中央支部・国際部 山﨑 肇

図1ハラルマーク

 図2ハラルイメージ

 

1.はじめに

 

先月のグローバルウィンドで紹介された、2016年11月19日に開催された秋まつりでの「おさえておきたいハラル認証のポイント【基礎編】」セミナーの報告に続いて、本日は2016年12月2日に開催したセミナー第2弾【実践編】~ハラル料理を味わって、インバウンドを体感しよう!~からのレポートをお届けします。

 

2.“ハラール(ハラル)”と“ハラム”の復習

 

ここで簡単に前号でも紹介した“ハラール(ハラル)”と“ハラム”を復習しておきましょう。

(1)“ハラール(ハラル)” “ハラム”とは

ハラール(HALAL)とは、イスラムの聖典クルアーンの中で唯一の神(アッラー)が人に対して下した戒律(イスラム教法=シャーリア)において「合法である」、「許されたもの」という意味のアラビア語です。

逆に「非合法なもの」「許されないもの」をハラム(HARAM)と言います。

 

(2)シャーリア法でナジス(不浄)とされるもの(≒ハラム)

以下に代表的なものを示します。

・豚および猪の派生品すべて

・ハラールでないもので汚染しものや、ハラールでないものと直接接触したハラール食品

・人体や動物の開口部から排泄された液体

・死肉、シャーリア法に則って食肉処理されていないハラール動物

・アルコールを含む食品、または飲料

 

ハラールではないものは、他にも以下のようなものがあります。

・獲物を殺すために長く鋭い爪や牙を持つ動物

・シラミ、ハエなどの不快生物

・ネズミ、ゴキブリ、ムカデ、サソリなどの有害生物

・遺伝子組み換え食品

 

ちなみに水中でしか生きられないもの(魚類)はハラール(合法)だそうです。

 

3.東銀座「ダルマサーガラ(Dharmasagara)」のご紹介

 

今回の実践編で選んだお店は、東銀座の「ダルマサーガラ」という南インド料理のお店です。以下は、お店のホームページからの紹介です。

”オープンは2003年10月。店名の「Dharmasagara(ダルマサーガラ)」は、サンスクリット語で”仏法の大海”という意味。静かなインド音楽が流れる店内は、ほのかなお香のかおりに包まれ、インドの僧院をイメージして作られています。静かで落ち着いた印象の店内。テーブル・イス、銀食器は、オーナー自らインド・ネパールに赴き、デザインして作ったオーダーメイド。

日本にはたくさんのインド料理レストランがありますが、そのほとんどが北インド料理です。御飯を主食にする南インド料理は、油を控えたさっぱりとした味で、不思議と日本人の味覚に合ったものばかりです。当店の料理人たちは、皆南インドの出身で、高級ホテルで経験を積んでいますが、野菜のメニューはあえて、お母さんが家族の健康を考えて丁寧に作るホームメイドスタイルにしています。 

現在のシェフ、ラジューとパンディは、どちらもタミルナドゥ州マドゥライの出身です。チェティナードチキンカレーで有名な、チェティナード村の近くです。日本に来る前は、どちらもデリーの五つ星ホテルで腕をふるっていました。

身体にやさしく美味しい南インド料理を是非お試しください。当店では厳選された食材のみを使用しております。中国産、韓国産、化学調味料、人工着色料は一切使用しておりませんので、どうぞご安心下さい。”

 

アルコールを置いているためハラール認証は取れませんが、幅広い顧客ニーズに対応できるように、無理に取得しようとはしていません。しかし、肉類等の食材はハラール認証品、調味料はハラール協会推奨品を使用しており、顧客のハラール料理の要望には自信をもって提供しています。

このことからお店の信用度は高く、口コミ、SNSで評判が広まり、旅行代理店や海外顧客に対応する会社からのビジネスユースでの問合せも多いということです。

 

以下は「ダルマサーガラ」のオーナー山田尚美氏(以下「オーナー」)へのインタビューになります。

 

4.なぜハラール料理を始めたのか、店の経営方針

 

オーナーに初めに「なぜハラール料理を始めたのか」についてお尋ねしました。

 

日大芸術学部でジャーナリズムを学んでいたオーナーは20歳の頃、大学の教授の勧めでインドの旅を経験しました。もともと仏教に興味があったオーナーにとってそこは居心地がよく、食事も問題なく健康的に過ごすことができてとても気に入ったそうです。

インドが大変気に入ったオーナーは、翌年もまたインドの旅に出かけました。このときは長旅で隈なくインドを回ったので、さすがに暑さでバテて食欲もなくなりヘトヘトになったのですが、南インドのタミルナドゥ州に着いて、野菜が中心のミールス(南インドのカレー定食)を食べると一気に食欲が回復して元気になったということです。南インド料理はアーユルヴェーダという伝統的医学に端を発する医食同源の健康食で、主食のコメに合う野菜中心のオカズで油は控えめ。食欲増進のためにスパイスを利かせた料理です。

そして後年、南インド料理好きが高じて、自らその店を出すことになったのです。

 

母方が禅宗のお寺で、高校は浄土真宗の学校だったので、「仏教は居心地がよかった」というオーナーは、大学卒業後独学でチベット密教や仏教を研究しつつ、美術展のグッズ販売コーナーで仏教美術の販売をしていましたが、やがて上野不忍池で仏教美術のギャラリーを始めました。

しかし、チベット仏教美術だけではさすがに集客力が弱いので、ギャラリー兼レストランを考え、現在の東銀座に店を出したのが13年前とのことです。レストランを南インド料理にしたのは言うまでもありません。

 

南インド料理は基本的にはベジタリアン料理ですが味もしっかりしています。メニュー構成はベジタリアン50%、肉料理50%。イスラムのインド人も来るので、オープン当初からチキンはブラジル産、マトンはニュージーランド産でともにハラール認証品でした。

ところが、イスラムのお客さまが間違ってハラールでないものを注文してしまうケースが頻発したため、すべての食材をハラール対応品に切り替えたとのことです。

また、前述のとおり、ダルマサーガラはハラル認証取得までは考えていませんが、オーナー自らも2年前から日本ハラール協会の講習会を受講しており、調理方法や食材のチェックポイントを学んでいます。アルコールや乳化剤の含有がないかも入念にチェックしているとのことです。

 

キッチンには豚由来のものは全くなく、ヒンズー教対応で牛類も全く置いていません。肉はハラル認証のチキンとマトンのみです。さらにインド料理はアルコールを使わない上に、しょうゆも使わないので、調味料のアルコール添加品も店内には全くありません。

 

ところで、インドのハイカーストの人々はベジタリアンなのですが、玉ねぎ、にんにくも肉食を連想させるとして食べないそうです。ちなみにジャイナ教は地下の昆虫などを殺生する恐れがあるということで根菜も食べないとのことです。

ダルマサーガラではこのような宗教にも対応できていて、最近ではアレルギー対応にも注意して、グルテンフリーにも対応しているそうです。

 

「ダルマサーガラ」は開店当初からWebのレストランガイド(食べログの原型)の上位に来ていたこともあり、まともなベジタリアン料理に対応した店としてインド人を中心に口コミが広がりました。ハイレベルのインド人は旅先でもインド料理を食べたがるのだそうです。

 

イスラムの人もお店がハラル認証でなくても、店の対応とか姿勢を見てまた来てくれるようなるそうです。「どこの国のどの宗教の人が来ても困らない店を目指している」とのことです。

 

「店の方針はこだわらないこと。ベジタリアンから始まってハラールもできるというようにお客様の要望に応えること。ニーズに合わせて、安心、安全に美味しく提供したい」とオーナーは言います。

食事の大切さは心配なく、落ち着いて食べれること。医食同源、食べることで元気になる。インドは自然が厳しいのでこうした考えが生まれたのだろうとのことでした。

 

5.オーナーのイスラムへの思い

 

「イスラムだけではない。さまざまな人の思い、大事にしたいものを尊重してあげたい。

ヒンズーも同じ、各宗教をレスペクトしてあげたい。

自分を大切にしない人は他人も大事にできない」というのがオーナーの基本理念です。

 

6.ハラール料理を提供することのメリット・デメリット、提供するための苦労

 

ハラール料理を提供することのメリット・デメリット、提供するための苦労について尋ねました。

 

【メリット】

社用でイスラムのVIP対応でホームページを見てハラール対応の店として使っていただけることです。一度来られると、「ハラールは店数が少ない中で、ダルマ(当店の愛称)なら大丈夫」との認識を持っていただけます。なお、「世界的にはイスラム教徒への理解が低い中で、日本人は広く受け入れてくれる」ということでイスラムの人々にも日本は人気の国となっています。

インバウンドで訪れる外国人には、ラーメン、寿司、天ぷら、居酒屋など和食が人気です。円安傾向もあり今後インバウンドは益々増えると思われる中で、ハラール対応していることでこれらのインバウンドニーズをとらえることができると考えています。

 

【デメリット】

調味料が高いことです。酢(アルコールフリー)、醤油(不使用)、ケチャップ(原材料のチェック)など、思わぬものに豚由来の使用ケースがあるのでチェックが大変であり、結果として原材料費が高くなります。

 

【ハラール料理を提供するための苦労】

肉類の仕入れ・調達です。13年前の開店当初からブラジルのチキン、ニュージーランドのマトンは彼らが世界に売りたいのでハラール対応ができていました。

むね肉のハラール(ブラジル産)は米国が消費するので日本向けは少なかったです。国産のむね肉はハラール対応していなかった。鹿児島産鶏肉はハラール対応していましたが、卵を産み切ったあとの鳥で肉質が硬かったです。

バングラデシュの問屋がハラール対応してくれました。コンスタントに仕入れたいので、仕入先の探索はネットで探してしらみつぶしに電話するとのことです。

 

7.インバウンドにおけるハラールの位置づけと今後の見通し、お店の対応

 

インバウンドにより、来日外国人が増えている現在は、間違いなくチャンスです。ハラール対応はできる店ならやった方がよいと思います。とんかつ屋は無理ですが、天ぷら、寿司など小さな対応からできる店は用意しておくとよいです。酢はノンアルコール、醤油はハラル認証、みりんはハラル認証のスイートソースなど用意できることはいろいろあります。ニーズに応えることが大切。予約で準備する体制も可能です。

 

8.これからハラール対応を考えている経営者への提言

 

オーナーにこれからハラール対応を考えている経営者に提言をお尋ねしました。

 

「無理はしなくてもよいです。先ずは店に豚がないことが必須です。

厳格なイスラム教徒は少しでも懸念があると肉は避けて、魚介やベジタリアンを注文することがあります。インバウンドのベジタリアン対応もできるので、一つでもベジタリアンメニューを用意しておくと汎用性が高く便利です。シーフードもハラールなので同様に1種類用意しておくとよいです。

例えば、タリーズコーヒーなどではベジタリアンサンドイッチを置いていた例もあります。2020年の東京オリンピックに向けた対応は重要と考えています。」

 

9.「ダルマサーガラ」の未来、今後の展開

 

「日本に行けばダルマサーガラがある」とインド人出張者が広めてくれており、現地の人が美味しいと言ってくれることが励みです。

どこの国のどの宗教の人が来ても安心、安全、美味しく楽しめるお店を理想としています。星の付く一番おいしい南インド料理の店になることを目指しているとのことです。

 

10.実践編イベント当日の様子

 

実践編は19時開始で、先ずはハラール体験ということで、日本で唯一ハラール認証を取っている「忍者ビール」で乾杯し、ハラールのミールス(南インドのカレー定食)をいただきました。とても美味しく、見た目も美しく日本人の味覚に合った食べやすいコースでした。

オーナーのお話や11月のセミナーの講師の日本ハラル協会の方にも再度参加いただき、セミナーの復習をしながら楽しくいただき、20時からはハラームタイムということでワインを出していただき、大いに盛り上がりました。

参加者全員大満足で笑顔でお開きとなりました。

図3_実践イベント参加者写真

 

11.オーナー紹介

 

山田尚美氏

福岡県出身、日大芸術学部文芸学科卒業

大学時代に電通子会社にアルバイトするかたわら、インド探索の旅。

京都佛教大学で学芸員資格を取得

繊維系の会社で経理事務1年

インドやネパールで仕入、26歳のころ仏像仏画の販売を始めた。

駒込にオフィス → 15年前、上野にギャラリーオープン

13年前、上野から東銀座に移り、「ダルマサーガラ」をオープン

http://www.dharmasagara.com/

 

 

■山﨑 肇(やまざき はじめ)

京都市出身、同志社大学経済学部卒。小西六写真工業(現コニカミノルタ)で営業、企画部門を経て中国上海に販社設立・社長として現地赴任。2015年6月定年退職。2014年8月~翌年2月まで「企業診断」誌に「元気な酒蔵探訪記」を連載。東京協会中央支部国際部。2003年3月中小企業診断士登録、1級販売士。