グローバル・ウインド

国際部 向井実

 国際部員として、未曽有のコロナ禍に狼狽える中小企業に出来ることは無いのか?
 痛みを表現できない、支援を理解できない中小企業も日本国内にいるのではないか?
 国際ビジネス、語学、中小企業支援、補助金・融資支援の強みを、使えないか?
 そして何よりお世話になった駐在国、進出国に対して、恩返しが出来ないか?

 今回は、国際派診断士しかできない二つの取組みと、かつての感染症の拡大を通じた気づきをご紹介します。

【1】在日外資系企業への給付金、融資申請支援
 「向井さん、助けてくれ。どうしても国際派診断士の支援がいる。」
 新型コロナ感染拡大に伴う緊急事態宣言の発出直後に、ニュージーランド大使館の今村商務官からの連絡だった。
 「何とか、ニュージーランドから日本に進出してきた在日外資系企業2社の給付金、緊急融資申請支援を、英語でお願いしたい」
 今村さんは、ワールドビジネス研究会(WBS)のEPA/FTA分科会(通称大使館分科会)活動で昨年、WBS月例会にて講演をいただいた知人であった。
photo1
写真1「ニュージーランド大使館からの講演」、2019.6.20

 早々、国際部、WBS、WBS分科会の「中小企業海外展開支援講座(WBM)」講師仲間に電話とメールで、状況を伝えた。すぐに二人の国際派診断士から連絡が来た。
 一人は、駐在経験が長かった元金融マンの独立診断士、
 「分かった、緊急事態だ、報酬はいらない。長い間、現地駐在員として海外の人にはお世話になった。日本に進出してきたが、帰国も出来ず、本国の役員も訪日出来ない在日NZ中小企業の状況で、今支援できるのは、我々国際派診断士しかいない!」
 もう一人は、新型コロナ禍の中、日夜中小企業に寄り添っている独立診断士、
 「分かった、場所は何処だ、企業規模は。いま、朝から晩まで、新型コロナ緊急融資の窓口申請支援を行っている。日本の中小企業でも分からない制度を外資系中小企業が理解できるはずはない!」

 コロナ緊急支援策は、政府、都道府県、市区町村、中小企業支援機関、商工会議所・商工会、そして民間金融機関と多岐に渡っているが、まともな英語の支援策案内は経済産業省のホームページ程度。これが、外国人には伝わらない日本語直訳英語。
 日本語でも分からない・・協力金、・・給付金、・・助成金、・・補助金、そして各種の緊急融資。日本に進出して間の無い外資系中小企業には、内容も、手続きも、申請方法も分からず、本国の親会社役員・社員も入国禁止で助けに来られない、孤立無援状態。そこで、最後の砦である大使館に駆け込んで来たのである。

photo2
写真2「ニュージーランド大使館の中小企業支援策案内①」

 何とか、①緊急支援要請の、ニュージーランド外資系企業2社は、我々の国際派診断士が対応した。(後日、NZ大使館アドバイザーの称号を授与された)②さらに、隠れている困窮外資系中小企業に対するNZ大使館支援案内Webの作成に協力し、WBS会長で東京都中小企業診断士協会国際部長である永吉さんを支援者トップに載せてもらった。

photo3
写真3「ニュージーランド大使館の中小企業支援策案内②」

【2】国際派診断士になるための最高峰講座・・・「中小企業国際展開支援講座WBM」2020
 【1】で紹介した国際派診断士は、国際部、WBSを経て、現在WBMの講師を務めている会員である。
 この「中小企業国際展開支援講座WBM」の講師陣は、知識、経験とも国際派診断士の最高峰にあるが、最も優れた資質は『次世代を育てたい、海外に恩返しをしたい』という意欲、熱意だと思っている。

photo4
写真4「中小企業海外展開支援講座2020 カリキュラム」

 昨年18名入塾(通称WBM「大喜多塾」)、新型コロナ禍の中、今年7月にWeb最終講義・卒塾式で、無事卒業となった。
 今期も「中小企業海外展開支援講座2020」ミニ体験講義2回を経て、10月18日に六本木ヒルズのハリウッド大学院大学にて開催予定である。
photo5
写真5「中小企業海外展開支援講座2020 ミニ体験講義」

fig6
図表6「中小企業海外展開支援講座2020案内」
ホームページ:https://rmc-tokyo-wbm.jimdofree.com/

【3】新型コロナ禍での物の見え方
 物の見え方、風景の捉え方、情景の感じ方は、百人百様らしい。
 同じものを見て、同じように感じているというのは、錯覚。
 だから、先ずは自らの特異性を自覚し、そして他人、外国人の多様性(Diversity)を認めることが、国際派診断士の条件だと思っている。

(1)2003年中国;SARS感染症
 2008年北京オリンピックに向けた市場調査で北京に長期滞在中。特に映像オリンピックと言われ、放送、通信のデジタル化が加速していた。放送局と言えば、北京ではCCTV(中国中央電視台)だが、全国にもCATVがあり、その関係で広州、武漢なども現地スタッフと訪れていた。そんな中、SARS感染症の流行。現地では「風邪を引いても、病院には行くな」程度の対応、感覚だった。
 予定通り帰国して、三田の会社に出勤すると、隣の事業部長の席が2m離されていた。
 「向井さん、無理しないで、家でゆっくりしていいよ」、「今日会議、出なくていいから」

(2)2009年米国;豚インフル感染症
 米国子会社の本社があるテキサス州に赴任して1年、やっと現地スタッフとの意思疎通もスムーズになり、娘たちも現地校に慣れたころ。米国で豚インフルエンザ感染症が流行。現地子会社では、感染者の報告、隔離、消毒の対応はとったが、マスク着用者はいなかった。従業員の座席は元々、Cubicleと言われるパーティションで囲まれた個別の仕事スペースが基本なので、業務も通常通りだった。
 早々、日本からメールが多数届いた。米国―テキサス―豚インフル感染者蔓延みたいなNHKニュースが日本全国に流れたようで、「お大事に、頑張れ」、「私もかつて中東紛争で足止めにあった、必ず無事で帰任しろよ」、「仕事は適当でいい、暫く日本には戻らなくて大丈夫だから」。
 特別海外出張常務決裁を得て、決死の覚悟で訪米してきた事業部長をテキサスDFW空港に迎えに行った。完全武装の異様なマスク集団日本人ご一行様の中に、くだんの事業部長を見つけた。

 二つの感染症に現地側で遭遇し、生き延びてきたわけだが、ご賢察の通り『日本は全国報道で国民が一色に染まり、異質性を拒む国。薄手のマスクを自己暗示的に着用する奇妙な国』程度の風景にしか、当時現地側にいた私には見えていなかった。
 しかし今回、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、全く様相が異なる。
 未だコメントも評価も出来ないが、だた、こんな渦中でも『国際派診断士の使命』は忘れてはいけないと思っている。

■向井 実(むかい みのる)
ワールドビジネス研究会(WBS)副代表幹事
EPA/FTA分科会(大使館分科会)リーダー
『中小企業海外展開支援講座』(WBM)事務局次長
中小企業診断士、行政書士