Global Wind (グローバル・ウインド)
メディアが報道しないパキスタンの姿

中央支部・国際部 田島 悟

1 予想外に安全で親日的なパキスタン
 
 最近、ODA関係の仕事でパキスタンに2週間滞在した。
 日本でのパキスタンに関する報道は、テロ、デモ、アルカイダといった内容がほとんどで、パキスタンはアフガニスタンやイラクと並んで世界で最も危険な国の1つと思われているようである。
 しかし、パキスタンに滞在してみて感じたのは、安全で平和的な一般市民の生活と友好的で親日的なパキスタン人の姿だった。
 たとえば、パキスタンの中で人口が第2の都市であるラホールで、博物館に行った際に、見知らぬパキスタン人から国籍を聞かれ、日本人と答えると一緒に写真を撮って欲しいと言われた。東南アジアなどでは、日本人に親切そうに近寄ってくる現地人の中には、下心があり後で詐欺を仕掛けてくる人もいるが、このパキスタン人は写真を撮った後でお礼を言ってすぐに別れたので、純粋に日本人と写真を撮りたかったのだろう。これは、日本人が観光でほとんどパキスタンに訪れないので珍しかったことと、日本車の高い性能などによって日本人に対して良いイメージが形成されていたことが理由であると思われる。
 その翌週に人口が第一の都市カラチで、夜暗くなった直後に街中で乗り合いバスの屋根に乗客がたくさん乗っているのを見かけた。日本では見られない光景なのでカメラを向け写真を取ると、乗客が一斉に歓声を上げ、手を振って大喜びしたのである。
 その時にいっしょにいたカウンターパートのパキスタン人から聞いた話では、パキスタン人はアメリカ人または外見がアメリカ人に似た人には警戒感や敵対意識を持つが、日本人や中国人に対しては非常に良い印象を持っているので、乗客が大喜びしたということであった。
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                    バスの上の乗客の歓喜
2 パキスタンの仏教
 
 パキスタンは国の正式名称がパキスタン・イスラム共和国なので国家全体がイスラム教で統一されているという印象を持つが、歴史的にみると仏教と関係が深いことがわかる。1世紀から5世紀にパキスタン北西部に栄えたガンダーラには、仏教彫刻や仏教寺院が数多く点在し、今でも多くの仏教関連の芸術や遺跡が残されている。
 仕事がない休日にラホール博物館へ行くと、ガンダーラ期の仏教芸術を専門に提示した広いエリアがあり、数多くの仏像の傑作が展示されていた。特に「釈迦苦行像」は、苦行するブッダの骨と皮だけの痩せ細った体を見事に再現しており、この時代の最高傑作と言われている。
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                 ガンダーラ芸術の傑作(釈迦苦行像)
3 イスラム教について
 
 せっかくパキスタンに来たのだから、イスラム教について理解を深めようとカウンターパートのパキスタン人から色々とイスラム教について教えてもらった。カラチで自分が泊まったホテル(マリオットホテル)には、イスラム教徒が礼拝をする建物が併設されていた。カウンターパートのパキスタン人が自分をホテルまで送ってきてくれた際に、自分もお祈りを経験したいというと、ホテル併設の礼拝場所で一緒に礼拝をしてくれて、礼拝の際の細かいルールを教えてくれた。礼拝をする前に、礼拝所の入り口近くの体を清める場所で手足や顔などを洗い、口をすすいだ。薄い絨毯が敷いてある礼拝場所で何度も立ったり体を屈めたりしながらメッカの方向に向かって数分間礼拝を行った。アラーやムハンマドなどの像や絵が何もないところに向かって礼拝をするところが、仏教やキリスト教とは全く違うと感じた。
 カウンターパートの事務所では、彼らが日常的に読んでいるコーランを見せてもらった。
 コーランは埃などがない綺麗な場所に保管し、読む時は手を洗ってから読むというルールがあると教えてもらった。コーランの本文はアラビア語でかかれており、両サイドにはさまざまな注釈が書かれてあった。
 写真を撮っても良いか聞いてみると、写真を撮っても良いがコーランを手で触らないように言われた。純粋のイスラム教徒にとっては、コーランはそれほど神聖なものであるらしい。
 おみやげとして、コーランの日本語訳の本をPDFでいただいた。500ページ以上もある膨大な本で、もしも紙の形でいただいたら重くて困ったかもしれないと感じた。
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          コーランの表紙             コーランの中身
4 パキスタン(カラチ)の自動車産業
 
 今回パキスタンに行って初めてわかったことであるが、パキスタンでは日本車が98%のシェアを持っている。特にスズキのシェアが圧倒的に高い。街中を走っている自動車をよく観察してみると、ほとんどが日本車であり、その中でもスズキの車が極めて多いように感じた。今回の仕事のカウンターパートも、ラホール・カラチともスズキの車に乗っていた。
 カラチは海に面しており、人口が約1300万人の都市で自動車産業や自動車部品産業が非常に発達している。日本の自動車メーカーの多くはパキスタンに工場を持っており、今回の出張の中では、カラチの某日本車メーカーのパキスタン工場でも研修を行った。
 自動車部品産業が発達しているため、機械加工、金型製造などの産業も発達している。
 今回の出張の中で「Karachi Tools, Dies & Moulds Centre」という金型の設計・製造の研修センターを訪ねる機会があった。このセンター内ではCADなどの設計関連の項目やマシニングセンターなどの製造関連の知識や技術を教えており、相当高度な内容を教えているという印象を持った。
 受講者は、講義も実習も真剣に受講しており、この研修センターは将来の自動車部品産業の発展のために非常に有効な教育機関であると感じた。一般的な日本人にとってパキスタンという国名と高度な製造業というのは、イメージが結びつかないかもしれないが、今回の出張でパキスタンの意外な側面を知ることができた。
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          研修センターの看板            機械加工の実習