Global Wind (グローバル・ウインド)
月の港のワイン祭り(前編)

中央支部 金子 敦彦

 ボルドー市では、2年に一度ワインフェスティバルを開催しています。フェスティバルは4日間にわたり開催され、ワインのテイスティングやイベントなどを楽しむために世界中からワイン好きの人々がやってきます。今回は、このワインフェスティバルの体験レポートをお伝えします。
 パリ、シャルルドゴール空港からオルリー空港に移動後乗継ぎ、そこから飛行機で約一時間、日本でもワイン産地として有名なボルドーのメリニャック空港に到着しました。パリ市内での地下鉄のストなどもあり、ボルドーには予定より少し遅れて到着、日照時間の長い夏の時期の訪問でしたが、あたりはすっかり暗くなっていました。空港からバスに乗り、市街地へ近づいていくと、次第に「ドーン、ドーン」という大気を震わせる音が聞こえてきます。それは、ワインフェスティバルの開催を告げる花火の音、フェスティバルの4日間は毎晩色とりどりの花火が上がります。到着後すぐの華やかな歓迎を受け、期待に胸が高まりました。
 翌朝、まずは街を軽く散策、日本での印象はボルドー=ワインだと思いますが、実は街全体がユネスコの世界遺産にも指定されている歴史的都市でもあります。ガロンヌ河に面する中心市街地は特徴的な三日月の形をしており、「月の港(ポート・ド・ラルーン)」とも呼ばれています。350以上の歴史的建造物に指定・登録される建造物を有しており、市街地だけでもヨーロッパの他の人気都市に引けを取らない美しさです。
 しかし、見どころは中心市街だけではありません。市街地から少し移動すれば、広大に広がる葡萄畑、世界に名を馳せるシャトー(日本で言うワイナリー)の数々、ワイン好きな人にとっては滞在時間がいくらあっても足りないエリアです。フェスティバルの間は効率的にシャトー訪問ができるようなバスツアーが組まれているため、この日はこのツアーの中の一つに参加します。
 私が参加したのは、マルゴー村周辺のシャトーを巡るツアー、日本でも有名なシャトーマルゴーもこの村にあります。そして、バスに乗って早速向かったのが、シャトーマルゴーです。ここでは、建物の中に入ることはできなかったのですが、ワインのラベルにもなっている建物と、所有する葡萄畑を見ることができて、参加者一同テンションが一気に高まりました。
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 マルゴー村は、ボルドー地方の中でも高級ワインを産出するエリアの一つである、メドック地区に属します。メドック地区ではワインの独自の格付けがあり、特に優れている61のワインに1級から5級までのランク付けをしています。ツアーで回るのはすべて格付けワインを造るシャトー。午前中は格付け第4級のシャトー・プリュレ・リシーヌと第2級のシャトー・ローザン・ガシーを巡り、シャトー内を見学、テイスティングを行いました。
 シャトーとは、もともとはお城という意味なのですが、メドック地方には美しいお城を備えたシャトーがたくさんあります。マルゴー村で特に美しいと感じたのは、シャトー・パルメ。シャトー・パルメは第3級ながら第1級にも匹敵する高品質なワインを生み出すことでも有名です。
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 お昼は、開放的なテラス席のあるビストロで。席は建物に囲まれた中庭のようなところにありました。こちらでは、アメリカから来たというファミリーと席をご一緒させていただきました。日本に知り合いがいるとのことで話は弾みます。美味しいお料理と楽しい会話、そして、当日見学をさせていただいた各シャトーから提供された上質なワインをいただき、幸せなひと時を過ごさせていただきました。
 食後の訪問は、格付け第3級のシャトー・キルヴァンから。ここでは、ボトルにカバーをかけてワインが提供されました。ラベルなどからの情報を伏せることで、自身の五感だけを頼りにワインを感じる必要があります。(これをブラインドテイスティングといいます。)いくつかのランクの違うワインを味あわせていただきましたが、どれもおいしかったことを憶えています。
 最後に訪れたのは、格付け第4級のシャトー・ラ・トゥール・カルネです。こちらのシャトーでは、カベルネ・ソーヴィニョンとメルローという、それぞれ単一の葡萄品種から造られたワインと、その二つの品種を混ぜ合わせて造ったワインの比較をさせてくれました。複数の異なる葡萄品種で作ったワインを混ぜ合わせることをアッサンブラージュと呼びますが、これを行うのがボルドー地方のワインの大きな特徴の一つです。異なる葡萄品種から造られたワインを混ぜ合わせ、品質の高いワインを産み出すには、確かな味覚と経験・技術が必要です。3種類を試飲した中でも、アッサンブラージュが行われたワインの品質は素晴らしく、受け継がれてきたこのような技術が、ボルドーワインに今も世界的な名声をもたらしている要因の一つであることがわかりました。
 ツアーを終えて夜、ボルドー市街に2日目の花火が打ち上げられました。ガロンヌ川にかかるピエール橋の後ろから飛び出すように、放射線状の多彩な光が広がります。すべてを忘れ「今」に没頭する時間。限られた時間を精一杯楽しもうとする町に、グラス1杯のワインに情熱をかける人々を自然と重ね合わせ、夜は更けていくのでした。