Global Wind (グローバル・ウインド)

国際部 浅野 融

 私は本年5月に診断士登録をしました。前職では外資系企業で半導体事業に従事しており海外赴任や海外との協業が多かったので、中小企業診断士になっても海外との接点を持ちたいと思い国際部に入部いたしました。
 先日萩生田経済産業大臣がAlbany(オールバニ)のNanotech Complex(本稿ではナノテクセンター)を訪問したというニュースを見て、10年ほど前に訪れた時のことを思いだしました。昨今半導体不足で半導体関連のニュースを目にすることが増えましたので、今回は前職の経験に基づいて半導体の話をさせていただきます。

【Albany:オールバニ】
AlbanyはNY州の州都でJFK国際空港から車で2時間半くらい北の位置にあります。IBMの半導体製造拠点だったBurlington(BTV)とEast Fishkil(EF)の間にあります。今はBTVもEFも売却され別の会社が運営しています。この一帯はハドソン川流域で夏は緑が多くきれいな場所です。半導体製造では大量に水を使うので水源となる川や湖の近くに工場が建てられます。
図1 Albany Nanotech

【ナノテクセンター】
 萩生田経済産業大臣訪問のニュースでAlbanyの産学協同のコンソーシアムの存在を初めて知った方が多いのではないかと思います。また半導体でIBM?と思った方がいるかもしれません。実はIBMは半導体技術のIPをたくさん持っている会社です。IBMは2015年に工場と外販の設計チームを別会社に事業譲渡しましたが、先端技術の基礎研究はAlbanyで続けており、自社のプロセッサ設計も自社内で続けています。改めてネットでAlbany Nanotech Complexを調べると半導体以外のナノテクノロジーの研究機関も集積しているのでComplexと言うことがわかりました。本稿ではNanotech Complexの半導体の研究施設をナノテクセンターと呼ぶことにします。半導体研究施設は2001年ニューヨーク州とIBMが共同出資してできたCENN:Center of Excellence in Nanoelectronics and Nanotechnology in UAlbany)から始まったニューヨーク州立大学との共同研究の組織です。その後参画企業が増えていき、今では素材、マスク、製造装置など先端半導体の製造に必要な基礎技術を一緒に開発しようと様々な企業が集まっています。先端の半導体テクノロジーに必要な技術をもつ企業を集め産業クラスターを作りイノベーションを加速する仕組みです。ナノレベルの最先端技術は一社だけでは開発できないと判断した企業と、ニューヨーク州の半導体産業誘致による雇用創出・経済発展の戦略とが上手くマッチした形です。

【Albany訪問】
 私がお客様を連れてAlbanyを訪れたのは2012年だったと思います。当時大統領のオバマさんが訪問したあとで、歓迎の垂れ幕が残っていました。試作ラインを見学させてもらいながら、450mmウエファーを入れるフープの研究室とか、当時は世界に数台しかなかったEUV(極端紫外線)露光装置を設置する予定の場所などを案内してもらいました。ちなみにEUVは7nm(ナノメートル)以下のテクノロジーでは必須の露光装置です。その場所はとてつもなく大きい部屋で、クレーンがX/Y方向に移動できるような鉄骨の骨組みが設置されていたのが印象的でした。ちなみに1nmは10-9メートルで、1nmをビー玉とすると1メートルは地球くらいのスケール感です。
 ナノテクセンターで働く人は企業の人だけでなく学生もいるのが面白いところです。また、いろいろな企業が集まっており競合に当たる企業も仲間に入っていることに少々驚きました。そういえば日の丸半導体が強かった時代に競合会社の技術者が一ヶ所に集まって共同研究をしていたと聞いています。

 半導体の話を進める前に、「そもそも半導体って何?」からお話しします。半導体はゲートにかける電圧で導体になったり不導体になったりするものです。素子として作られた半導体トランジスタ(本稿ではトランジスタ)は電圧でON/OFFできるスイッチの機能をします。次の「トランジスタで論理を組む」ではトランジスタで論理演算を実現する仕組みをひとことでお話しします。その後「構造と加工工程」の話をしますが、それは微細加工のキモである露光が半導体の製造工程の中でどういう役割なのか知っていただきたいからです。

【トランジスタで論理を組む】
図2のa、bは「電圧でON/OFFできるトランジスタ」をスイッチで表現したものです。それらを直列にするとAND条件で導通し、並列にするとOR条件で導通します。この原理を使ってトランジスタレベルの論理回路を組みます。さらに状態を保持する仕組み(メモリー回路)があればデータ処理の集積回路が設計できます。
図2 トランジスタスイッチの繋ぎ方

【構造と加工工程】
半導体の製造工程はウエファーの洗浄から始まり、その上にトランジスタ層、配線層を形成していきます。各層の形成は写真の露光と現像のプロセスに似ています。
簡単に言うと以下のステップです。
(1)形成する層の膜をつける
(2)感光剤塗布
(3)マスクパターンを使って露光
(4)エッチング
図3 半導体プロセス間略図
 露光装置の光源が短波長ほど微細なパターン(配線やトランジスタの形状)が形成できます。EUV露光装置は13.5nmの極端紫外線を光源に用います。7nm以上微細なパターンにはEUV露光装置が必要になります。

【さらなる微細化】
最近IBMから2nm(ナノメートル)の縦型トランジスタ(VTFET)の発表があったので、久しぶりに最近の半導体を調べてみました。右図が新しいVTFETと現在の最先端トランジスタのFinFETとの構造の違いです。VTFETは縦方向に電流が流れます。この構造によって集積度向上と省電力化が可能になるという発表でした。面積あたりの集積度をあげるために3次元化が進んでいます
図4 VTFETとFinFETの構造

 またIMEC(ベルギーの研究機関)が今年発表したロードマップで「36年に2Å(オングストローム)」という計画に驚きました。1Åは1nmの1/10で原子の大きさの単位です。今は7nmから5nmが最先端の量産レベルなのでさらに一桁微細化が進むことになります。私が初めて設計したのが1986年1.5um(10-6)で最後の設計は90nm(2001年頃)でしたので、改めて微細化の進歩の大きさに驚いています。私が退職した2018年末時点では、まだEUV露光プロセスは量産に課題がありEUVが必要な7nmの量産は相当難しいと思っていましたし、そろそろ微細化は限界ではないかと思っていました。しかしそんなことはありませんでした。ひとたびEUV露光技術の課題が解決できるとまだまだ微細化が進むようです。

【日本の半導体産業】
 よく日本の半導体産業が衰退したと言われることがありますが、実は結構頑張っていると思います。日本には最先端の半導体工場がないので「昔は先頭を走っていたが今は後塵を配している」と思われますが、プロセッサなどのロジック製品はもともと強くなかったです。イメージセンサーやパワー半導体など得意な分野は残っているし、製造装置、材料、ダイシング、テスター、マスクなどで日本の企業の存在感は強いです。DRAM全盛の時代はDRAMで歩留まりを上げてからロジック製品の製造という流れでした。しかし0.4um世代くらいになると汎用プロセッサ・ロジックに求められるトランジスタ性能・集積度・配線技術はDRAMと異なってきて、DRAMで歩留りを上げる作戦が成り立たなくなりました。ロジック用プロセスの歩留向上には、汎用プロセッサのように規則的な構造の製品をしかも大量に生産する必要があります。その様なロジック製品が日本に無いので最先端半導体工場が必要ないということになります。

【最先端テクノロジー X 大量生産】
 1枚のウエファーからどれだけのチップが取れるか概算してみます。ウエファーの再外周5mm程度は丸い周囲に四角いチップが収まらないエリアなので、半径から5mm引いて有効面積を計算します。それをチップ面積で割って歩留を掛けるとグッドダイ(良品)数の概算ができます。300mmウエファーで10×10=100mm2のチップの場合は(150-5)2×3.14÷100=660。歩留90%とすると約600個とれます。25枚ウエファーで1ロットとすると約15,000個/ロットになります。一方7nmテクノロジーで100mm2の面積には大規模なロジックが入り、マルチプロセッサの様に大規模ブロックを繰り返し並べられるものでなければエリアを使いきるのは難しいです。
 最先端半導体を使う製品の年間の出荷台数を調べてみました。2020年の統計によるとスマホが年間16億7千万台、PCが2億8千万、カメラは888万台、自動車は9,000万台(2019年)でした。カメラ・自動車で最先端テクノロジーが必要なのは一部のハイエンド製品に限られるので年の需要は1~2ロットで賄える程度です。やはりスマホやPCで使われるプロセッサを作る見込みがなければ最先端テクノロジー工場への投資は難しいでしょう。いまの日本で最先端テクノロジーが必要なアプリケーションはスーパーコンピュータのプロセッサ、ハイエンドカメラの画像エンジン、自動運転のプロセッサなどですがスマホやPCにくらべると桁違いに少量なので工場の投資には至りません。その様な事情から残念ながらTSMCの熊本工場もEUVを使う最先端テクノロジーの製造工場ではありません。

【半導体産業に関わる日本の中小企業】
 先日、海外の先端半導体製造装置メーカーに金属加工部品を納めている中小企業とお話をする機会がありました。難しい加工だけではなく銅イオンが混入しないよう徹底した管理ができるのが強みだそうです。それを聞いて米国の半導体工場ではクリーンルームで働く「人の管理」が難しい問題があったのを思い出しました。半導体製造はゴミ・不純物が大敵なので徹底管理が必要です。日本の様な几帳面な国民性は半導体製造に向いています。半導体産業は裾野が広いので、海外で稼いだ企業や外国企業が円安を利用して日本に半導体工場を作ってほしいところです。政府の後押しもあり日本への投資が増える傾向にあります。それによって半導体に関わる中小企業が繁盛することを願っています。

【さいごに】
 最後まで読んでいただきありがとうございました。今回は自己紹介を兼ねているので、自分の経験に基づいた国際化の話をいたしました。半導体に関心をもっていただくきっかけになれば幸いです。

■浅野 融(あさの とおる)
2022年中小企業診断士登録、法政大学MBA、PMI certified PMP®️
前職では半導体回路設計・営業・PMに従事。2005年ISSCC 26.7論文発表と関連特許。
東京都中小企業診断士協会 中央支部国際部 部員