国際部 阪本 晋

 私は2021年11月、JICAの課題別研修(投資促進・ビジネス環境整備(B))に事務管理のサポーターとして参加しました。年二回のコースとなり、昨年7~8月に開催された同研修(A)に続く(B)となりますが、今回も全てオンライン形式で行われました。
 課題別研修とは、日本が有する知識や経験を通じて新興国が抱える課題解決に資するためのものです。本コースは、海外直接投資(FDI)の誘致に必要な政策・制度の策定やビジネス環境の整備、実践的な投資促進ノウハウの理解を深めることが目的となっております。

■主催者: 独立行政法人国際協力機構 (JICA)
■受託者: (株)ワールド・ビジネス・アソシエイツ(WBA)
■研修期間: 2021年11月1日~25日(土日、自習日を含む)
■参加国: アジア・中南米5か国(マレーシア、バングラデッシュ、パキスタン、ネパール、エクアドル)
■参加者数: 各国2~4名、合計12名
■研修対象者: 各国の投資促進・ビジネス環境整備を担当する行政官(準高級クラス)

 研修における講義は、「グローバル・バリューチェーン・リンケージ」、「産業クラスターの育成」、「日本企業による海外展開戦略の例とリスク」、などをテーマに、大学・支援機関などから実施いただきました。民間企業2社へ取材を行った動画を披露するとともに、中堅食材メーカーから海外市場開拓への取組などのケースを講義いただきました。

■ワンストップサービスセンター:
 日本政府機関から講師を招き、日本政府による海外直接投資の誘致についても講義を行いました。その実例として、東京都が運営しているワンストップセンターにおいて、専門家による伴走型の支援や感染拡大を踏まえてリモート支援していることなどを紹介しました。
 研修員からは、投資誘致に係るワンストップセンターの役割について高い関心が示され、自国での導入状況の説明がありました。バングラデッシュなどは、非接触型のサービスも採用されているとのことで、その先進的取り組みについては後述させていただきます。

■ブレークアウトセッションとJICA VANの活用:
 今回の研修が座学に終わらなかった良い点として、講義後に、毎回、Zoomのブレークアウト機能を活用して、ワークショップの場を設けたことがあります。その日の講義について研修員に振り返りと重要な論点を討議してもらい、その討議内容を全員で共有しました。
 さらに、今回の研修として特徴的だったのは、初めてJICA-VAN(Virtual Academy Network)というオンラインでの学習ができるラーニング・マネジメント・システム、いわば一種のコミュニティサイトを導入したことです。このシステムにより、場所や時間にとらわれない、各自に合ったやり方で課題別支援や訓練が可能となりました。

■開発途上国ビジネス・海外進出ウェビナー:
 研修の一環として最後には、日本人を対象とした公開ウェビナーを11月24日に開催し、各国研修員が、研修プログラムで学んだ知見を活かし、自国への投資・進出に興味のある日本の潜在的投資家に対して自国の魅力を直接発信しました(下図:ウェビナーの案内)。
写真1

 ウェビナーには、約80社と数多くの日本企業、投資家、関係者の視聴参加を得ることができました。商社、IT、石油資源、医療、通信、塗装業、コンサルタント、人材派遣業など、数多くの業種の方が視聴参加されました。
 普段は日本企業に馴染みのない国もありますが、研修生の方々が創意工夫を積み重ねてきた施策を広く周知でき、その取り組みを知っていただく大変良い機会となりました。ウェビナーに対するアンケートに多くの回答をいただき、期待のほどが明らかとなりました。

■ウェビナーでの各国発表内容:
 ここから、各国の発表で、読者に有用と思われる情報を選んで要約させていただきます。

◇マレーシア ~ 今でも“Look East”を標ぼうする東南アジアの「老舗(伝統市場)」
 全世界16か国とFTAを締結しており、40億人の市場とつながっています。数多くの国際的機関から、その海外直接投資(FDI)に関わる取り組みが高く評価されています。設立50年の歴史を誇るマレーシア投資開発庁(MIDA)という強力な投資誘致組織を持っており、世界で20か所、日本にも東京と大阪に事務所があります。
 2020年における製造部門の投資国トップは日本で、投資額は280億米ドルに上りました。10~15年の免税特典もあり、約8,000社の製造業からの投資を得ています。Covid-19の影響を受ける中、2020年から翌年にかけてFDIの伸びが200%と反転を見せました。

◇バングラデッシュ ~ 注目株、躍進する西アジアの「優等生」
 2008年に、ユニクロはダッカに初めて駐在員事務所を開き、関連企業が投資を開始しました。その時代から比べれば隔世の感がありますが、現在、日本企業320社が進出しています。生産年齢人口は全体1.7億人の60%と労働力が豊富であり、100%外資でも容易に認可を受けることができます。衣料関連・農産物・自動車・医薬品・軽工業を中心に、FDIの流入は年間30億米ドルに上ります。
 投資促進を図るBangladesh Investment Development Authority (BIDA)と経済特区を統括するBangladesh Economic Zones Authority (BEZA)が車の両輪となっています。BEZAは住友商事と共同出資で、日本企業向け経済特区であるダッカ市近郊のAraihajar工業団地を開発しました。チャットグラム市近郊には1.3万ヘクタールの広さを誇り、海港・技術センターを有するBangabandhu Sheikh Mujib Shilpa Nagar(BSMSN)特区もあります。
 また、JICA援助によりワンストップサービスセンター(OSSC)が開設され、125もの政府機関サービスがワンストップで受けられます。Covid19対策を考慮して、そのうち48サービスがオンラインで提供可能と先進的な取り組みがなされています。

◇パキスタン ~ インドに次ぐIT先進性と可能性を秘めた西アジアの「原石」
 2022年は4.8%と比較的高い経済成長を見込んでいます。エネルギー・金融・電気機器・石油ガス・建設などの業種からの投資が主体で、ITとコールセンターは2,000社、30万人の英語が話せるITエンジニアを有し、毎年2万人の新卒ITエンジニアを輩出しています。
 全国に官民連携(PPP)により開発された20か所の経済特区があり、13か所のソフトウェアパークもあります。経済特区では10年間の免税措置があります。今後の注目政策として、EV関連の投資促進を図っておりインセンティブを厚くしています。

◇ネパール ~ 内陸の観光立国であり日本の「有望パートナー」
 非常に親日的であり、JICA ODAの常連国でもあります。一人当たりGDPは1,155米ドル、FDIのGDP比率は27.3%に上ります。インド・中国両大国のはざまで地政学的な影響を受けていますが、それでも日本を重視した政策が取られています。
 産業省のワンストップサービスセンターでFDIに関わる全てのサービスを受けられます。FDIには所得税・法人税減免・VAT償還特典があり、エネルギー・鉱物産業は10年以上免税、ハイドロ・再生可能エネルギー関連部品の輸入税も免除です。今後の投資優先分野は、農工業、鉱物資源開発、鉄道交通、エネルギー、観光業などです。

◇エクアドル ~ 赤道直下の自然遺産宝庫から産業面での躍進を狙う「新星」
 一人当たりGDPは5,643米ドル、経済成長率は過去10年間でラテンアメリカの平均である2~8%を上回っています。米ドル通貨圏でインフレ率も-0.07%とマイナスで、中南米でも上位のインフラ(空港・港・道路)を有し、農漁業・石油鉱業が盛んです。赤道直下で周辺地域へのアクセスが容易で、太平洋とパナマ運河を通じ大西洋とつながっています。
 投資優遇策としては、8~12年の免税措置・加速度償却・輸入税・配当課税免税、6か所の経済特区にて、先進技術移転、物流サービス・観光業誘致が行われています。日系企業では、トヨタ、総合ガスのエア・ウォーターなどが進出しています。

■最後に所感:
 エクアドル以外は、筆者が過去訪問したことのある国でしたが、投資という見地では非常に新鮮で、素晴らしい学びの機会を得ることができました。参加の機会を与えていただいた関係者の皆様に、この場を借りて感謝申し上げたいと思います。
 歴史を振り返れば、日本企業の海外直接投資のブームは、80年代後半のプラザ合意以降、生産コストを下げるための海外進出から始まりました。これが第一波と言えるものでしたが、第二波は2000年初頭からで、少子高齢化による日本市場の縮小見通しから、地産地消を通じて、海外での市場を開拓、獲得していくという動きに伴うものでした。
 では、現在はどうか。今回の研修参加国に見られるように、新興国が貪欲に世界の次世代技術イノベーションを取り込んでいくという動きが起点となっているように感じます。従来の労働力のみを求める動きではなく、いかに知的リソースを相互補完していけるかという視点が大切で、新興国との付加価値共創がテーマとなってきていると言えます。
 読者の皆様が、この記事を通じて、今回参加した各国の魅力に触れ、関係をつないでいく機会が創出され、新たな第三波(サードウェーブ)が起こるきっかけとなれば幸いです。

■阪本 晋 (さかもとしん)
中小企業診断士(2010年登録)、東京都中小企業診断士協会・中央支部・国際部部員。電機メーカーをへて現在関連会社勤務。(株)ワールド・ビジネス・アソシエイツ所属。