国際部 高橋 利忠
皆さんは、白いパスポートを見たことがありますか?おそらく、ほとんどの人は見たことがないと思います。ごく限られた、特別な経験をした人のみに与えられるパスポート、それが、白いパスポートです。以下では、私の友人が得た白いパスポートを、エピソードとともにご紹介します。

白いパスポートとは
  実は、海外でパスポートを盗難にあって、日本に帰れなくなった人に与えられる、1回限り帰国のみ使用できるパスポートが、白いパスポートです。海外で盗難にあう経験は、そうそうありませんよね。ですから、ほとんどの人は白いパスポートを知らないのです。
パスポートを盗難されたいきさつ
  私の友人がパスポートの盗難にあったのは、13年前、旅行でベトナムのホーチミンへ行ったときです。現地のホテルに2泊し、観光名所を巡ったり、市場で買い物をして楽しく過ごしました。
  最終日の金曜日、マッサージに行こうと、友人と一緒にドン・コイ通りへ。昼頃、一軒のマッサージ店に入りました。リーズナブルな料金で身も心も癒やされてお店を出ました。「もう1軒はしごしようか」などと談笑しながらドン・コイ通りを歩いていると、後方の車道をバイクの群れが近づいてきます。

「あっ」と思った瞬間、二人乗りのバイクが、車道近くを歩いていた友人のセカンドバックをひったくり、走り去っていきました。
 コマ送りで、走り去っていくバイクの後ろ姿。
 次の瞬間、「パスポートが盗られたっ!」
 マッサージ店へ行く夢から現実の世界に引き戻されました。
 「大丈夫か?」まわりの友人が心配そうに話しかけてきます。
 しかし彼は、なぜか冷静でした。
 (セカンドバックにはパスポート以外に絵はがきが入っているだけ。財布はポケットに持っている。近くに日本領事館があった。今日は平日だから領事館が開いている)そんなことを考えていました。
 とりあえず警察へ行こうということになり、行って事情を説明しました。警察では、いちおう調書を書いているものの、熱心な対応とは到底思えませんでした。1時間程度、事情を説明した後、ここにいても解決しないな、と思い、ホテルへ戻ることにしました。
 ホテルでは、旅行代理店の担当者がいて、事情を説明しました。旅行代理店の担当者は手慣れたもので、「すぐに写真屋へ行って顔写真を撮り、その足で日本領事館へ行ってください」と言ってくれました。
 言われたとおり、顔写真を撮ってもらい、日本領事館へ。
 パスポートが盗難されたことを伝えると、「窓口にパスポート再交付にあたっての書類の記載例があるから、それを参考にして書いてください」と言われました。
 さて、どのように書こうかな、と思いながら記載例を覗くと、
 「ドン・コイ通りを歩いていたら、後ろから2人乗りバイクが近づいてきて、バッグをひったくられた」
 彼がひったくられた状況と、まったく同じ状況が書かれていました。
 彼は、記載例の内容をそのまま転記して、パスポートを再交付してもらいました。それが、白いパスポートです。
帰国の途へ
 帰国の便は、その日の夜。彼は、2時間ほどで白いパスポートを受け取り、予定通りの便で帰国することができました。ホーチミン郊外の空港に到着すると、旅行代理店の担当者からアドバイスがありました。
 「出国の際、他の人と違うパスポートだから、いろいろ言われます。最後に『I have US$10(10ドル持っています)』と言えば、何とかなるから」
 ふーんと思いながら、彼は出国ゲートに入っていきました。
 すると、奥の別室に案内され、係員らしき男性が英語でああだこうだ話しかけてきます。彼は、パスポートを盗難された経緯をたどたどしい英語で説明します。それでも係員らしき男性はああだこうだと話し続け、かれこれ15分ほど時間が経過しました。
 ここで彼は、旅行代理店の担当者のアドバイスを思い出し、思い切って言いました。
 「I have US$10!」
 すると係員らしき男性は、破顔し、こう言いました。
 「That’s a good idea!(それは、いい考えだ)」
 係員らしき男性は、10ドルを持って奥の部屋へ消えていきました。
 なるほど、ベトナムでは、やはり袖の下が一番効くんだな、と思いました。
 しばらく待っていると男性が戻り、レシートを手渡してくれました。
 「??」
 袖の下で領収書がもらえるのかと一瞬思いましたが、どうやら、正規の手続きだったようです。彼は、友人たちと合流し、無事に日本に帰国しました。
日本の入国手続きも、他の人とは別でした。パイロットやキャビンアテンダントの通る通路へ誘導されました。
 VIP待遇のようで気分よく歩いていると、またもや別室へ案内されました。
 別室では、「海外では、くれぐれも注意してくださいね」と注意を受けました。
さいごに
 ベトナム旅行で彼は、めったにできない経験ができ、とても良い思い出となったようです。
 現地のエネルギッシュな雰囲気も、好感がもてます。またいつか行ってみたい、そんな国だったそうです。
 彼は冷静に事態の推移を楽しんでいましたが、一緒に旅行した周りの人は、大変心配していたようです。そのことを思うと彼は、はしゃぎすぎたかな、と少し反省していました。
■高橋 利忠(たかはし としただ)
 2006年中小企業診断士登録。
 東京都中小企業診断士協会中央支部 総務部・国際部所属
 
  
  
 





