国際部 土佐林 義孝

 新型コロナウィウルス感染症の影響が続いている中、近年、脱炭素化が社会課題となっています。脱炭素社会構築に向けて、EVがその役割の一部を果たすことが期待されており、世界中でEVの普及が加速しいています。EV業界は、実は中小企業が活躍している分野でもあり、国際社中の中では、「EV業界の現状と課題」、「中小企業の活躍事例」を取り上げました。EV業界の話題は、自動車関連の中小企業支援の中では外せないテーマとなります。2021年の各国のEV普及状況と、2022年の業界の見込みについて、国際社中で発表した内容のダイジェスト版と、最新のトピックス、社中後に個別にいただいた質問への回答を報告致します。

1.電気自動車(以下、EV)の定義について

 「EV」のことを、「電気自動車」のことだと認識している人は多いと思います。しかしながら、EVは「Electric Vehicle」の略であり、電気を動力にして動く車両=電動車両」全般を指す言葉です(図1参照)。

図1
図1 出展:【図解】「EV(電気自動車)」とは?|HV・PHV・FCVとの仕組みの違いを解説(東京電力エナジーパートナーより引用)

 一般的に「電気自動車」と考えられているものは、「BatteryElectricVehicle(通称BEV)」とも呼ばれます。「電気で走る」ハイブリット車(HV)や燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド車(以下、PHV・PHEV)も実は、EVに含まれます。国によって、定義が異なるため、この点注意が必要です。

2.日本、米国、欧州、中国の普及状況と2022年度の展望

 EVの普及状況について、日本以外に世界最大の自動車市場、中国、北米と、EVの普及に力を入れている欧州を見てみます。
 中国では、PHVやFCVを含む電動化車両を新エネルギー車(New Energy Vehicle=通称NEV)と呼び、自動車メーカーが販売台数の一定割合をNEVとする「NEV規制」を実施しています。そのため、EV販売シェアは、2015年以降右肩上がりです。
 欧米においても2035年には、HVも含めてすべてのガソリン車・ディーゼル車が禁止される方向で、EVが急速に普及しています。北米においても緩やかにEVの普及が拡大しています。
 それに対して、日本市場は、2015年度以降ほぼ横ばいの状況です。一般社団日本自動車販売協会連合が発表している燃料別販売台数(乗用車)」によると、2021年度のBEVの普及は1%未満です。諸外国と比べて、BEVの普及が遅れている状況にあります。裏を返せば、日本のBEV市場はこれから拡大の余地があるともとることができます。

図2
図2:出展:東京電力エナジーパートナー EVの普及率〈図〉2015年〜2020年における世界各国のEV、PHV・PHEVの新車登録台数とシェアの推移13)
図3
図3:日本のEV普及状況

 そのため、拡大するEV市場に乗り遅れないために、2022年度は、日系の完成車メーカー各社からEVが発売予定です。EVがもっと身近になる年と予想します。

図4
図4:2022年EV販売計画(日系のみ)

 

3.EV業界の課題

 EVの普及のカギを握るのは、リチウムイオン電池です。リチウムイオン電池の製造で加工、組立の工程には、実は中小企業の技術が多数取り入れられています。今回の国際社中では、リチウムイオン電池の構造、電池製造プロセス、サプライチェーンを取り上げました。それらを踏まえた上で、現状リチウムイオン電池の課題である①価格②エネルギー密度③充電時間④経年劣化⑤安全性を解決すべく、活躍する中小企業について取り上げました。また、最近話題となっている全固体電池についても取り上げつつ、電池のリユースやリサイクルなどからどのようなところに中小企業のビジネスチャンスがありそうか見てみました。

図5-1
図5-2
図5:課題と事故の事例出展:NITE製品評価技術機構

 

4.2022年のEV業界動向と関心の高さについて

 2022年3月4日ソニーとHondaは、新しい時代のモビリティとモビリティサービスの創造に向け、戦略的な提携に向けた協議・検討を進めることを合意したとの発表がありました。具体的には、両社で合弁会社を設立し、新会社を通じて、高付加価値EVを共同開発・販売し、モビリティ向けサービスの提供と併せて事業化していくとのことで、業界に衝撃を与えました。
 2022年は、EVの新車販売とともに、異業種の連携がますます加速する年になるかと思います。参加者からは、従来のガソリン車向け部品製造業者は、どのように事業展開していくとよいか、FCVの普及についてなど質問がありました。
 部品製造業は、バッテリーケースへの取り組みを行う事業者が多いです。その他の事例については、私の今後の研究課題となりました。
 車すべてをBEVにした場合、発電と合わせてのCo2排出量では、HEV車より多くなります。そのため、日本市場では、HEV車やFCVの方がよいとされてきました。この点、先日の社中でも、皆さま、関心が高かったように感じています。
 しかしながら、欧米や中国では、日本のHEV技術にはかなわないということで、EVのプラットフォームを先行して、国を挙げて構築してきています。そのため、欧州、中国、米国はHEV車禁止の方向で動いています。
 日系の完成車メーカー、例えば、トヨタは売上高に占める海外比率は、2021年度7-8割を占めています。商売上、今後影響が出てくることが予想されます。トヨタの本音では、カーボンニュートラルの観点で、BEVは無意味と考えていると推測されます。しかし、商売上海外の売上が7-8割を占めることから、BEVを無視できず、2021年12月の戦略会議で、BEVへの投資拡大を発表し、「ついにトヨタが動くのか!」と業界に衝撃を与えたのが記憶に新しいです。
 私の方では、引き続き、EVの業界について知見を深め、中小企業支援に当たりどのようなことができそうか、情報発信していこうと思います。

■土佐林 義孝(とさばやし よしたか)
1981年生まれ。機械の総合商社に営業職として入社。OEM製品の開発輸入、ブランド製品の海外市場開拓輸出取引、自動車部品/リチウムイオン電池向け生産ライン用の設備新規開拓を担当。2018年中小企業診断士試験合格、2019年5月登録の企業内診断士。東京協会中央支部所属。中央支部認定マスターコース「pwmcパラレルワークマスターコース」事務局。月刊『企業診断』2021年2月号特集「これから始める診断士のSDGs支援」執筆。