国際部 宮川 公一

 本来であれば、東京オリンピックが大盛況の内に幕を閉じ、日本経済が潤ったニュースであふれた年末になったことであろう。この状況を誰が予測できたであろうか。ワクチンが日本国内に供給される時期が近いと報道されているが、まだまだ、新型コロナ感染問題の終息の目途は見えず…。
インバウンドを見込んでいた観光業界について見てみよう。2020年10月の訪日外国人数は、前年同月比マイナス98.9%の2万7,400人(JUNTO推計)と、大打撃を被っている。旅行業界の大手、株式会社エイチ・アイ・エス(以降HIS)も国内外店舗の1/3を閉鎖し当面は国内旅行を主軸にビジネスを展開すると発表している。最大手の株式会社JTBも2021年3月期の経常損益は1,000億円の赤字を見込んでおり、グループ全体で6,500人の人員の削減を見込んでいる。本当に厳しい状況に追い込まれている。中小企業の多い旅行業だけに、倒産件数も増えてきている。10月時点で2020年の累計倒産は24件(東京商工リサーチ調べ)に達し、昨年を上回る勢いである。厳しい状況は、旅行業に限ったことではないが、直接的に大きな影響を受ける業界である。
 そんな中で、「オンラインツアー」というバーチャルな旅を経験する企画が増えている。ZOOMなどを活用して、現地のガイドと組んで行なわれるものである。世界的に見ると、2017年には5700億USドルであったものから、2023年には、1兆1345億USドルに成長し、年間の成長率は、13.16%になると予想されている。このオンラインツアーは、大打撃を受けている旅行業界の今後を見定める試金石になり得るだろうか。WEBを検索してみると、複数の旅行業者が種々の企画を打ち出しているのが分かった。バーチャル世界一周旅行、現地の食べ物を送ってもらって食しながらバーチャルな旅をするもの、外国語の学習を中心とする企画などなど、国内外を含め、様々なツアーが用意されている。参加代金は、100円から1万円を超えるものまで、これも様々。同じツアーでもトップシーズンやオフシーズンなど日程によって価格を変動させているようで、リアルな旅行の需要と供給から価格決定される変動価格を活かしているようである。1

百聞は一見にしかずということで、ツアーに参加してみることにした。大手旅行社のホームページを見ていたら、いろいろなツアーがあったが、HIS社のサイト(https://www.his-j.com/oe/search/?&cid=ggl_oe_a)に「インドの村でバーチャルホームステイ体験」という企画があった。インドには行ったことがないので、興味をそそられ、申し込んでみた。代金は2,600円。時間は約40分のツアーだ。申し込んだ翌日に、ZOOMアドレスがHIS社のニューデリー支社から送られてきた。第1希望は、20時30分、第2希望は20時からで申し込んだが、20時スタートの案内メールをいただいた。

 

2 いよいよ当日。オンラインツアーの時間の前から、ZOOMの招待アドレスにアクセスして待機。なんとなく、わくわく感を感じた。オンタイムで、旅行代理店のスタッフがツアーを開始してくれて、デリーから東に50kmに位置しているグレーターノイダという田舎町の通称ラッキーさんというツアーガイドが案内を開始してくれた。

 

 

3 ラッキーさんの田舎町には1,500人が住んでいて、100%がヒンズー教だそう。ラッキーさんの家は3階建てで、12人家族で住んでいた。次に近所の寺院、畑を案内してくれた。
4 ラッキーさんの町では、水道水も飲むが、ほとんどが井戸水を使用している、とのこと。コロナウイルスの感染者が飛躍的に多くなっているインドなので、状況はどうか聞いてみた。ラッキーさん曰く、感染者は多いが、亡くなっている方は、極端に少ない、とのこと。インド人は免疫力が高いから、コロナにかかってもすぐ治るんだ、と言っていた。

 

5 右の写真は牛の糞である。ほとんどの家では、燃料として牛の糞を使用しているとのことだった。台所の火を使う料理には牛の糞を燃やしているそうだが、画面の向こうから匂ってくるような感じがした。

 

 

 

6
 ラッキーさんは、日本語で、ずっと説明し続けてくれた。インドの歴史や経済、宗教、カースト制度、食べ物などなど。現在でもカースト制度があるが、階層による仕事の制限はなくなったそうだ。しかし、結婚だけには、まだカースト制度が生きているとのことで、ラッキーさんの町では99%がお見合い結婚とのことだった。まだまだ、自由恋愛は一般的ではないようだ。

 

7 
 そして、インドのお茶の作り方を教えてくれた。インド人は、ダージリンティー(ストレート)を好んで飲むそうで、1日3回は、飲んでいるそうだ。

 

8 

 ビデオによる料理の紹介もあった。インドでは、ナンは家庭では食べないそうだ。レストランのメニュー、とのこと。代わりに、家では、チャバティというナンよりも小さく柔らかいものを毎日たべているとのこと。カレーは毎日食べているそうだ。ラッキーさんは、「カレーは飽きないですよ。」と言っていた。

 

9 右の写真は、豆の入ったダルカレーとチャパティー。そして、カリフラワーのサイドメニュー。

 

 

 

 
 この後、インドのお祭りのビデオクリップを少し見て、それ以外にもインドの色々な話を聞き、アッという間に40分が過ぎていた。今まで知らなかったことを聞けたし、映像でつながりながらタイムリーな会話ができた。ラッキーさんは現地の町を歩きながら紹介してくれ、途中、町の子供たちと行き交って手を振り合ったりした。私も手を振り、ちょっとした旅行気分が味わえた。欲を言えば、カレーを食べてインドのお茶を飲みながら参加できたら、臨場感があふれ、もっとリアルな体験となったと思う。しかし、現地のツアーコンダクターとライブで交流しながら体験できたので、とても有意義なオンラインツアー初体験となった。また、別の企画に参加してみたいと思わされた。
 Japan Wonder Guideというサイト(https://japanwonderguide.com/about-us/)では、オンラインツアーで成功するための5つのポイントを紹介していた。興味があればお立ち寄りを。
オンラインツアーでは、宿泊費、飲食費、移動費用などの売上は旅行業界には発生しないのだが、一方でコストもあまりかからない。工夫次第では、普段は旅行に行かない層も含めて需要を掘り起こせる可能性も秘めている。お土産付きツアーも多いので、食べ物や現地の工芸品とタイアップさせて付加価値も盛り込んでいくこともできる。3Dのバーチャルな機器も普及し始めているので、より臨場感を演出できる要素も秘めている。
 この先行き不安な自粛ムードの現状の中で、コロナに負けず、知恵を絞って、イノベーションを起こし、新たなマーケットを創出していくことを期待していきたい。

 

10宮川公一(みやかわこういち)
東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒。
現在、アースサポート株式会社にてマネージャー職で勤務。2011年4月中小企業診断士登録。東京協会中央支部国際部。介護福祉士、事業再生士補、介護福祉経営士1級、医療経営士3級。健康経営エキスパートアドバイザー、日本経営診断学会員、日本認知症ケア学会員。