国際部 有吉 啓介

 インドネシアにあるたくさんの島々のなかでも、“バリ島 (Pulau Bali) ”は「神々の島」と称され、紀元前2世紀から4世紀にかけ、インドやヒンズー教の影響を受けました。2021年の調査では、島の人口420万人の9割以上がバリ人、また9割がバリ・ヒンズー教徒です。

 キラキラと黄金のように音が広がるガムラン音楽、色とりどりの供物を堆く盛り上げて運ぶ祝祭儀式は、多くの国と比べ、異なる文化や習慣があり、それらに対する驚きと新鮮さを求めて、世界中の多くの人々が集まってきます。

 一度でも「魅惑のバリ島」を訪れたことのある人は、島の名前を聞くだけで、私と同様に懐かしさと共に、その数々の驚きに魅了されたことを思い出すでしょう。

 まず新型コロナ禍の前に、私がジャカルタ在住中にバリ島を訪れ、魅了された驚きのエピソードを、前半に披露いたします。後半に、今のバリ島はどうなっているのか?新型コロナ禍でバリ島のヒトたちは?といった情報をお伝えしたいと思います。

 すでに“バリ島” の地理については、ご存知の方も多いと思いますが簡単に記します。
 インドネシアの首都ジャカルタがあるジャワ島の東側にある、バリ海峡を挟んで東3kmにある島です。南緯8度なので南半球にあり、日本との時差は1時間遅くなります。面積5780平方km(東京都と埼玉県を合わせたほぼ同じ広さ)、東西に長い菱形の島で最長で145kmあります(本州にある東京都の最東端から最西端の距離とほぼ同じ長さ)。

写真1_PulauBali(参照:ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Bali_Labeled.png)

 

 経済状況は、新型コロナ禍の前で2019年には、世界を含め年間600万人が訪れました(島民より多い数!)。島の経済の約8割は観光業からの収入です。しかし新型コロナが生じ、2021年1月から10月までの10ヶ月間にバリ島を訪れた観光客はたった45名であったと、CNNが報じています。経済の落込みは非常に厳しいようです。

 2021年10月から海外観光客の受入れを再開しましたが、無料の観光VISAが有料になり、到着後10日間のホテル隔離も加わり、以前よりは旅費が掛かるので、毎月に国内から少人数の旅行客が訪れる程度です。

 では、新型コロナ禍の前のエピソードを…

◆エピソード1:大勢で酔うように盛り上がるお祭り

 ある朝、公私ともに仲良くさせて頂いている取引先のB社長から電話が入りました。
「販売会社さんがお客さん向けに、うちの商品の感謝祭を催す予定があります。こちらから送るように請われた現地語で挨拶ができる日本人が足りないので、手伝ってもらえませんか?」という依頼です。前の年も引き受けて、催しの内容も知っていたので、ふたつ返事で引き受けました。

 今年の行く先はバリ島!

 前年はジャカルタのあるジャワ島の南海岸沿いにある小さな町へ、往復を舗装が行き届かない道で、車に乗っての日帰り移動は大変疲れました。でも今回は飛行機で移動して1泊する、というので引き受けました。

 販売会社の感謝祭は、大きなホテルの宴会場や町の公民館を借りて、夜に行なわれます。
 販売会社の社長が招待した、地元の名士やお客さんが家族を連れて集まり、飲んで喋り、食べては喋り、またステージに出てくる女性歌手の歌を聴き、伝統的な舞踏を見て、と大変な盛り上がりを見せます。
 そして、最後にクジ引きで当選した参加者たちが、家電製品、バイク、自転車などの賞品を持って、家族たちと嬉々としながら、帰っていくのです。

 いつも、このお祭りで驚くことは、お酒は勿論だしませんが、多勢が集まる雰囲気に酔うのか、祭りの間に高額な商品の購買契約をする人たちがどんどん出る。次々に契約した御仁のフルネームが場内へマイクで伝わると、一堂がドヨメくのです。小さい町での虚栄心と群集心理を利用したプロモーションかと思ってしまいます。

 宴の後は、販売会社の社長は大喜びで二次会に誘ってくれます。祭りの最中は、営業トークショーさながら、誰もほとんど食べられず、お腹がとても空いている状態です。そこへ社長が地元の食堂で労ってくれます。季節の珍しい魚介類、動物、またドリアンなど地元の名産物が出るわ出るわ。ひたすら食べている横では、営業のトップが社長へ契約数を報告し、二人で機嫌がすこぶる良い様子。
 年に1回の感謝祭へお客さまを招いて、一番大きなボーナスを貰うのは、販売代理店の社長というわけです。

◆エピソード2:夜のスパイダーマン

 二次会の後、真夜中にホテルへ戻り、暗く慣れない構内を部屋へ行く途中で、中庭へ出ました。そこにはレンガで囲った池がありました。どう見ても真っ暗な池。日本にあれば、鯉でも飼ってそうな雰囲気です。

 海から風があるので熱帯夜ではないですが、それでも汗の出る暑い夜です。池に何か泳いでいる気配がしました。すると突然、黒い人影が水から飛び出す。

 真っ黒なスパイダーマン! ただ驚きました。

 後で分かったのですが、池ではなくプールでした。朝よく見ると、水中へ降りる金属製の梯子がありました。彼女に悪いことをした気になりました。女性が一人で泳ぎを楽しむ時間はあまり無いように思えたからです。

写真2_spiderswim(出典:NIKE公式HP http://www.nikeswim.com/nike-victory-swim-collection-landing)

◆エピソード3:新型コロナ禍のバリ島から越境E C

 さて、今月(2022年1月)の話に移ります。ジャカルタで物流会社の社長をしていた旧知のAさんは、今ではバリ島の標高600mの山あいにある村、ウブドへ移住し家族と住んでいます。Aさんにオンラインで、バリ島の現状を聞いてみました。

 日本の外務省は1月21日時点で、インドネシア渡航は感染症危険度レベル3の「渡航は止めてください」として、難しい状況としています。しかしインドネシアは昨年10月から、日本人には5つの条件が揃えば、入国できるとしています。
 5つの条件とは、①事前申請VISA、②ワクチン接種証明書、③PCR検査の陰性証明書、④コロナ感染治療をカバーできる10万米ドル以上の支払可能な医療保険加入証、⑤滞在ホテルの予約証明書、の所持です。そして、入国後には政府指定のホテルに7日間隔離されます。でも日本人観光客を見たことはないそうです。

 インドネシアでは、他の島と同様にバリ島でもコロナ感染が広がりましたが、日本ほどオミクロン株の影響が拡大する状況にはまだ無いようです。現在はワクチンを2回打っている人が増えているようです。背景は、モールや空港などの大勢が集まる所へ入場する際、ワクチン接種証明書の提示を求められる、とのことです。

 Aさんに、ワクチンの接種について尋ねると、「1回もしていない」とのことでした。受けていない理由を尋ねると、Aさんが住む村ウブドは、絵画や工芸などバリ芸術と伝統芸能の中心地とされ、“神々に最も近い場所”と言われています。世界からヨガ行者が集まり、日々修行を行う村でもあり、神々との繋がりを重視する人が多く、科学的対処を受ける人は少ないとのことです。よって、Aさんは家族と一緒にモールへ行くと、モールの外で一人家族を待つそうです。

 またAさんは、日本のECプラットフォームを利用し、越境ECでバリ島において作られた商品を販売しています。

 全ての商品がSDGsの観点から選ばれた品々です。バリ島ほとんどの家庭にあると言われる、薬草などの天然素材から作られたボディオイルや、使用済みの漁網から作られた買い物バックなど、新型コロナ禍でバリ島へ渡航できない中、「バリ島の雰囲気」が感じられる商品として人気が出ています。

 現在Aさんは、日本をターゲット市場としていますが、次は英語圏であるオーストラリアやニュージーランドへ、また中国から気に入った製品を見つけて越境ECで販売するなど、新しいアイデアで拡大する計画を立てています。日本を離れ、その日本をターゲット市場にしながら、また世界を目指すAさんの明るい顔は、まさにグローバルEC商人でした。

■有吉 啓介(ありよし けいすけ)
神戸市出身、横浜国立大学経済学部卒。総合商社に35年間 IT関連の営業部門やスタッフ部門に勤務。在勤中にロンドン、ジャカルタでの駐在を経験。ジャカルタではIT事業会社を経営。帰国後に企業のDXやRPA推進に携わる。今年1月に独立起業。東京協会中央支部国際部・ビジネス創造部。2019年11月診断士登録。