Global Wind (グローバル・ウインド)
インド滞在記

中央支部・国際部 児玉 直樹

はじめに
 2012年12月より現在までの間、延べ18か月にわたり、インド ムンバイに駐在し、インド全国のマーケティング業務全般に携わらせていただいております。仕事柄、市場を理解する必要がある為、毎月色々な州(東西南北)に訪問し、お客様とお会いさせていただいております。今回は、インドの様子と駐在中に感じたことを記します。
1.インド概要
 インドは南アジア最大の面積であり(日本の約9倍)、人口は約12億人と世界第二位(日本の約10倍)です。一人当たりGDPは1504ドル(IMF:2013年)と日本の1965年程度の額であり、平均年収は約1,133ドル程度です(インド新聞、13年3月11日)。
 大きな特徴は、12億人という巨大市場の半分が24歳以下という若さです。インドは、2025年には世界最大の人口になるとも言われています(日経ビジネスオンライン:11年7月27日)。また、2013年の購買力平価も、5兆USドルと日本を抜いて世界第3位(SNA)であり、南アジアに位置する立地面に加え、英国に支配されていたこと、アフリカ・中東で仕事をしている印僑の影響が強いこともあり、アフリカや中東への貿易輸出国としても注目されている。
 ここ数年、GDP伸び率鈍化や不景気の中、玉ねぎの価格が3倍になるなど、インフラ高騰で国民の不満が溜まっていた。2014年5月26日に10年来の新政権が発足した為、インフラ分野・製造拠点の増加など、約束された最後の巨大市場の躍進が注目されています。
 一方で、インド市場の攻略は容易ではないように思われます。理由は、インドという国の複雑さです。インドは、28の州(14年6月より29州)で構成されていますが、各々の州は多様な宗教(ヒンドゥー、イスラム、ジャイナ、シーク、キリスト教等)や言語(公認言語だけで21)、民族、カーストで構成される。隣の州に行くと、顧客の生活スタイル、食事から好みの色や税率まで違い、国というよりは大陸のようなもので、市場を理解するのは容易ではありません。このような多様性の中、全国的な販売網の構築も容易ではない為、中小企業がビジネスを考える上では、州別の分析によるエリア戦略や権限移譲による意思決定の迅速化などの対応が重要な国だと思います。言語に関し、公用語はヒンドゥーと英語です。IT系、建築家、デベロッパーなどの顧客は英語を話せますが、販売店系の顧客は英語を話せない方が多い。この為、顧客層により、英語が話せるだけでは、困ることがあります。エリアによりヒンドゥーが通じない顧客もいます。
2.インドに駐在してみて
 生活面として、まず日本人が困るのは食事です。日本食を食べることはデリー、バンガロールなど一部の地域を除き非常に困難です。(ムンバイも他地区と比べて住みやすいですが、日本食はほとんど食べられません)。地方に至ってはほぼ不可能です。飲み水で下痢になる方、スパイスでお腹を壊す方も多くいますので、注意が必要です(因みに、私は適合し過ぎて、食べ過ぎから体重が増えました)。お酒好きの方の為の情報ですが、州によってはお酒が禁止されていますので、来られる際にはご注意下さい。
 観光面として、特徴的なのは、26個という世界遺産の多さです。21文化遺産と5自然遺産があります。この内、有名なバラナシ(ガンジス川)とタージマハル(大理石の墓廟)、ブッダガヤ(仏陀が悟りを開いた聖地)など11個の世界遺産を訪問させていただきました。この中で、今回は、バラナシの紹介をさせて頂きます。
 ここでは、インド各地から運ばれてくる遺体を火葬しガンジス川に流します。ヒンズー教徒は、ガンジス川に流されることで、生まれ変わった後、苦しみから解放されると信じています。早朝には各地から人々が訪れ、ガンジス川で沐浴します。ガンジス川を神聖なる川と考える理由として、ヒンドゥー教のシバ神(インドで有名な宇宙破壊神)とガンガー(聖河ガンジスの女神)の存在があります。言い伝えでは、大地にあふれた死者の遺体を浄化したいが、地上を埋め尽くすほど強大な聖河であるガンガーは、強力な神であるシバ神の髪の中に入った。この中から大地に聖なる水を流したことで現在のガンジス川が出来たと言われています。有名なバラナシには、欧米含め、世界中から人々が訪れます。
ガンジス川早朝の沐浴風景.jpg
   ガンジス川早朝の沐浴風景
 人間関係面では、インド人の方は非常に友好的であり、親日の方が多いように感じます。訪問客を重んじる文化もあるので、遠方より訪問した際は、基本的に温かく迎えてくれますし、話が盛り上がると、顧客の家に招待されることも多々あります。家族を非常に重んじる方が多いので、家族含めての親交は非常に大切だと感じます。また、インド人はダンスが非常に好きで、結婚式などのお祝い事やお祭りの際には必ず踊ります。男性同士でも踊りますので、親交を深めるには下手でも踊ることをお勧めします(意外に楽しめます)。道に迷った時は注意が必要です。道を聞かれた際は分らなくても(良心的に)方向を教えてくれる方が多くいますので、目的地に辿り着けないこともあります。
3.おわりに
 インドを理解することは、先に述べた多様性や複雑さから、簡単ではありませんし、食事面、インフラ面など日本では考えられないことが多々ある国でもあります(電力が1日4時間しか来ない、宿泊ホテルの水が出ない、牛・犬(地区により象)が道路を歩いている等)。一方で、最後の巨大市場が生み出す躍動感とインド人との友好関係に基づく仕事の楽しさは何物にも代え難く、仕事をする上では最高の環境であるとも思います。インドで過ごした18か月は私にはかけがえのない財産であり、今後も、1日1日を大切に過ごしたいと思います。
 最後までお読み頂きありがとうございました。
児玉 直樹(こだま なおき)
2011年中小企業診断士登録.大手電機メーカーで国内営業を経て,戦略企画及び国際営業に従事.
現在インド ムンバイにて駐在中
連絡先:naoki29@mbr.nifty.com