Global Wind (グローバル・ウインド)
スマートフォンの普及プロセスから、未来の産業構造を予想してみる

小泉 岳利

スマートフォンの登場と普及は日本の電機業界に、良くも悪くも大きな変化をもたらしたと思われる。このスマートフォンを含むIT業界は昔から“ドッグイヤー”と呼ばれているように、非常に変化の速い業界である。私はIT業界に材料を供給している側に身を置いているが、IT業界の変化の流れをとらえることで、今後の他の産業、特に工業の変化を予想できるのではないかと考えた。

まずは、スマートフォンの登場から普及までの大まかな流れを整理したい。

<フィーチャーフォン時代>
・国・地域毎に多くの端末メーカーが存在(“ローカル”の時代)
・日本でも電機メーカーを中心に多くのモデルが生産されており、機能やデザインを競っていた

< iPhone (iOS)登場(導入期)>
・世界共通の単一機種=“グローバル”の始まり
・多機能 & Appleのブランドにより、相対的に“高級機”の位置付け
・先進国、新興国の高所得者層を中心にヒット

<Androidの登場(成長期)>
・Galaxy(Samsung)をはじめ、今もある“老舗”メーカーが台頭し、性能を競う(高価格帯)
・一方、中国を中心にローカルメーカーが登場。低価格を武器に、自国の広い市場を中心に販売
・フィーチャーフォンからの乗り換えが顕著になる

<新興国のスマホメーカーの台頭(成熟期:現在)>

【表―1】
表ー1 IDC資料

【表-1】は、米国の調査会社であるIDCが発表した2016年1Qのスマートフォンメーカーの販売数量と世界シェアである。この表からは、以下の情報が読み取れる。

1) 老舗メーカー(Apple、Samsung)の成長が鈍化
→欲しい人には行きわたった。とはいえ、2社のシェアは合計で約40%もあり、まだまだ高い
2) 中国の新興メーカー(OPPO、vivo等)が台頭とXiaomiのシェア縮小
→中国市場にはミドルレンジ~低価格機であれば、まだ大きな市場がある
→Xiaomiは昨年までは中国国産メーカーの旗手のような存在であったが、急速にシェアを落としている。まさに、「生き馬の目を抜く」競争市場である。
3) 日系メーカーは、上位には見当たらない

※OPPO、vivoは、セルフィー(自撮り)、短時間充電長時間駆動など、自国のニーズに応えて特徴を出した機種を販売し、ユーザーを増やしている。中国に次いで人口の多いインド市場にも進出。一方、ミドルレンジ機は先進国でも販売しており、こちらは高価格・高機能が不要な人にヒットしている。
※中国のスマートフォンメーカーは、日本にはまだ馴染みのないメーカーが多いので、参考のため上位メーカーのWebページを示す。「安かろう、悪かろう」ではないことが見て取れると思う。
Huawei:http://consumer.huawei.com/en/index.htm
OPPO:http://www.oppo.com/en/index.html
vivo:http://www.vivoglobal.com/
Xiaomi:http://www.mi.com/en/

【表―2】
表ー2

【表―2】に、主要各社が、どこで企画・生産・販売しているかを一覧表にしてみた。生産拠点は、どのメーカーも中国及びその周辺である。

最後に、これまで示してきたスマートフォン市場の現状から、今後の世界の産業(工業)構造を勝手に予想してみた。(図―1)

図ー1
【図―1】

生産面では、中国はすでに“世界の工場”としての地位を築いている。賃金上昇の問題から“脱中国”の動きはあるものの、物流コスト等の問題から、今後も生産の中心は中国・インドといった大消費地から大きく離れることはないと考える。

消費の中心は、経済成長や人口を見れば今後もアジア圏(特に中国、インド)が中心であろう。両国の人口は2016年時点ですでに世界人口の約2割であり、経済発展とともに購買力も向上していくと思われる。ただ、高級品にも一定の市場はあるものの、“量”が出るのは普及品と考えられる。従って、企業の戦略も「少量・高付加価値」と「大量・安価」のどちらの市場を攻めるのか明確にする必要があるように思う。

一方、先進国市場は、技術力やブランド力を生かして新しい製品を企画してアジアで生産し、それを自国に導入するようなモデルになっていくように思われる。ただ、中国・インドなどと比べれば人口は少ないため、“量”は見込めない。必然的に少量の高価格帯の製品が販売の中心と思われるが、「高価格・高機能」を不要とするユーザーはミドルレンジの普及品を選択すると考える。
これらを勘案すると、先進国市場を攻めるには、高い技術力やユニークなアイディア、特徴あるデザインなどを前面に出して商品の“企画”を行っている会社にアプローチして認定サプライヤーにしてもらうか、中国等のアジアの生産拠点にアプローチして先進国向けのモデルに採用してもらい、間接的に先進国へ販売することになるように思う。

皆さんの会社や支援先は、どこを攻めますか?

■小泉 岳利(こいずみ たけとし)
1966年生まれ。千葉大学工学部工業化学専攻修了後、総合化学・アルミ加工メーカーを経て工業用接着剤メーカーに勤務。工場で品質保証・環境管理を長く担当後、生産技術,購買,総務等の間接部門の業務に従事。中小企業診断士合格を期に本社に異動して管理会計や海外現法の管理業務を担当。企業内診断士。2015年5月中小企業診断士登録。