国際部 竹島 裕明

1.はじめに
 今回は2020年度に勤務先で従事したプロジェクトで機器を納入したパプアニューギニアについて、私が気付いたことを含めて紹介させて頂きます。

2.基本情報
 正式な日本語表記での国名は「パプアニューギニア独立国」で、元々あったパプア(南側、旧イギリス領、のちにオーストラリア領)とニューギニア(北側、旧ドイツ領、のちにオーストラリア委任統治領)が合併して1975年9月16日に独立しました。
 人口約877万人(2019年、世界銀行)、国土面積は日本の約1.25倍、オーストラリアの北に位置し、ニューギニア島の東側(西側はインドネシア)と600以上の島々からなる、人口でも国土面積でも太平洋諸島地域最大の国です。
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出典:Googleマップ

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 言語は英語が公用語ですが、共通語として旧ニューギニア地域で主に使われているトク・ピシン語と、旧パプア地域で主に使われているヒリモツ語があり、国会ではそれら3つの言語を使うことが許可されており、それぞれの言語に同時通訳されます。
 人々は伝統的に数十、数百人程度の少人数の部族に分かれて生活し、それぞれの部族ごとに言語、習慣、伝統が異なっているため、地域言語の数は800以上もあるそうです。
 民族は主にメラネシア人、パプア人、ネグリト人、ミクロネシア人、ポリネシア人などで構成され、その他多数の少数民族が存在します。
 治安について、コロナ前に度々現地に出張していた先輩社員から聞いた話では、日中の明るい時間帯でも街中で失業者や若者からの恐喝まがいのお金の要求やひったくり等に遭うこともあり、出張時は注意が必要とのことでした。
国民の95%以上がキリスト教ですが、自然崇拝も根強く残っており、いまだ政府が魔女狩りを含む「黒魔術」による報復を法規制するなどの対策をとっているそうです。
 立憲君主制国家で、国家元首はイギリスの国王または女王(現在はエリザベス2世女王)ですが、その職務は国家元首から任命された総督が代行します。

3.コロナの状況
 2021年4月28日時点での累積症例数は10,835人、死亡者数は105人となっています。
 2020年1月30日からアジア諸国からの旅行客の渡航を禁止し、インドネシアとの国境を閉鎖していましたが、3月20日にスペイン旅行から帰国した人から初の症例が確認されたことで、2日後の3月22日に国家非常事態宣言、4月16日には首都特別区封鎖など対策をとり、現在まで海外からの入国は厳しく制限されています。
 2021年4月21日時点では、首都にあるジャクソンズ国際空港と5つの港(モトゥケ港、ラバウル港、レイ港、マダン港、キンベ港)からのみ入国が可能です。
 入国前の準備として、事前に警察長官の書面による入国許可を得て、搭乗24時間前以内にオンライン上で搭乗する際に必要なバーコードを取得する必要があります。
 また、入国には搭乗7日以内に取得したPCR検査陰性証明書が必要で、入国後は指定されたホテルで14日間の自己隔離、スマートフォンアプリのダウンロードが必要です。
現在日本から入国許可申請を行った場合は30日間保留され、更にその後も保留される可能性があります。

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出典:WorldmetersのHP

 2月下旬から感染者数の増加率が高くなっている理由は公表されていませんが、現地からの情報では、2月26日に亡くなった初代首相で「建国の父」と呼ばれていたマイケル・ソマレ氏(旧日本軍の占領下で日本人から教育を受けた親日家として知られ、2015年に旭日大綬章を受章された)の国民による大規模なお葬式の集まりも原因の一つと言われています。
 コロナによる経済活動の縮小や国内の移動制限だけでなく、資源価格の低迷など経済へのダメージが懸念されたため、政府は市中銀行に対しローン返済の猶予や貸出金利の引下げの指示、コロナで失業した人が積立金を活用できるよう年金危機に要請するなどの対策を取りましたが、2020年の経済成長率は、前年比マイナス3.3%(IMF、2020年10月)まで落ち込む見通しです。

4.中小企業向けの政策・支援
 パプアニューギニアは、液化天然ガス(LNG)や原油、銅や金などの鉱物資源の産出国であり、輸出の約9割を天然資源が占めます。

1)政策
 原油を含む資源価格の低迷が経済に与える影響が大きいため、パプアニューギニア政府は、鉱業とエネルギーへの依存度を下げ、GDPに占める中小企業の割合を50%に引き上げることを目標とし、2016年に中小企業向けの融資の強化や人材育成支援のための「中小企業政策とマスタープラン2016-30」を開始しました。
 現在、パプアニューギニアでは中小企業で約20万人の雇用があり、GDPの約10%を占めていますが、このプランは年間約6,830万米ドルの予算で、200万人の雇用創出、中小企業の数を10倍の50万社へ増加、国内企業所有率を10%から70%に上昇させることなどを目標としています。
 地元メディアの報道によると、2015年末時点では中小企業の94.4%が融資を受けたことがなく、政府の直接支援を受けたことがあるのはわずか2.5%だったそうです。

2)支援組織
 現地で中小企業を支援する組織として、中小企業公社があります。
 政府の法定機関として貿易産業省傘下にある組織で、2015年2月10日に施行された中小企業公社法に基づいた商業法定機関として設立されました。
 小規模事業者、中小企業の育成、支援を行うことで生活水準を向上させ、国の発展に貢献することを目的としており、パプアニューギニアのAPEC中小企業作業部会(SMEWG *注1)においても中心的な役割を果たしています。
 *注1)APEC内において中小企業の発展のため1995年2月に設立された組織。

3)会合など
 ①中小企業作業部会のミーティング
 APECの年に2回開催される。
 ②APEC中小企業大臣会合
 1994年から毎年開催されている、9月のSMEWG会合の後に開催される会合。
 年間を通じた中小企業作業部会の作業プログラムを確認し、必要に応じて意見や提案を提供するとともに、メンバーによる新しい作業の流れ、構想、提案などを承認する。

5.担当プロジェクトについて
 今回私が担当したのは、パプアニューギニアの社会インフラ構築プロジェクトの通信システムを構成する機器の調達案件です。
 スイッチなどのネットワーク機器(LANケーブルを接続する中継装置)は日本から、光ケーブルなどの材料やIP-PBX(IP電話機向けの交換機)はオーストラリアの現地子会社を通して、パプアニューギニアの地方都市に納入しました。
 わざわざオーストラリアでも機器の調達を行った理由は、日本では一般的に使用されていない単芯ファイバー構造の光ケーブルを調達してもらうことと、万が一パプアニューギニアで問題が発生した場合に歴史的に現地とつながりの強いオーストラリア人の助けが有効だと思ったからです。
05                           図1:物品調達ルート

 
6.プロジェクトで苦労した点
 多くは私の事前の勉強不足が原因なのですが、以下に苦労した点を書きます。
1)機器納入手順の変更
 コロナ禍によって最も変更された業務です。
 通常は顧客を主要な機器を調達する国(日本、オーストラリア)へ招待し、工場で実際の機器を使用して性能に問題無いことを検査確認し、承認してもらう必要があるのですが、今回はどの国も出入国が難しかったため、一部を除き全てWeb会議システムを使用した遠隔での対応となったため、パプアニューギニアの顧客、機器代理店、オーストラリア子会社、第三国にあるプロジェクトの元請企業など、複数国との作業変更、スケジュール調整をスムーズに進めることができず、我々だけでなく関係者の皆様にも多くの時間を使わせることになりました。

2)オーストラリアにおける機器の輸出業務
 ①コロナ禍でパプアニューギニアへの出張が取りやめになっても影響は無かったのですが、同様のプロジェクト経験が少ないオーストラ リア子会社を訪問して機器の調達、受入検査や輸出書類作成などのサポートを行えなかったため、機器の発送が予定より1か月程度遅れてしまいました。
 ②現地フォワーダーとの責任分担や通関に必要な書類を準備するまでの日数などについて日本との違いを知らなかったため、予定日からの遅れを発生させてしまいました。
 ③実質的には業務の負担が軽減されましたが、輸出規制対象物に必要な該非判定書の提出や木材梱包材の燻蒸処理など、パプアニューギニアはオーストラリアに要求する書類が日本より少なかったため、その分関係各所への確認作業が発生しました。

3)パプアニューギニア企業とのコミュニケーション
 代理店の都合により、オーストラリア調達機器の検査をパプアニューギニアで行うことになり、前日まで問題無く準備を進めていたと思っていたところ、検査当日に突然現地の技術者が準備不足で対応できないと言い出し、延期となってしまいました。遠隔での状況把握の難しさを感じました。
 事前にどこまで細かく確認し、準備をすべきか把握していませんでした。

4)オーストラリア人、オーストラリア企業とのコミュニケーション
 Web会議を多用し、メールで細かな点まで確認していましたが、過去に東南アジアでは相互理解が出来ていた伝達方法が通用せず、何度か急ぎの対応依頼を後回しにされたことがありました。

5)元請外資系企業とのコミュニケーション
 弊社は直接契約していないのですが、プロジェクトの元請企業が第三国にある外資系の会社で、オーストラリアからの輸出が遅れた際には契約上問題無いにもかかわらず毎日Web会議で早口の訛りの強い英語でお叱りと急ぎの対応指示を受けました。中には実現不可能な要求もあり、丁寧に状況説明と対案の提示を行いましたが、なかなか理解を得られませんでした。

 前述の通り、残念ながら昨年はパプアニューギニアに行けませんでしたが、今年度の状況次第では現地に行けるチャンスがあると思うので、その時は現地の最新情報や魅力を写真と共に報告させて頂きたいと思っています。

以上

【自己紹介】
竹島 裕明(たけしま ひろあき)
1970年生まれ。大阪府出身。
大学卒業後通信建設会社に勤務し、海外部門で主に営業やプロジェクト管理を担当。フィリピン、マレーシア、ミャンマーで約10年間の駐在経験有り。2016年10月中小企業診断士登録。東京都中小企業診断士協会 中央支部国際部。