グローバル・ウインド

国際部 横山茂生

筆者は、2016年3月に中小企業診断士登録後、2017年に国際部に入部し、本年度は国際部の副部長の一人として国際社中を担当しています。企業内診断士で、エンジニアリング会社の調達部門での機械品の海外調達関連で仕入先企業の倒産に対応することもあることから、海外企業信用調査会社との接点があり、今回のスピーチを永田様にお願いしました。
 

世界の経済動向


ご承知の通り2020年頭に始まった新型コロナウイルス感染拡大により、複雑で不透明なコロナ時代が始まったとされ、感染収束、ワクチン開発、自然免疫獲得までに長期戦の様相であることは確かです。世界経済がコロナショック以前の水準へ回帰するには2~4年とも言われています。

Fig01

海外の企業倒産は、件数、倒産率とも日本よりも高く、国内取引の延長で安易に海外取引を始めると事故やトラブルに会うリスクがあります。

Fig02
各国で倒産の定義に若干の差はありますが、例えば米国、中国は、それぞれ年間22千件、1,000千件(清算型・再建型倒産+登記抹消)の件数に対して、日本は年間7~8千件の倒産件数です。

日本の企業倒産件数 (TSR全国企業倒産状況より)

Fig03

コロナ禍による世界経済の影響として、主な倒産案件は業種的には小売、アパレル等を中心に世界的な有名・伝統ブランド企業も例外ではなく、また、コロナ禍による業種別の需要の明暗も次表の通りです。
Fig04
 

コロナショックが企業経営に与えるインパクト


コロナショックは新常態としての在宅勤務、リモート業務のデジタル対応を内容とする「ビジネスモデル改革圧力」と投資圧縮、顧客倒産リスク対応といった「キャッシュ確保(生き残り圧力)」を求めることになります。
Fig05

コロナの影響を受ける企業の実例として、手元キャッシュの潤沢さ/乏しさが対照的な会社例の紹介、更には、業種別に現金収入比率が高い小売や鉄道会社等の会社は手元現金が少ない傾向がある等の業種特性と実際の手元キャッシュを確認することが有用です。その為の手段として企業信用調査会社が提供する新規調査/既存のデータベースで取引先をチェックすることが必要です。
2008年のリーマンショックでは、大きな損失を被り、回復に時間を要したのが機械産業/自動車産業と言われました。今回のコロナショックは、深刻かつ長期に亘る影響を多くの産業に及ぼすと言われますが、行動自粛・不況、節約経済下でも必須となる内需産業の立ち直りは早いと考えられています。
 

アフターコロナでの新たな顧客ランク設定


新型コロナウイルス感染症による業績へマイナスの影響があるとする企業は9割となっています。だからこそ、財務余力(手元現金=不況対応力)を縦軸に、業績回復期間の長短を横軸に置いた、「財務余力」×「業績回復期間」で顧客を再評価することの重要性が高まると考えられます。

Fig06
 

世界の信用調査会社と各社の格付比較


海外企業(得意先、仕入先、JVパートナー)の信用度を判断するには、当該企業の信用調査レポートを日本に居ながらにしてタイムリーに入手し、与信判断を行い営業施策に活用することが重要です。その際に、米国系、フランス系信用調査会社と違ってキャッシュフロー及び運転資本を重視した企業信用格付けを行う、英国系Creditsafe社の企業レポートの活用が有効です。夫々の特徴と実際のレポートでの格付けの表示の対比は次の通りです。

海外企業信用調査会社の比較

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企業信用調査レポートに求める要件と実レポートでの注目ポイント


実際に海外企業の信用調査レポートを取得し、ターゲット企業の財務上の信頼度を確認する際に、上記の様な世界的な信用調査会社ごとに、得意とする国・地域、調査レポート価格、迅速性、内容の充実度は異なります。このため、調査を求める立場として、より慎重に納得度を高めて海外取引先の与信管理を行うためには、複数の信用調査会社レポートを組合せて企業評価をすることも有効です。
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なお、同社は通常の企業信用調査レポート以外に、「海外市場調査」、「海外企業競合調査」、「海外企業M&Aアドバイザリーサービス」等の中小企業支援サービスも展開中とのご紹介もありました。
スピーカーの永田様による解説の後、ZoomのQ&Aセッションでは、取得するレポートの料金体系や国別のターゲット企業の財務諸表の入手可能度合い、更には国内調査レポートでの記載内容(経営者の定性評価記載の有無)との比較等について活発な質疑応答がありました。コロナ以前からも、「海外取引先の与信管理」は国際派診断士にとって重要な知識のひとつですが、今日的な切り口からもその有用性をご紹介する機会となりました。

■ 横山茂生(よこやま しげお)
1980年一橋大学商学部卒業後、新日本製鐵(株)~日鉄エンジニアリング㈱勤務。入社後通産省と経団連が設立した貿易大学に留学。一貫して原料・資機材購買、作業外注契約、工事下請負契約等の購買業務を担当。調達企画部にて、購買契約関連の法令・規程遵守、海外ベンダー(越、印、中国、尼、比)倒産時の各国倒産法制対応マニュアルの作成・維持管理を担当中。企業内診断士。2016年3月中小企業診断士登録。