グローバル・ウインド

国際部 向井実

 顧問先の中小企業経営者から「人手不足は深刻だ、外国人材を雇用したいが、動向、法令、留意事項、活用事例と成功の秘訣TIPSを教えてくれないか」と聞かれたらどうしますか?
 そんな国際派診断士のあなたと一緒に、【1】日本での外国人労働者の実態、【2】外国人材活用成功事例、【3】“外国人労働者”との付き合い方を探っていきましょう。

【1】日本での外国人労働者の実態
 2018年12月、「特定技能」という新しい在留資格で外国人労働者を受け入れる出入国管理法(入管法)の改正が成立しました。外国人就労拡大の背景にあるのは、人手不足です。日本の人口は2060年までに32.3%減ると予測されています。特に生産年齢人口(15~64歳人口)は同年までに45.9%減。このような人手不足の予測が、外国人労働者への期待の背景にあります。
 新たな「特定技能」の導入で2025年には、外国人労働者が200万人を超える勢いです。

図表1 我が国における外国人労働者数の推移
zuhyo1

図表1「外国人雇用状況」、出典:厚生労働省

 「我が国における外国人労働者数の推移」を見ると、日系2世・3世や在日の永住者たちの「身分に基づく在留資格」の割合が一番多く占めています。いわゆるホワイトカラー的な仕事の「専門的・技術的分野の在留資格」、人手不足を背景として推し進められてきた「技能実習」、留学生がアルバイトとして働く「資格外活動」の割合も軒並み増加しています。今後は新たな制度「特定技能」の外国人労働者が増加していくと想定されます。

図表2 外国人労働者数の在留資格と増加率
zuhyo2

図表2「在留資格別増加率」、出典:厚生労働省

 最新(平成30年10月末)の統計情報を見ると、外国人労働者数は1,460,463人で、前年同期比181,793人、14.2%の増加となり、平成19年に届出が義務化されて以降、過去最高となりました。増加した要因としては、①政府が推進している高度外国人材や留学生の受入れが進んでいること、②雇用情勢の改善が着実に進み、「永住者」や「日本人の配偶者」等の身分に基づく在留資格の方々の就労が進んでいること、③技能実習制度の活用により技能実習生の受入れが進んでいること等が背景にあると考えられます。

【2】外国人材活用成功事例
 さて、次に人手不足や競争激化という脅威の中、外国人材を活用して販路拡大やインバウンド需要の取り込みに成功している企業の事例を紹介します。
 企業で働く外国人材の中心となるのが、『高度人材』と呼ばれている人々で、在留資格「専門的・技術的分野」に相当する外国人労働者です。

図表3 高度人材
zuhyo3

図表3「高度外国人材活用資料集」、出典:JETRO

図表4 外国人材活用事例(1)
zuhyo4

図表4「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために」、出典:厚生労働省

★ポイントは、CDP(キャリア開発計画)の採用。
高度人材が求めるのは「職務記述書」と「専門性」の重視です。日本的な、①正社員=期間の定めのない雇用契約(無期雇用)と、②総合職=何処で何をさせられるのかが分からない、では①目標期限を設けて②専門性を活かしたい大学卒の高度外国人にとっては、不安です。本事例企業は、外国人採用を契機に、総合職と専門職を設け、業務内容や目標を明確にしました。

図表5 外国人材活用事例(2)
zuhyo5

図表5「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために」、出典:厚生労働省

★ポイントは、受入れる日本人管理職の部下育成力強化です。
日本人と違い、「あいまいな説明をしても、理解は得られない」中で、日本人管理職向けの意識改革を実施して、明確な説明、目標設定、フィードバックを徹底させた事で、高度人材17名、離職率ゼロにまで職場を変えた事です。

図表6 外国人材活用事例(3)
zuhyo6

図表6「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために」、出典:厚生労働省

★ポイントは、コミュニケーションの“共通語”としてのEnglishです。
Englishは英国人、米国人の言葉で無く、例えばアジア5ヶ国の5人で仕事の話をする場合、1人でも同じ言語(例えば日本語)が通じなければ“共通言語”は、英語になります。文法も発音も、“家庭で使う自国語”の影響を受けていますので、ネイティブの英語ではなく、第2外国語です。

図表7 外国人材活用事例(4)
zuhyo7

図表7「高度外国人材活躍企業50社」、出典:経済産業省

★ポイントは、「インバウンド顧客対応は、自らの職場のインバウンドから」!
年間訪日外国人客数は、2018年12月に3000万人を突破し、2020年には4000万人を目指しています。日本人がインバウンド顧客のニーズを探るより、高度外国人材を雇ってインバウンドビジネスを企画、運営させた方が早く、確実かも知れません。

図表8 訪日外国人の推移
zuhyo8

図表8「年別 訪日外客数の推移」、出典:日本政府観光局

【3】私の“外国人労働者”としての経験
 最後に【3】隣人としての外国人とどの様に接すればいいか、私の米国赴任中の『外国人労働者』としての経験から探っていきましょう。

(1)最初は、外国人労働者の立場での経験です。実は、米国赴任の内示段階ではカリフォルニアのサンタクララ(Silicon Valley)でしたが、子会社統合で6社を1社にする事になり、本社を置くことになったのは、北米大陸東西(3時間の時差あり)の中央に位置するテキサス州(Central Standard Time)でした。友人の米国人からは「共和党の地盤なので、外国人には住みづらい」「南部なので、有色人種への差別が残っている」「メキシコと国境を接しており、治安が悪い」「家族は連れて行かない方が良い」と、注意を喚起する意見が多かったように記憶しています。
 しかし、赴任してみると日本人が少ないこともあり、勤務先でも、住居地域でも、子供の学校でも本当に親切にしてもらいました。特に、学校に関しては、日本人学校は無く現地校、クラスには日本人はいないので、娘たちは苦労していた様子でした。しかし語学習得適齢年齢とサバイバル環境のお蔭で、帰任時の“実用”英語能力は①次女(中学生)、②長女(高校生)、③女房、④私と、赴任時と真逆になっていました(当方は、日系企業で甘えがあった!)。
 外国人の立場で3年間暮らした経験では、最初は「常識や仕来たり」への戸惑いがありましたが、①何でも文書に書いてサインする(学校でも銀行でも歯医者でも大量の文書処理がある=Paper Work)、②出来ない約束はしない(電話やガレージドアの故障修理に来る時間帯の通知は10:00~16:00と幅がある=Window)、③職務分担が明確(学校での困り事や履修科目選択の相談は、教師ではなく専門カウンセラーの職務=Delegation)、といった“融通や忖度”が利かない言語・文化と、移民国家で新参者を前提とした制度・仕組みがあったので助かったと、今は分析しています。

(2)次に、隣人である外国人との付き合い方です。職場のほうは、IT企業でしたのでインド人やイスラエル人も多く、国籍も宗教も性別も年齢も多様(Diversity)な“外国人労働者”のるつぼでしたが、①業務記述書(Job Description)、②権限委任規定(Delegation Of Authority)が明確で、報酬は③目標管理制度(Management By Objective)ですので、“外国人(日本人)”を理由に困ったことは無かったと思います。逆に、帰国して「日本人だけが乗車している、話し声がしない電車」に乗ると、何となく“不気味で落ち着かない”感覚に襲われた事を記憶しています。
 従って、気を使った外国人隣人は、右隣に住むインド人のスニール夫婦と、左隣のロバート家、そして誕生会やハロウィーンで娘が連れてくる友人や家族でした。この辺は、正直女房と娘の方が馴染むのが早く、当方はバーベキューの準備や送迎の裏方でしたので、それほどストレスは感じませんでした。ただ、食べ物ではスニール夫婦はベジタリアンであり、ロバート家の明るい兄弟も、娘の大人びた友達もアレルギーや好き嫌いが個人別にあり、食材やメニューが大変でした。
 結局何れの立場でも、外国人としての人権や付き合い方は、全員が“外国人(Alien)”でしたので、特に意識をせずに過ごせました。

 さて、【1】外国人労働者が増加していく実態、【2】外国人材をどの様に業績向上に活かすか、【3】隣人としての外国人との付き合い方、を一緒に考えてきましたが、如何でしたか? 職場に外国人労働者が配属されて、一緒に働くことになっても慌てませんか?
 私の日本の職場では、若手の外国人(「専門的・技術的分野」の在留資格である『高度人材』)が毎年配属されてきます。今後は、少子高齢化と人手不足の中、一般単純労働を担う「特定技能1号、2号」の外国人労働者が、あなたの職場にも配属されてきますよ。心構えと備えは、大丈夫でしょうか。
 更に、受け入れ態勢ばかりでなく、この変化を積極的に活用して、外国人材の採用を契機とした働き方改革、販路拡大、そして4000万人インバウンドの需要先取りに、一緒に取り組みましょう。

■向井 実(むかい みのる)
ワールドビジネス研究会(WBS) 副代表幹事
EPA/FTA分科会リーダー
中小企業海外展開支援講座(WBM) 事務局
行政書士、中小企業診断士