グローバル・ウインド

中央支部・国際部 佐々木 隆一

1.海外Podcastのご紹介

商社に長年勤務し、何かと海外との接点が多い仕事に従事していますが、今回のコロナ禍により、3月以降、私の関与していた海外プロジェクトの多くは動きが静かになっており、出張等も無くなっている状況です。リアルで海外に触れる機会が減っている中、世界の情報は今やインターネットやSNS、各種メディアを通じて海外で起きていることにリアルタイムで接する手段が格段に進歩している昨今です。

私は今までアメリカの関連の仕事が多かったこともあり、今までアメリカの政治・経済の状況には興味を持ち関心を払ってきました。

その中で最近毎日のようにスマホで聴いているのがPodcastです。米国大手TV局やBBCのニュース番組やドキュメンタリー、或いはマッキンゼーやゴールドマン・サックスなどの経営の識者によるコラムなど、30分~1時間程度で無料にて聴くこと出来ます。ワイヤレスのイヤフォンで聞けば通勤途中や散歩中でも聴けるので大変便利です。英語のヒアリングの訓練にもなります(息子にも推奨しているのですが、なかなかやってくれません)。

今日は私が良く聞いているPodcastをいくつかご紹介します。
Podcastはアプリをダウロードした上で、下記のタイトルを検索すればすぐ聴けます。いくつかは、別途ケーブルテレビやネットで放映したものを音声で提供しているものもあり、ネット上にアップされているリンクもご参考までに掲載しておきます。

【世界のニュース全般】

Editor`s Picks (The Economist)
https://www.economist.com/podcasts/2020/06/01/americas-approach-to-covid-19-china-launches-rule-by-fear-in-hong-kong-and-africas-soldiers-of-misfortune
アメリカのメディアとは一線を画す偏りがない分析に定評があり、世界の経営陣の間でも信頼の強いエコノミスト誌の編集長が、一週間のトピックスをコメントも交えながら解説。
1_sasaki 引用元:Editor`s Picksトップページ

Fareed Zakaria GPS
https://edition.cnn.com/audio/podcasts/fareed-zakaria-gps
CNNの人気組のポッドキャスト版。リベラル寄りとされるCNNではあるが、インド出身のZakaria氏は比較的中立的で、その週に起きた米国内および国際的な政治経済への分析は学ぶもの多いと思います。

【アメリカの政治】

The Axe files
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/the-axe-files-with-david-axelrod/id1043593599
オバマ大統領の選挙対策本部長として2度の大統領選の勝利に貢献し、今は著名コメンテーターとしてTVに頻繁に登場。著名政治家・知識人を中心に、穏やかな語り口で繰り広げられる1時間のインタビュー形式で行う。インタビューアーの生い立ちから思想など、単に時々のトピックを追うのではなく人物そのものを深く掘り下げる。オバマ、クリントン、マケインなど過去や現在の大統領候補をはじめ、日本でも有名な人物も多く登場するので、過去のインタビューを検索して興味のある回を聴くのはお勧めです。

なお、Axelrod氏は別途、今年の大統領選にトピックスを絞り、共和党員マケイン大統領候補の選対本部長をとつとめたMike Murphy氏との対談形式のPodcast(“Hacks on tap with David Axelrod and Mike Murphy”)も開始。両党の選挙のプロ二人が両候補の選対本部の内情や資金状況など、大手メディアが追い切れない部分を鋭く掘り下げる。トランプ大統領も聴いているとのこと。
Hacks on tap with David Axelrod and Mike Murphy
https://podcasts.apple.com/us/podcast/hacks-on-tap-with-david-axelrod-and-mike-murphy/id1467297559

【経済・経営】
The David Rubenstein Show
https://www.youtube.com/playlist?list=PLGaYlBJIOoa-Ekr4_gWFkGfhYPpeCNQtC
David Rubenstein氏は米国大手プライベートエクイティであるカーライル・グループの創業者だが、もとはワシントンの官僚。最近は発信が途絶えているが、過去のインタビューはBill Gates、Warren Buffet、Alan Greenspan、Jeff Bezos、孫正義など経済人が中心。ひょうひょうとした語り口で冗談を交えながら聞きにくいことをズバリ聞くので、相手も思わず本音を言ってしまう。

【コメディ・お茶の間】
The View
https://abcaudio.com/podcasts/the-view/
女優のウーピー・ゴールドバーグなどが司会をつとめ、”庶民役”の中高年女性メンバーのお茶の間トークの中に著名な政治家やその家族などが飛び入って展開するABC放送の長寿番組。ゲストの政治家が女性陣の口撃にタジタジになることもあるが、好印象をもって上手くこなせると国民の好感度が大幅にアップ。ミシェル・オバマがゲストで登場した際は彼女の庶民的な素顔やスラングも交えたホストとの「ため口」トークが大いに受けました。
 

2.海外のメディアをなぜ視聴するのか

さて、私が海外のメディアを聴く一つのきっかけは、日本のメディアよりも早く事実に触れられることが多いと実感したからです。それは重大な事件のときに特に顕著な気がします。

1990年代末に日本が金融危機を迎え多くの金融機関が苦境にあった時、私はニューヨークに駐在していたのですが、日本の危機の実態につき、日本の新聞やテレビで全く報じられないような情報を米国の経済誌は詳しく具体的に報道していました。

今は合併で消失したある日本の大手銀行のコンプライアンス事件で銀行に巨額損失が発生した事件。幹部の実名入りでどのような不正が行われたのかをウオールストリートジャーナルは特集記事として掲載。でも日本の新聞が銀行内部の実情を報道され始めるのはかなり後になってから。幹部の実名も殆ど掲載されません。日本人メディアはどうしても、政府や大企業にとり不都合な重要事実を発表するのを躊躇します。それは、近しい人を思いやるという点で一面では日本人の美徳でもある「忖度」文化の影響かも知れませんが。

このような経験をして以来、世界的な重大事件や株価急落などの大きな経済事象が生じた際は、日本に関連することであっても、先ず海外の経済誌やニュースを見るようにしています。

東日本大震災でも、福島第一原発の爆発を速報で放映したのはBBC。たまたま家でBBCを付けていたら、突然原発爆発の映像がテレビに生々しく現れたのを記憶しています。急いでNHKにチャネルを変えても何も報道がなく、日本のメディアが爆発の事実を報じたのはしばらく後でしたが、映像はすぐには放映されません。第二次大戦中の情報統制までさかのぼることは致しませんが、日本のメディアだけに頼っていては世の中の実態が掴めない、自身を守ることは出来ないと思ったものです。
 

3.海外メディアでの日本の取り上げ方

現在のコロナ感染に対する日本の対応についても、海外メディアを通じて接する世界の対応との差異に関して、いろいろと思うところはあります。検査体制を含む日本の政策対応の是非についてはここでは触れませんが、海外メディアにて日本のコロナの状況がどう報じられているのかを通して、世界の日本に対する見方というものを垣間見ることができます。

一言でいうと、非常に残念なことなのですが、日本に関してはネガティブなニュースばかりが放映されるのです。コロナ勃発当初のダイアモンドプリンセスのニュースは毎日、日本政府の対応を「迷走」と大々的に放映。その後、欧米のほうが深刻化し、日本のニュースは少なくなりましたが、4月に日本の感染者が増え、緊急事態宣言発出の際には「日本、感染者急増」、と再び放映。その後、5月後半になって日本の感染者数が減少し、日本の自粛規制が緩いにも拘わらず死者数が欧米と比較して大幅に低く、ひとまず危機を脱したのに、そのことは殆ど放映されません。

経済ニュースにしても、日本に関する海外メディアの報道はたいてい「高齢化、多額の国家負債、低い成長率、変化を嫌う硬直的な社会・組織構造のため、将来性・ポテンシャルが低い国」という文脈で語られることが多いと感じます。つまり、日本で仮にポジティブな材料があっても、世界の日本への認識・固定観念と一致しないためにニュースになりにくい、という状況が生じてはいないかと危惧しています。一因として、海外メディアに登場して日本をアピールできる日本人が、他のアジア諸国に比べて少ない、ということも影響しているのかもしれません。

これは80年代後半にジャパン・アズ・ナンバーワンと賞賛されたことを考えると、その落差には愕然とするものがあります。私は90年前半に米国のビジネススクールで勉強したのですが、その際、トヨタやホンダなど日本の企業経営の事例を説明すると米国人学生はみな真剣にメモを取っていましたし、ケーススタディは日本に学べという内容ばかり、日本ツアーが企画されると希望者殺到で「くじ」で当選者を選ぶという状況でした。

世論は常に極端に振れるところがあり、世界のメディアの現代日本への認識には誤解も多いのですが、かかる認識には日本の政治・経済・企業経営の実態の一面の真実を捉えている部分もあろうかと思います。いずれにせよ、どのように日本が世界から見られているかということは、自分の目・耳で接することで初めて実感するものです。そこから新たな発見や課題への解決策が生まれてくることも多いでしょう。
 

4.オンラインによる知の習得がもたらすもの

最後に、ご存じの方も多いかと思いますが、無料で海外の大学レベルの講義を聴けるCourseraというメディアをご紹介します。たまたま会社で推薦していた “AI for Everyone”というコースを聞いてみたところ、専門用語を極力排し、一般人にも大変分かりやすく感動致しました。コースはITのみならず、経済・社会・経営など多岐にわたります。このように、ほとんどお金を払わずに、世界中、どこでも誰でも高いレベルの学習が可能な世の中になったのです。本人のやる気次第で、スキル・知識をどんどん広げることの出来るツールなので、日本の学生・社会人にも是非お勧めしたいと思います。
https://www.coursera.org/learn/ai-for-everyone

このようなオンライン学習ツールは、今回のコロナ危機を通じて一気に普及する可能性があります。問題は、世界中のツールの多くは英語で展開していることです。英語教育のあり方や学校教育の国際化といったことが、一国の高等教育のレベルや技術者の人材プールの裾野の広さの差異などに直結してしまうかも知れません。今後の「9月入学」の是非を検討する際にも、教育現場の負担といった短期的な視点で片付けることなく、未来を見据えた国家戦略として判断してもらいたいものです。

世の中がコロナ禍で厳しい状況を迎えているなかではありますが、常々思っていることが今回の危機を通じて改めて浮き彫りになったのではないかと感じました。また、日に日に便利になっているオンラインによる世界の情報収集・学習ツールをご紹介させて頂きたいとも思い、文章にさせて頂いた次第です。

以上