Global Wind (グローバル・ウインド)

中央支部国際部 安井哲雄

 私は2016年、2017年と2回、エチオピアを訪問しました。2011年に東アフリカ5か国(ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ)を訪問しましたが、エチオピアは近隣の東アフリカ5か国とは異なるとの印象を受けました。

エチオピアは、どんな国?
エチオピアは、東アフリカの「アフリカの角」に位置する連邦共和制国家です。東をソマリア、南をケニア、西を南スーダン、北西をスーダン、北をエリトリア、北東をジブチに囲まれた内陸国です。国土を南北にアフリカ大地溝帯が縦断しており、国土の中央は高原地帯です。首都アジスアベバは標高2,400メートルの高原に位置し、エチオピアには4,000メートル級の高山があります。アジスアベバでは空気が薄く乾燥した快適な気候で、大きな湖が点在しています。南部に行くと標高が低くなり熱帯性気候になります。
エチオピアは国土面積114万km2(日本の約3倍)に9,939万人(2015年/世銀統計)が住み、サブサハラアフリカ第2位の人口を擁しています。2010/2011年の人口8,070万人を起点に、5年間では毎年2.4%~2.6%、200万人~220万人の人口が増加しています。
エチオピアはアフリカで唯一、欧州各国の植民地化を免れた独立国家です。長い建国の歴史があり、今日エチオピアはアフリカの主導的地位にあり、アフリカ連合の本部はアジスアベバに置かれています。誇りが高い国民性で、比較的に犯罪や汚職が少ないのが特徴です。その一方、エチオピアは国連開発計画委員会が認定する後発開発途上国(LDC:Least Developed Country)49ヵ国の一つです。

エチオピアの基礎データ
1. 国名 エチオピア連邦民主共和国

(Federal Democratic Republic of Ethiopia)

2. 国土面積 114万km2  耕作地51.3万km2(45%)、灌漑地3.42万km2(3%)
3. 気候 乾季と雨季がある。乾季は10月から5月まで、雨季は7月から9月まで。アフリカ基準では温暖な気候であるといえる。
4. 地形 エチオピアは大地溝帯の上に位置し、国土は全体的に標高が高く、首都アジスアベバは標高が約2,400m、南部では標高0mの場所もある
5. 人口 9,939万人 (2015年、世界銀行)
6. 首都 アジスアベバ (アフリカ連合の本部、及び、国連アフリカ委員会の本部がアジスアベバに置かれている。)
7. 宗教 キリスト教、イスラム教、その他の伝統的宗教 (エチオピアは宗教的寛容であるのが特徴)
8. 言語 公用語はアムハラ語(Amharic)、英語(ビジネスでは広く使用されている。その他言語は、オロモ(Oromiffa)、ティグライ (Tigrigna)などがある。
9. 政治体制 複数政党による連邦議会制。上院The House of the Peoples Representativeと下院The House of the Federationの二院制
10. 国家元首 大統領:  Dr. Mulatu Teshome
11. 政府首班 首相:   Hailemariam Dessalegn
12. 実質GDP 7,470億ブル(2015/2016年)

1エチオピアブル=4.7689円 (2017年9月)

13. 実質GDP成長率 8%  (2015/2016年)
14. 一人当たりGDP(名目) 794米ドル  (2015/2016年)
15. 一人当たりGDP成長率 9.5%   (2015/2016年)

 

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エチオピアと日本

2020年に第2回目の東京オリンピック大会が開催されます。1964年に開催された第1回目の東京オリンピックのマラソン競技では、エチオピアのアベベ選手が2時間12分11秒の世界新記録で優勝したことが思い出されます。アベベは1960年のローマオリンピック大会で優勝し、続く1964年の東京オリンピックでも優勝し、オリンピック史上初のマラソン2連覇達成の快挙を成し遂げました。ローマオリンピック大会はアベベにとって初めての国際大会で、ローマ大会の前までアベベは誰にも注目されない無名の選手でした。そのアベベが裸足で走り、独走でゴールし、しかも2時間15分16秒の世界新記録でした。このためローマでは「裸足のチャンピオン」として有名になりましたが、その後のマラソン大会では靴を履いて走りました。1968年のメキシコオリンピックに三度目の優勝を目指し出場しましたが、足の故障で途中棄権。その年に交通事故に遭遇しで下半身不随になりました。その後、彼はエチオピア初の障がい者スポーツ団体を立ち上げ、大会ではチームの監督を勤めました。また、自らアスリートとして試合に臨み、1971年、38歳の時にノルウェーで行われた障がい者犬ぞりレースに参加し、見事優勝しました。アベベは1972年のミュンヘンオリンピックに招待されました。その翌年、脳出血を起こし、41歳の若さで波乱万丈のヒーローの人生を終えました。

エチオピアで1995年に首相に就任したメレス氏(メレス・ゼナウィ・アスレス)は、2012年に病死するまでエチオピアの経済成長に貢献しました。任期中には、メレス首相の指導で、当時発展が著しいアジア地域の経験から学ぶべく、日本の「カイゼン」をエチオピアに導入、Ethiopian Kaizen Instituteを設立、人材を育成し、エチオピアの国内産業に「カイゼン」の普及を指導しました。カイゼン普及には日本政府と民間コンサルタントが協力支援しています。2000年代にメレス首相が来日のおりに、中小企業診断協会の会長・役員と面談したと記憶しています。当時、中小企業診断士を中心とする民間コンサルタントがエチオピアで「カイゼン」の技術移転・人材育成の活動に従事していました。

 

エチオピアの多様性

エチオピア人にはユダヤ人の遺伝子があり、ソロモン大王(イスラエル王、ユダヤ人)とシバの女王(アラブ人、シバ=エチオピア)の間に子供がいたという説に繋がるようです。現にイスラエル政府はエチオピア人の中からユダヤ人の子孫を調査し、ユダヤ系と認定されたエチオピア人はイスラエルに移住することができます。

エチオピア人の外観は、肌が黒く、鼻筋が通り、背が高くスリムな体型の人が目立ちます。私はエチオピアの女性に美人が多いように感じましたが、他の日本人も同様の印象を持っていました。総じて、出会ったエチオピア人は、柔和で人あたりがよい人が多く、親しみを感じます。

エチオピアの民族や言語(ローカル)、宗教と文化は多様です。アジスアベバでは、キリスト教の教会が多いですが、イスラム教会・モスクもあります。全国に歴史的なキリスト教教会の遺産があり、キリスト教も欧州とは異なり、キリスト教の歴史に関心のある方には旅行する楽しみが多いでしょう。

経済成長に伴い、アジスアベバではビルの建築ラッシュで、工事中の高層ビルやマンションが林立し変貌しています。目抜き通りにあるショッピングセンター、商店、コーヒーショップなどの風景は他の国の近代的大都市と変わりません。しかし、地方の郊外に行きますと、粘土で固めた小さな粗末な家屋があり、牛が放牧され、アフリカの田舎ののどかな光景を見ました。

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エチオピアの魅力とポテンシャル

エチオピアには、外国直接投資先としてポテンシャルがあります。エチオピア政府の2015年の国家開発計画(5カ年)では、2025年までに中所得国入りを目標とし、製造業の毎年25%の成長、外国直接投資の促進、200万人分の新たな雇用創出を目指し、外資誘致のための工業団地の開発に重点を置いています。

投資ポテンシャルのある産業は、織物・衣料縫製、皮革・製靴、農産物加工、金属・エンジニアリング、家電・電線、医薬品、建築材料などで、中国、トルコ、インド、EU, USAからの投資が増えています。特に、中国は国策である一帯一路(One Zone, One Road)の後押しがあり、中国のインフラ分野を中心とした投資・進出が著しく、中国人ビジネスマンに加えて建設労働者も増えています。

エチオピアへの投資進出のメリットと課題は次のとおりです。

〈メリット〉

  • 政治体制が安定しており、アフリカのリーダー的存在。政治リスクが少ない。
  • 人口9,939万人はアフリカ第2位の人口であり、人口増加率6%で若年人口が多い。
  • 人件費が安く、電気も安く、コスト競争力がある。労働力が豊富である。総電力需要2,000MWに対して、1,800MWの水力発電所を建設中で、2016年12月に一部が稼働し、フル稼働になれば電力が余る状況。経済成長は堅調で、国内市場も拡大している。
  • 柔和、真面目・勤勉な国民性。英語はビジネスで広く使用されており、ビジネスコミュニケーションがしやすい。
  • アジスアベバ空港はアフリカ随一のハブ航空であり、航空貨物の輸送の利便性が高い。日本(東京)‐エチオピア(アジスアベバ)間では、エチオピア航空の直行便(週3便)があり、フライトの利便性が高い。
  • エチオピアは、中近東、アフリカ、欧州、南アジアに近い地理的優位性がある。この地域を市場の対象にした製造拠点になる。

〈課題〉

  • 慢性的な外貨不足で、外貨規制が厳しい。
  • エチオピアは内陸国で、海上貿易のための港がない。隣国ジブチのジブチ港とエチオピアの間、約900kmはジブチ国内の内陸輸送で、トラックか鉄道で輸送される。輸入の場合、書類手仕舞いの事情が悪く、ジブチ港で揚げたコンテナがエチオピアのドライポートに配送されるまで、早くても5日以上の日数を要する。(昔より相当改善した。)
  • その他、世界銀行のDoing Businessでは、ビジネスのしやすさでエチオピアはサブサハラの平均より低く、投資環境の改善が課題である。

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終わりに

日系企業では主にアセアンを中心に海外展開が増加していますが、新規進出する産業分野は製造業から流通・サービス分野に変化しており、進出企業の競争は厳しくなっています。

エチオピアに進出しているスリランカの縫製企業の社長に「バングラデシュでなく、エチオピアに投資した理由」を尋ねたところ、「バングラデシュの縫製業の競争は厳しく、スリランカ企業が今からバングラデシュに投資しても遅い。開発と経済発展が進むエチオピアにはチャンスがある。」との返事でした。

日系企業の間でも、残されたフロンティアであるエチオピアへの関心が高まると予想されます。

 

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安井哲雄 (やすい てつお)

中小企業診断士、東京都中小企業診断士協会会員、中央支部国際部所属

中小企業診断士事務所「グローカル経営研究所 代表コンサルタント」

株式会社商船三井を経て、2009年に株式会社ワールド・ビジネス・アソシエイツに参加し、理事・シニアコンサルタント。主にJICAの民間セクター開発分野の調査や人材育成業務に従事し、ウクライナ、中央アジア(カザフスタン、キルギス、ウズベキスタン)、東アフリカ(ケニア、タンザニア、ウガンダ、ルワンダ、ブルンジ)、ベトナム、バングラデシュなど多数の新興国を歴訪、経験した。その他、中国各地も訪問した。