国際部 太田 一宏

 2022年2月19日土曜日、中央支部国際部のオープンセミナーを「ウィズコロナ時代のインドビジネスのポイントはこれだ!』-脱炭素で変貌するインド社会の最前線-」と題して開催しました。国際部オープンセミナーとしては昨年度に続きオンライン開催、今年はオンラインの利点を生かし、海外から御講演いただきました。参加者は約50名、日本全国は言うに及ばす、現地インドからもご参加いただき、拡大しつつあるインド市場への関心の高さが伺えました。国際部内のセミナー聴講者という立場から、当日の概要についてご報告させていただきます。
 ウィズコロナ時代に、世界経済に大きな影響を与えていく国として、今、インドが注目されています。人口14億人を抱える大きな市場というだけでなく、「脱炭素」という重要なキーワードがあります。インドのモディ首相は、COP26※で、2070年までに温室効果ガスの純排出ゼロを達成すると表明しました。産業界からは、モディ首相の宣言は野心的だが実務的な内容と評価される一方、その達成には先進国からの協力を含めて大規模な投資が必要になるとの声が挙がっています。(※2021年11月、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)。今回の中央支部国際部セミナーでは、インドビジネスの重要性を専門家や駐在経験者によって「これだけは押さえておきたい進出におけるポイント」として解き明かしていただきました。

第1部 基調講演 「コロナ禍におけるインド概論」
日本貿易振興機構(ジェトロ) ニューデリー事務所長 村橋 靖之氏

 ジェトロ ニューデリー事務所長の村橋靖之様に、インド現地(ニューデリー)からオンラインで、とくにコロナ禍という現状を踏まえた観点から御講演をいただきました。
 1日に4万人の新型コロナ感染者が発生した現地の現状、インド進出の日系企業の動向や、インド進出において押さえておきたい政治や商習慣、法規制について解説がございました。これからのインド進出に当たって、合わせて、公的機関として、海外展開を図ろうとする中小企業進出への期待感、留意点、公的機関の支援策の方針方向性などについてもご教示いただきました。
図1村橋様近影

図2パワーポイント

コロナ禍のなかで変わりつつあるインド
 パパママショップと称されるトラディショナルトレードが中心の市場へEコマースが急速に拡大して市場の変化が起こっているようです。デジタル化の面では、豊富な高度人材を基盤にプラットフォーマーを担うスタートアップが次々と現れ、グリーン化もモディ首相の2070年カーボンニュートラル宣言にリードされ電気自動車を中心にした進展には著しいものがあります。加えてサプライチェーンの標準化と言われる製造業振興策が産業構造を変えつつあります。

インドに向き合うには
 インドでのビジネスは、同じアジアとはいえ、東南アジアでのビジネスの延長線上ではなかなか成功しません。成功へ導くには先入観を排除して臨むことが不可欠です。製造業振興策からうかがえる保護主義的な政策もあり、インド人パートナーとの協業になるケースも多くあります。法規制や諸制度に適切に対応していくという面からみると、インド人パートナーと組むベネフィットは大きいものがあります。したがって、良きパートナーになりうる企業や人材との出会いや選定が、重要なファクターになってきます。
 パートナーの選定、法規制・諸制度への対応などインド進出は時間を要することも多いそうです。とはいえ、インドは長期的に伸びていく国。短期的な損得や成功・失敗にとらわれすぎないスタンスも求められるという認識をもちました。

将来は主要国の一角に必ずなる国-インド
 欧米や中国、韓国は日本よりもインド進出に積極的だそうです。それは、インドが将来、例えば30年後にビジネスの相手として欠かせない国になることを見据えているから。新しいアイディアが出てくる国はどこか、という見方をすると、アメリカに次ぐ国はインドです。インドとビジネスを始めようという国々は、そういう視点でインドを捉えているのだそうです。中小企業にとってインドとのビジネスを始めることは先ほども記したようなことがあり容易ではありませんが、このような広く長期的な視点で検討していくことが重要だと考えを新たにしました。

第2部 パネルディスカッション
「意外と知らないインド、駐在経験者が語るインドビジネスのポイントはこれだ!」
パネリスト:村橋靖之氏、大手鉄鋼商社 成田真氏、森畑和之会員
進行:徳長幹恵会員

 基調講演をいただいた村橋靖之氏、ムンバイ長期駐在を含め豊富なインドビジネス実績をお持ちの成田真氏、大手メーカー情報系子会社でプネ及びデリー駐在していた中小企業診断士(森畑和之会員)がパネリストとなり、With コロナ・Afterコロナ時代のインドビジネスについて、公的機関、ビジネスパーソン、海外支援コンサルタントそれぞれの立場からお話いただきました。
 インドは、地域によって特徴があるだけでなく、法令も異なるなど多くの顔を持っています。インド国内の商習慣と進出にあたり留意しておくべき注意事項は何か、インドの脱炭素社会の可能性はどうなのか、など、これからインドでビジネス展開を考える中小企業を想定し、インド進出のポイントが具体的にご苦労された点を交えて情報共有いただきました。
図3パネルディスカッション写真

ジュガード精神は中小企業の精神
 期待している材料が揃わなかったり、人材が不足していたり、あるいは規制や制約があったり、前進を妨げる要因があっても大丈夫。そこにあるもので、何とか乗り越えて前に進む。そういった考え方はジュガード精神と呼ばれ、インドでは広く受け入れられている考え方だそうです。柔軟性をもって課題に挑む、中小企業の精神と共通するところが大いにあると感じました。

インド人は日本人とベストマッチング
 インド人はジュガード精神に基づいた柔軟発想からの創意工夫に力を発揮します。IT分野のアプリケーション開発も豊かな発想をもった推進力でプラットフォームを築きつつあります。一方、開発したアプリケーションをドキュメントに適確に残していくことはあまり得意ではないようです。日本人はドキュメント化を正確に行う力を有しており、お互いの長所を生かし合うベストマッチングな関係、ということが話されました。IT分野の潜在力が高いと言われているインドですが、インド人をアプリ開発のプログラマーとして重用する時期は既に過ぎ、ビジネスパートナーとして協働し合う時期が到来しています。ベストマッチングを実現できる可能性が広がりつつある、という印象を受けました。

カーボンニュートラルを目指すインド
 モディ首相の宣言で注目されているカーボンニュートラルですが、インドは省エネルギーという概念もまだ十分には浸透していないようで、現状では政策先行の感は否めないようです。しかし、そこが逆にビジネスチャンスにもなりえるでしょう。鉄鋼業をはじめとする日本の基幹産業の省エネルギーを支えてきたのは中小企業の力であり、その力がインドのカーボンニュートラルを支え得る可能性もあります。また、農業はインドで大きな割合を占めるセクターであり、地球温暖化対策という観点ではメタン発生抑制など日本の技術を生かす場は広くありそうです。
 全体を通して、長期的な観点で、インドの特性を受け容れ、じっくりと構えてビジネスチャンスを広げていく価値がある市場だということが理解できました。中小企業診断士としてどのように関わっていくか、についてのヒントも多く得られたのではないかと思います。

講師・パネラーとしてご登壇くださった方々、充実したセミナーを有難うございました。

■太田 一宏(おおた かずひろ)
2018年中小企業診断士登録。アメリカ、イタリア、ベルギーに通算15年駐在。中央支部認定マスターコース「稼げる!プロコン育成塾」主宰。月刊『企業診断』2021年2月号特集「これから始める診断士のSDGs支援」執筆。健康経営エキスパートアドバイザー。