン、ウイスキーなどのお酒は飲めませんが、国内産ビール(ハンター・ビア)を生産しており、同ビールを置いてあるホテルもあります(一缶350タカほど)。その他アルコール飲料を輸入販売している会社がダッカ市内に2社あり、そこではパスポートを提示するとオランダやドイツ産のビールの他、ウイスキーやワインなども購入できます。滞在中は専らオランダ産のビール(1ケース:24缶)を購入していました(4,800タカほど)。
 国境を接している隣国はインドやミャンマーであり、例えば近年注目されているミャンマーと経済規模などを比較すると下表のとおりです。
      表1 隣国ミャンマーとの比較
      図1_20131212.png
1 (参考)インド:373人/ km2、日本:337人/ km2、韓国:500人/ km2、中国:141人/ km2
 人口の約8割が農村地域で暮らしており、農村と都市部との格差や都市部における貧富の差など格差が大きいですが、顕著な経済成長、豊富で安価な労働力、巨大な市場などの成長ポテンシャルの高さなどから日本企業の進出が増えてきています。海外直接投資を呼び込むための最大の課題は橋梁や道路などの交通網整備や都市交通システムの整備、安定的な電力供給などのインフラ整備であり、JICA、世銀、ADBなどの国際援助機関による支援が行われています。
                   01_ダッカ市内(中央銀行前).png
                   ダッカ市内(中央銀行前)
(平日は激しい交通渋滞で休日なら車で40分のところが2時間近く掛かります)
バングラデシュにおける日本企業進出事例
 日本との時差はマイナス3時間で例えば日本時間午前10時はバングラデシュ時間午前7時です。為替レートは1タカ≒1.3円ほどですが、日々多少変動します。バングラデシュの官公庁の平日は日曜日から木曜日で週休二日(金・土曜日が休日)ですが、民間企業は金曜日のみ休日です。
 日本とバングラデシュは経済協力を中心に関係が良好であり、国民レベルでも親日感情が浸透しています。現在バングラデシュに進出している日本企業は167社に及び、進出形態の多くは現地企業との合弁です。
      表2 日本企業進出の推移
      図2_20131212.png
 進出企業のひとつである「ユニクロ」は現地の大手マイクロファイナンス機関で世界的にも有名なグラミンバンクとの合弁で「グラミンユニクロ」を展開しており、現在ダッカ市内に4店舗あります。販売する商品はカジュアルなシャツやジーンズの他に伝統衣装のテイストを盛り込んだドレスなどをそろえており、価格帯は日本円で約240~1,500円です。得た利益は社会貢献事業のために活用されるとのことです。
                   02_グラミンユニクロの店舗にて.png
                   グラミンユニクロの店舗にて
                 (スマイルショップと言っていました)
                   03_グラミンユニクロにて購入.png
                   グラミンユニクロにて購入
 また、「雪国まいたけ」はJICAの協力準備調査(BOPビジネス連携促進)を活用し、バングラデシュの農家を指導してもやしの種子となる緑豆を生産しています。昨年末(2012年12月)にこの緑豆が、初めて日本に到着し、この緑豆からもやしが生産され、日本の店頭に並んでいます。同社は2011年にバングラデシュのグラミン・クリシ財団と九州大学との間で合弁会社を設立し、緑豆栽培を通じたバングラデュのBOP層の所得向上に取り組んでいます 。
バングラデシュの野菜種子市場
 バングラデシュへの進出に関して有望だと思われる分野のひとつが野菜種子市場です。同市場規模は需要ベースで約4500トン(2011-2012)であり、公共セクターと民間セクターが供給を担っていますが、国内種子生産割合は3割ほどで多くを海外からの輸入に頼っています。特に高収量品種の種子は100%近い輸入であり、インド、中国、日本などから輸入されています。
日本の種苗会社から野菜種子を輸入しているローカル企業は「A.R. MALIK」、「United Seed Store」などであり、各社の市場シェアは2~3位と比較的高いシェア占めています。また、民間企業以外にも大手マイクロファイナンス機関のBRACも本邦種苗会社から野菜種子を輸入しています。
 「A.R. MALIK」は「サカタ」、「タキイ」、「カネコ」、「ミカド」の4社と取引があり、そのうち、「サカタ」との取引量が最も多くなっています。主にカリフラワー、キャベツなどの種子を輸入しています。「United Seed Store」は「タキイ」との取引が多く、その他「トキタ」とも取引があります。タキイとは40年来の取引先であり、スイカ、にんじん、 カリフラワー、キャベツ、きゅうり、かぼちゃ、ブロッコリーなどの種子を輸入しています。「BRAC」は「カネコ」との取引のみであり、キャベツ、カリフラワー、にんじん、スイカなどの種子を輸入しています。「BRAC」の場合、他の民間企業と違い、ターゲット顧客が零細農民であるため日本の種子は品質は高いが、仕入原価が高いためなかなか本邦企業との取引を拡大することができないとのことです。ただし、価格面で交渉できれば他の多くの本邦種苗会社との新規取引を望んでいます。
                   04_A.R. MALIK社代表(本社).png
                   A.R. MALIK社代表(本社)
                   05_United Seed Store社代表(本社).png
                 United Seed Store社代表(本社)
                     2 JICA広報資料より
 下図は「A.R. MALIK」、「United Seed Store」、「BRAC」と本邦種苗会社との合計取引量の推移です。バングラデシュの経済成長に伴う高付加価値農産物の需要の拡大やそれに伴う栽培農家の種子需要の拡大を反映して本邦種苗会社からの輸入量が年10%の割合で増加しています。
   図1 本邦種苗会社との合計取引量の推移
   06_本邦種苗会社との合計取引量の推移.jpg
                   07_ダッカ近郊の種子卸売店.png
                   ダッカ近郊の種子卸売店
                   08_店頭で販売されているサカタ、タキイの種子.png
              店頭で販売されているサカタ、タキイの種子
 本邦種苗会社の野菜種子の品質の高さは市場において認知されていますが、市場価格が他国産と比べて約2倍であり、価格競争力が弱みとなっています。また主に流通している本邦ブランドは「サカタ」や「タキイ」であり、日本国内に130社以上ある種苗会社のバングラデシュにおけるプレゼンスはまだ小さいのが実情です。
終わりに
 
 1971年に独立したバングラデシュを’72年に日本は米・中等の主要国に先駆けて国家承認し、その後の開発援助や本邦民間企業の進出などを通じて友好関係が進展しています。しかしながら開発課題はまだ多くあり、貧困の解決には至っていません。また、政府部門の汚職や腐敗なども指摘されています。多くの課題を抱えながらも近年は6%台の経済成長が続いており、実際に町中にいると成長パワーを感じる国の1つです。安価で豊富な労働力のみならず、今後は中間所得層の拡大も期待され、消費市場としての魅了も増してくると思われます。経済・社会インフラ整備は開発援助や自助努力、PFIの導入で、そして本邦企業を含む外資系企業の進出促進や合弁事業などを通じた民間企業の育成や雇用の拡大、市場開拓などが望まれます。
青津 暢(あおつみつる)
東京協会中央支部国際部。株式会社かいはつマネジメント・コンサルティング所属。開発コンサルタントして開発調査や新興国及び開発途上国への進出支援などに従事。