グローバルウインド

国際部 高橋利忠

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大に係る上陸拒否措置により、来日外国人が激減しています。日本政府観光局(JNTO)が8月21日に発表した2020年7月(推計値)の訪日外国人数は、前年同月比99.9%減の3,800人でした。4月から4カ月連続して前年同月比99.9%減となり、10カ月連続で前年同月を下回ることになりました。日本政府は10月1日から中長期の在留資格を持つ外国人に対し、入国制限を緩和していますが、1日1,000人程度を上限としており、昨年11月の訪日外国人客数(推計値)244万人に比べてわずかな水準であることから、事態は改善していません。
 そうしたなか、菅首相が就任後初の外国訪問(10月)でベトナムを選びました。今年、東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国をベトナムが務めていることや、南シナ海問題など地域情勢もありますが、最初の外国訪問先に選ぶほど、日本とベトナムの経済的な結びつきが強くなっていることを象徴しています。

1.増加したベトナム人労働者

 下グラフをご覧ください。日本で働く外国人労働者数は、2019年までの過去5年間で87万人増加し、倍増しました。そのうち半数近くがベトナム人の増加となっており、2019年には首位の中国に迫るまでになりました。外国人労働者の4人に1人はベトナム人が占めています。
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 ベトナム人労働者の主な在留資格は、「技能実習」・「資格外活動(留学)」となっています。すなわち、技能実習生、留学生として来日しているベトナム人が、ベトナム人の主な労働供給源となっています。
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 産業別でみると、技能実習生は主に製造業・建設業に従事し、留学生の資格外活動(アルバイト)は主に、宿泊業・飲食サービス業、卸売業・小売業に従事していると考えられます。飲食サービス業は居酒屋、小売業はコンビニエンスストアが代表的なアルバイト先です。
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 技能実習制度は、日本の企業などで外国人を受け入れ、働きながら習得した技術や知識を母国の発展に活かしてもらうという目的で1993年にできた制度です。実習期間が3年から5年に延長されるなど緩和が進み、ベトナム人の技能実習生が増加しました。さらには、2019年から特定技能制度がスタートしました。
 技能実習は「技能移転による国際貢献」を目的とする制度のため、実習修了後、必ず母国に帰らなければなりませんでした。なかには多額の借金をして来日する人もいて、借金の返済や仕送りのために不法残留して問題になるケースもありました。
 新たな在留資格「特定技能」では、技能実習生は実習修了後も在留を続けられるようになりました。こうした制度の緩和によって、さらに技能実習生が増加すると考えられます。

 ベトナム人留学生が増加した背景には、日本政府の掲げた「留学生30万人計画」があります。これは、福田総理(当時)が「日本を世界に開かれた国とし、人の流れを拡大していくために重要である」として施策方針演説の中で打ち出したことにより、2008年文部科学省によって策定された計画の一つです。日本を世界により開かれた国とし、アジア、世界の間のヒト・モノ・カネ、情報の流れを拡大する「グローバル戦略」を展開する一環として、2020年を目途に30万人の留学生受入れを目指しました。
 この追い風に乗り、留学生を多数送り込んだのが、ベトナムでした。

2.なぜベトナムなのか

 JETROによるとベトナムには1,900社以上の日系企業が進出しています。また、親日国でもあることから、ベトナム人の日本に対する憧れも非常に高いものがあります。こうした背景から、ベトナムの若者の多くは、留学生として日本で勉強し、在留中にベトナムに進出している企業に就職してから、その企業のベトナム現地法人に出向する形で帰国するのが理想とされています。
 また、中には少なからず、日本の留学制度を利用し「出稼ぎ」を目的にしている留学生も散見されます。日本で学ぶ留学生は、週28時間(長期休暇中は週40時間)までの労働が認められています。そこで、半日は授業に出て、その他の時間をアルバイトに費やす留学生が多数存在します。最近の中国人は比較的裕福な家庭の出身が増え、母国からの仕送りで生活する留学生が増えていますが、ベトナムをはじめとする他の国では、学費や生活費、仕送り分をアルバイトで稼ぐ留学生が多数います。

 ベトナム人が日本で働く理由、技能実習や留学のために時には借金までして日本に来て働く理由は、日本とベトナムの所得格差です。ベトナム統計総局による2018年版ベトナム家計生活水準調査報告書では、ベトナムの1人当たり月間平均所得は387万ドン(約170ドル、約18,000円)となっています。首都ハノイ市や最大都市のホーチミン市をみても、590万ドン(約259ドル、約28,000円、ハノイ市)、635万ドン(約278ドル、約30,000円、ホーチミン市)となっています。
 一方、日本では、20~24才の男性で平均年収が284万円(2018年、国税庁民間給与実態統計調査)であり、月平均では約24万円となっています。
 ベトナムでは、海外で働くベトナム人から家族への仕送りがベトナム経済の一部を支えており、政府としても労働者輸出国を目指し、海外への労働者送り出しを促進しています。8~13倍になる日本との所得格差によって、これからも日本へ働きに出るベトナム人は増えていくと考えられます。

3.外国人労働者に頼らざるを得ない日本経済

 国立社会保障・人口問題研究所の2017年推計によると、日本は今後、加速的な人口減少と世界に類を見ない高齢化という事態に直面して行きます。働き方改革により、シニアや女性など多様な働き手を開拓しようとしてはいますが、国内だけでは賄いきれず、外国人労働者に頼らざるをえません。
 今後ますます、ベトナム人をはじめとする外国人労働者が増加していきます。外国人労働者の働く職場は、これから普通の風景になっていくことでしょう。相互理解を深め、ダイバーシティな職場づくりがこれからますます求められます。
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(出典)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」