Global Wind (グローバル・ウインド)
中小企業診断士の国際化を考える

― 国際部サロン「中小企業診断士と国際化への対応」に参加して ―

中央支部・国際部 小林 隆

1. はじめに

去る6月7日(火曜日)、「中小企業診断士と国際化への対応 -中小企業診断士の役割と貢献を考える-」というタイトルの中央支部国際部サロンが開催されました。スピーカーは、中央支部国際部アドバイザーの安井哲雄会員。今回は、国際部サロンに参加して「診断士の国際化」について感じるところを記載させて頂きます。

2.身近になった国際化

今回のご講演内容は、安井会員のご自身の国際業務の体験や、中央支部国際部の足跡を振り返り、今日においては各々の診断士が国際化に対してどのように向き合うべきなのか、診断士のビジネスチャンスとなる活動領域はどんなところにあるのか、そして協会と国際部は今後どのようにあるべきか、といった課題が提起され、参加者によるディスカッションがなされました。

写真1

中でも、私の印象に強く残っているのは、「グローバリゼーションが進んでいる時代、診断士にとっても、国内と海外の壁は低くなっている。もはや、国際派診断士というものは特別なものでなくなってきている。」との話です。

大企業では、すでに多くの企業で国際化に対応し内部の組織や業務の仕組みが変更され、中小企業においても、それぞれの規模や力量、業種特性に応じ、海外展開やインバウンド需要に対する取り組みを考慮する時代となりました。企業内診断士、独立診断士ともに通常業務の流れの中に国際化対応が入ってきています。

実際、独立診断士である私自身、クラウドシステムを展開するITベンチャーから「当該クラウドシステムを世界展開したいが、どこの国を最初に攻めるべきか?」という質問、また飲食店のフランチャイジーのオーナーからは、「成長著しいアジアのマーケットに打って出る場合、どの国のどんな業態の店舗がよいか?」といった質問を受けるようになりました。これはアジアの新興国を中心に製造拠点としてのアジアからマーケットとしてのアジアに移りつつあることが背景にあるものと考えられ、製造業以外の経営者が、今、アジアへの進出に関心を抱いていることがわかります。これらの中小企業に共通しているのは、現在国内で行っている事業の基盤が確立でき、次の一手に海外を視野に入れているということです。成長企業のオーナーは、多かれ少なかれ、海外展開を視野に入れている方が多いように感じます。

その一方で、「最近インバウンドと言われるけれど、いったいどんな風にすすめればよいの?」といった中小企業の経営者の方もおられます。

こうした日常のコンサル業務のなかで起きている出来事を振り返ると、実際に広い意味での国際化は、意外と身近なものとなっていると実感できます。

3.診断士の国際業務と英語力

それでは、こうした時代に対し、私たち診断士はどのように向き合えばよいのか?

講演では、中小企業診断士の国際業務の活動領域を「中小企業診断士の国際活動のポテンシャル」として、表1のような領域が提示されました。

表1 中小企業診断士の国際活動のポテンシャル

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※ 安井会員の講演スライドより抜粋。

私の場合、国際化というと、「英語が話せなければ」と語学のことが最初に頭をよぎります。残念ながら私自身は英語が決して得意ではありませんし、海外赴任の経験や海外取引の経験を有しているわけでもありません。もちろん、国際部の多くの方々は、海外の駐在経験があったり、貿易等の海外取引の経験が豊富であったりと、国境をまたぐビジネスの専門家が多く在籍しています。実際、JICA(Japan International Cooperation Agency:独立行政法人国際協力機構)やJETRO(Japan External Trade Organization:日本貿易振興機構)などの国際業務の多くでは、特に高い語学力が求められます。

しかし、前述の中小企業経営者からの相談事例のように、昨今では多くの中小企業の経営者が、アジアを中心とした海外への進出に関心を寄せており、事業の選択肢のひとつ、可能性のひとつとして、話題に上がることが多くなってきています。英語ができるできないにかかわらず、日常的な業務の中で、国際化が進んでいるのです。

一般に海外展開の検討を行う場合、図1のような手順で実施してゆきます。このうちSTEP1の「海外展開目的の明確化」は、当該会社のビジョンや全体戦略の中で海外戦略がどのような位置づけにあり、どのような効果と成果を狙って海外進出するものかを検討するものであり、相談は通常のコンサル業務の延長線上に出てくるものです。したがって、海外展開に対する初期相談への対応は、中小企業診断士が対応できないといけない領域になりつつあるように感じます。

図1

※参考:JETROホームページ

図1海外進出の検討手順

ただ、実際に国際展開をするとなると、口で言うほどやさしいものではありません。現地の信頼できるパートナーを選ぶこと、販路をどのように確保するか、提供商品・サービスを現地のターゲットの嗜好に合うよう現地化をどの程度行うか、採用する現地従業員の質と量をどの程度にするか、会計システムの構築、不正リスクにどのように対処するか等、多くの事を考慮する必要があります。仮に首尾よく海外進出を果たしても、現地販売先の確保の困難性や現地パートナーとのトラブルから、多くの中小企業が進出して間もなく撤退する憂き目にあっています。したがって、助言を行う診断士側も、当該進出国の専門知識や海外特有のマネジメント・ノウハウなど高いレベルの専門性が求められます。

4.国際部の事業活動と役割

講演では、過去10年以上の国際部の事業活動履歴が報告され、大半の参加者は初めて知りました。現在の国際部活動が過去の経験の継続と断絶のうえにあることがわかり、今後の活動を考えるうえで「温故知新」として大変参考になりました。活動履歴の要点は以下のとおりです。

① 協会における国際部の役割(ミッション)の明確化 : 2010年当時の東京支部のもので、基本的には現在も同様のものを使用。

② 国際オープンセミナー : 各時代にマッチした多彩なテーマと洗練された講師陣が講演。

③ 海外研修旅行・海外調査 : 1999年~2012年まで年1回実施、参加者全員で海外研修調査報告書を作成し、関係先に配布。(現在は中断されており、替わって㈱ワールド・ビジネス・アソシエイツ主催で海外調査が施行されている。)

④ 国際交流 : 2004年~2010年まで毎年「在日留学生との国際交流会」、1995年~2004
年まで各年度「北京社会科学院との日中相互交流事業」(現在は中国研究会がこの交流会を引き継いでいる。尚、中央支部事務所内の壁に掛かっている中国山水画は北京社会科学院との交流時に贈呈されたものである。)

⑤ 情報発信 : 診断士協会英文ホームページの作成、グローバル・ウインド、国際部の
任意グループによる協会本部の研究・調査事業における執筆など。

講演の最後に行ったディスカッションでは、今後の国際部の活動に期待するものとして、「国際部を、情報共有の場、人脈、ネットワーク、ノウハウ共有の場として活用したい」、「将来、国際的な仕事に携わるめの助けになる活動・情報があるとよい」等のご意見を頂きました。

写真2

前述のとおり、実際の海外進出等の業務には、高い専門性が求められます。しかし、国際化という、トピックスに対し、経営者のサポート役である中小企業診断士が全く対応できないのでは、21世紀の中小企業診断士としては、心もとないものと感じます。そのようなことにならないように、会員診断士の皆さまへ情報提供や初期相談への対応をサポートするのが国際部の役割かもしれません。個人的には、協会診断士向けの、協会所属の診断士がきちんと初期対応できるよう「国際化よろず相談事業」等の協会診断士向けの事業を強化するのも一つの役割であると感じます。

5.おわりに

国際化はすでに日常のいたるところで見受けられるようになりました。経営者と接するに当たり、仮に経営者が意識していない場合でも、国際化が当該会社にどのような影響を与えるのか、診断士側がそうした視点から考慮することが必要な時代になってきました。

また、国際化というと語学力、特に英語力のあるなしに頭が行きがちですが、私は国際化と語学力の問題は、切り離して考えるべきものであると考えます。例えば、各省庁や外郭団体で公募する仕事の一部には、英語を必要としないものもあります。それは、英語を解さない英語圏以外の外国人向けに実施する研修で、通訳を通じて講義を行います。こうしたケースの場合、重要なのは語学の力量ではなく、コンテンツそのものの専門性やわかり易さ、研修実施後の成果です。こうした事例は、語学力や海外進出の専門性うんぬんの前に、国境を越えて通用するコンサルタントとしての「強み」「専門性」が大切である事を、改めて感じさせてくれます。

私も、国際化という言葉に踊らされることなく、英語が障壁とならないくらいの価値を提供できる「SHI-N-DA-N-SHI」を目指し、これからも精進してまいりたいと思います。

 

■小林 隆(こばやし たかし)

経営企画室株式会社代表取締役社長。百貨店、会計事務所を経て2010年に独立し、現在に至る。

戦略策定、経営計画作成、ビジネスモデル構築、マーケティング、組織経営導入、企業 再生、事業承継 等、経営者・幹部等のコミュニケーションを活発化し、企業の仕組み づくりや仕掛けづくりを支援。また、カンボジアにおける起業家関連イベントを毎年開催。その他にセミナー講師として、幹部育成・社員教 育・研修等に従事。経済学修士、経営学修士、中小企業診断士。