国際部 松島 大介

2022年11月末に、私が代表を務める株式会社国際協力データサービスが、経営品質協議会の経営デザイン認証ランクアップ認証を認めて頂けた(※0)こともあり、この経営デザイン認証と、それに関連し日本経営品質賞を含めた経営品質について今回より3回に分けて述べたいと思います。
国際的な情報か?と感じるかもしれませんが、世界で活用されている経営品質プログラムということで、ご紹介したいと思います。

Ⅰ.経営品質は日本発のアメリカ帰り?

Japan As No.1と呼ばれていた1980年代、アメリカは国内産業の空洞化により国際競争力が低下していました。アメリカは、国際競争力強化のために、日本企業の強さの秘訣を分析し研究し始めました。その結果、「顧客本位」「従業員重視」というアメリカにはなかった2つの特徴を含め、日本式のリーダーシップ、小集団活動を始めとした自立型チームワークなど、経営品質の仕組みが強さの秘訣であるという結論に至りました。このときの学びから、日本語がそのまま英語になっているのが、みなさんご存じの「kaizen(改善)」です。このことからも、当時の日本の働き方がアメリカに大きな衝撃を与えたということがわかりますね。

この研究結果を踏まえて、1987年、この経営品質の仕組みを評価するマルコム・ボルドリッジ国家品質賞(以下、「MB賞」と呼びます)がアメリカで創設されました。

2022年末現在、MB賞の審査は、「経営品質(TQM:Total Quality Management)」の考え方に基づき、「リーダーシップ(120点)」、「戦略(85点)」、「顧客(85点)」、「測定、分析、ナレッジマネージメント(90点)」、「働き手(85点)」、「オペレーション(85点)」、「結果(450点)」の7つのカテゴリー合計1000点満点で採点が行われます。(※1)

図表1 米国マルコム・ボルドリッジ国家品質賞のフレームワーク

図表1MB賞フレームワーク

出典 ボルドリッジ・エクセレンス・ビルダー2021~2022【日本語版】(※1)

日本の経営品質協議会のウェブサイト(※2)によると、
MB賞の特徴は、以下の3点となっています。
(1)どんな組織でもシステマティックに展開できる方法論として以下の3点を確立
1.どの業種・業態にも共通する枠組み(フレームワーク)
2.枠組みを用いた見直し(セルフアセスメント)方法
3.見直し実施後の評価ガイドライン
(2)共通の枠組みを用いているので、業種や業態を超えて学習することができるため、他の経営者に対しても優れた事例が提供できること、つまり、良い組織の経営手法が公開されているので、これらをベンチマークすることで、自社の経営品質を向上させることができる
(3)共通する枠組みを含めて、時代の要請にあわせて変更していく

(3)に関連しては、MB賞のウェブサイト(※3)によると、2023年1月から時代に要請にあわせて、以下の焦点が追加されるとのことです。
●組織の俊敏性、イノベーション、変革(トランスフォーメーション)
●リスク管理とサプライチェーンの回復力
●社会貢献と環境の持続可能性
●働き方と働き手のニーズの変化
●ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン

MB賞と同じ考え方のもとで、全世界に、地域毎にカスタマイズされた経営品質プログラムが普及し、現在では日本を含め、世界で100以上の国や地域で展開されています。こうした状況の中で、主立った地域の表彰制度責任者が年に一度、情報の共有とベストプラクティスの追求等を目的としてGEM/C(Global Excellence Model/Council)が2000年に創設されました。
現在、日本をはじめ、図表2のメンバー(国)で構成されています。なお、今回は、日本の経営品質プログラムを中心にお話しさせていただきます。

図表2 GEM/Cメンバー

図表2GEM-Cメンバー
出典:経営品質協議会のウェブサイト(※4)

アメリカの国際競争力が回復する一方で、日本ではバブル経済崩壊後、日本の国際競争力は落ち始め(2022年は過去最低の34位)、米国競争力強化に大きく貢献したMB賞に注目し、その枠組みを研究した結果、このMB賞の活動は、わが国においても有益であるという研究結果となりました。

こうした研究成果を元に、1995年12月、顧客価値(顧客が認識する価値≒顧客の要求や期待)を中心として経営革新を進めるモデルとなるべき組織を表彰する制度として、日本版MB賞というべき「日本経営品質賞」が創設されました。

Ⅱ.日本経営品質賞のアセスメント(審査)基準について

2022年度から日本経営品質賞のアセスメント(審査)基準は、顧客価値経営ガイドラインが策定されたこともあり、変更されました。2023年度以降の詳細については、日本経営品質賞のウェブサイト(※5)からダウンロードできる見込みです。

参考までに、2021年度までの審査基準は、MB賞と似ており、「リーダーシップ(100点)」、「社会的責任(50点)」、「戦略計画(50点)」、「組織能力(100点)」、「顧客・市場の理解(100点)」、「価値創造プロセス(100点)」、「活動結果(450点)」、「振り返りと学習(50点)」の8つのカテゴリー合計1000点満点で採点が行われていました。

2023年度経営価値経営ガイドラインのフレームワークと、2021年度までのアセスメント基準のフレームワーク等から筆者が加筆・修正作成したフレームワークは、図表3の通りとなります。なお、このフレームワーク図は、2023年度版顧客価値経営ガイドラインの図とやや異なりますので、ご注意のほどお願い申し上げます。

図表3 日本経営品質プログラムの筆者作成のフレームワーク

図表3フレームワーク

出典:2021年度経営品質アセスメント基準、経営価値経営ガイドラインより筆者作成

なお、2023年度の評価については、(1)全体、(2)図表3の実践領域1-5(変革活動)、(3)図表3の実践領域6(事業成果)について、図表4に基づき評価されます。また、活動の「量」や「結果」をみるだけではなく、経営の設計図をもとにありたい姿や戦略が明確であり、ありたい姿を実現するための活動が回っていて、さらにそれらを立証する成果が出ているか、といった視点で経営の設計図から変革活動、事業成果の流れを俯瞰することになりました。くわえて、顧客価値経営における共通の価値観として示されている「基本理念」や、活動の基本姿勢として示されている「コンセプト」が、組織においてどの程度反映されているのかも重視するという風に変更されました。これにより、今までの評価基準では評価できなかった視点をより広くいれることができるようになりました。

図表4 2023年度の経営品質賞の評価基準

図表4評価基準

出典:2023 年度日本経営品質賞 申請・審査ガイドブック

次回は、経営デザイン認証(経営品質協議会)について述べたいと思います。

(※0)https://www.jqac.com/management_design/certification
(※1)ボルドリッジ・エクセレンス・ビルダー2021~2022 日本語版
https://view.officeapps.live.com/op/view.aspx?src=https%3A%2F%2Fwww.nist.gov%2Fsystem%2Ffiles%2Fdocuments%2F2021%2F07%2F30%2F2021-2022-baldrige-excellence-builder-japanese.docx&wdOrigin=BROWSELINK
(※2)https://member.jqac.com/contents/index.asp?patten_cd=12&page_no=15
(※3)https://content.govdelivery.com/accounts/USNIST/bulletins/33d155d
(※4)https://www.jqac.com/about/#GLOBAL
(※5)https://www.jqac.com/jqaward

■松島 大介(まつしま だいすけ)
2012年11月中小企業診断士登録 / 東京都中小企業診断士協会 中央支部 国際部所属
株式会社国際協力データサービス 代表取締役
CQ Center 公認ファシリテーター / CWQ 公認アソシエイト /
異文化エキスパート養成講座 第1期生 / 2030SDGsゲーム 公認ファシリテーター