国際部 宮川 公一

日本とASEAN諸国(東南アジア諸国連合)との相互関係は1973年から築かれており、今年2023年に友好協力50周年の節目を迎えています。

去る2月18日(土)、中央支部国際部として、日本アセアンセンターと共催で、「~日本ASEAN友好協力50周年記念~日本アセアン関係50年の発展を礎に活動と交流の更なる活性化へ向けて」と題し、国際オープンセミナーを開催しました。私もセミナー実行委員の一人として、準備してきました。

セミナーは、ASEAN諸国について改めて学ぶ機会となりました。私は今まで、インドネシア、フィリピン、シンガポール、タイ、カンボジアの5か国には訪問したことがあります。その他の国には訪問したことがないので、近い将来、ぜひ訪れてみたいと思っています。
このセミナーは、日本アセアンセンターのご厚意で、同団体のホールをお借りでき、事務局を設置していただきました。今回はオンラインでの開催となり、登録者人数は71名、当日参加された方は53名でした。

図1

 

ASEANとは

ASEANとは、1967年8月の「ASEAN設立宣言」に基づいて、東南アジア地域の平和と安定や経済成長の促進を目的と設立された協力機構です。日本との関係では、「日・ASEAN合成ゴムフォーラム」が設置され、日本とASEANの間で対話を開始し始めたのが、友好関係の始まりとなっています。ASEAN設立当初はインドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイの5カ国でしたが、その後にブルネイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアの5か国が加盟し、現在は10か国の構成になっています。近い将来、東チモールも新たに加盟する予定になっているとのことです。
日本とASEAN諸国の関係では、貿易において重要な相互依存関係があります。輸入に関しては、バナナは2021年の日本の全輸入額の78.3%、天然ゴムは99.6%、パーム油は99.9%を占めています。日本からASEAN諸国への輸出品の上位は、鉄鋼9.6%、半導体等電子部品9.2%、自動車部品46%となっています。

第1部:石田靖氏の講演

今回のセミナーは2部構成になっており、第1部では、日本アセアンセンター貿易投資 事業統括長代理兼クラスター長の石田靖氏による講演がありました。

図3

日本アセアンセンター貿易投資 事業統括長代理兼クラスター長の石田靖氏

石田氏によると、日本アセアンセンターは、日本政府とアセアン諸国との協定により設立されました。ASEAN諸国の総人口は、約6億7000万人で、世界の人口の約8.6%が生活しています。GDPは約3兆ドル。日本の約59%となっていて、近い将来、日本に追いつくとの予測がなされています。ASEANの2023年の主要テーマは、リカバリー、デジタライゼーション、サステナビリティということです。議長国は輪番で回っており、2023年はインドネシアが議長国です。
日本は、平均年齢の中央値が、48.4歳と超高齢社会で高くなってきていますが、ASEAN諸国の平均年齢の中央値は31.1歳です。ラオスは24.4歳、カンボジア25.5歳、フィリピン25.7歳など非常に平均年齢が若い国々があり、勢いがあります。一方、シンガポール42.2歳、タイ40.1歳のように、日本に続いて高齢化社会に向かっている国々もあります。同じASEANといっても国の世代構成は様々です。そういった意味では、多様性に富んだ国々が加盟していると言えるでしょう。

図4

また、日本企業のASEAN諸国への進出については、イオン、ドン・キホーテなどの大手小売業に勢いがあるようです。イオンはベトナムのフエで、7番目のモール建設を予定しているそうです。また、ドン・キホーテはタイに2店、シンガポールに8店、マレーシアに1店出店しているとのことでした。ドン・キホーテは、売り場面積の半分を食品に充てており、日本の食品を多数扱っているようです。日本食ブームがあるのでしょう。ASEAN諸国内では、Eコマースも増加しており、決済もスマートフォンが急激に増えているようです。

石田氏は、今後の未来に向けたヒントについても語ってくださいました。1人当たりのGDP が3,000ドルを超えると、購買意欲が高まると言われていますが、ジャカルタの中心部は、既に30,000ドルを超えており、ブルネイも32,000ドルを超えています。1人当たりのGDPが30,000ドルというのは、大阪府の1人当たりのGDPと同じ水準になります。日本はアジアの中では経済大国で先進国という意識は、もはや時代遅れになりつつあるといっても過言ではないと思います。
今後、ASEAN諸国の市場の見通しは明るいです。例えば、ASEANの小売市場の中で、46%、360億ドルがコンビニエンスストアでの購買だそうです。各国ともコンビニエンスストアの存在感は年々大きくなってきています。日本でコンビニエンスストアが市場を席捲している状況と同じです。また、各国に産業界の巨大グループがあるとのことで、それらのグループと連携を図る中で日本からのビジネスチャンスが広がる可能性があるとのことでした。面白い分野では、フードテックの話題もありました。代替肉や、昆虫からの食品製造などの分野も盛んになってきているようです。
エコに関しても、アセアン諸国は危機意識が高く、各国で持続可能な社会を目指して、海洋プラスチックの問題への取り組み、ごみ削減など様々な施策を講じているとのことでした。ごみ処理に関しては日本が先行している分野であり、コラボレーションできる可能性があります。

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第2部:パネルディスカッション

第2部は、パネルディスカッションの時間でした。タイでは、タイ診断士会が設立されており、54名の診断士が登録しており、現在は名前を変えて、東南アジア中小企業診断士会になりました。本日は、当会から、棚田勇作氏、藪内一夫氏、宮崎浩介氏の診断士3名がパネルディスカッションに参加されました。ファシリテーターの阪本氏、日本アセアンセンターの石田氏と共に5名でディスカッションを展開していただきました。

図7差し替え
Zoomでのグループディスカッション風景

 

タイは、コロナの影響が殆んどなくなってきているそうで、交通渋滞も戻ってきているとのことでした。経済も回復してきているそうです。タイの経済は自動車の生産台数と比例していて、コロナ前200万台だったところが、170万台まで一旦落ちましたが、現在は、190万台に回復してきているとのことです。
ベトナムも、コロナは影響がほぼなくなってきており、公共機関以外ではマスクはしていないとのことです。経済も成長していて、ベトナム全体で国民1人当たりのGDPは、4,000ドルを超えるまでになってきています。
インドネシアでは、新型コロナウイルスの影響による活動制限は2021年から約2年間ありましたが、実質的には経済をストップさせることはせず、現在は活動制限は撤廃されています。人口も増加しており、経済成長とともに自動車の生産台数も増加しています。
ベトナムへの日系企業の進出は落ち着いていて、大企業は規模の大きいプロジェクトを展開していますが、中小企業の進出はあまりないとのことでした。中小企業の進出パターンは、ベトナム実習生に絡んだ仕事が主だとのことです。
インドネシアは自動車の生産台数が見込めるということで、進出した日本の中小企業は多いのですが、実際は台数が伸びず、見込みがズレて撤退した企業もあります。技術系の工場長が赴任するケースが多いそうですが、畑の違う工場長が現地で営業することが難しいという課題もあるそうです。
ASEAN諸国でのビジネスは、意思決定のスピードが速くなっています。日本企業にも同様のスピード感が求められていますが、中々、迅速な意思決定ができない日本企業が多く、機会をロスしています。

今後、診断士として何ができるだろうか、という問いかけがありました。中小企業からは現地に1人しか赴任させていないケースが多く、上司は日本にいる社長しかおらず、コミュニケーションが段々疎遠になってくる現状があるそうです。相談されても日本の社長が分からない状況で、現地で何とかしてくれと言われ、現地の責任者は困っています。生産管理出身の人が多く、現地スタッフの人事の問題、工員の管理など、感覚が違うので判断が難しく、相談先がないので困り果てる状況があります。そんな時に、診断士としてかかわりが持てるのではないかという提言も出てきました。
現地に行くと、貧富の差か大きいのが如実に分かるとのことです。富裕層は桁違いに裕福で、寿司を食べるのに1人8万円でも支払うとのことでした。ローカルの富裕層の市場は大きく、中産階級の所得もかなり上がっているので、今後も市場は拡大していくでしょう。ジャカルタも中心部は富裕層が増えているとのことです。華僑も人口の3%いるので、2億7千万人のうち800万人が華僑です。マレーシアにも華僑がいます。その層はジャパンブランドに対する信仰も厚いので、ここへも期待できるとのことです。
ベトナムは、スピード感や意思決定は早いですが、行政に関する手続きは遅いとのことです。あきらめるのも速いとのことでした。日本企業としては、欧米各国の意思決定に負けない、迅速な決断ができる姿勢が求められています。

オンライン参加者からのご質問

オンライン参加者の中からのご質問もいくつかありました。

日本と各国を比較した情報は比較的見つかるのですが、ASEAN各国を横並びに比較する情報の調べ方を知りたいという質問がありました。下記のJETROのホームページからデータ比較が分かるようになっています。
https://www.jetro.go.jp/world/search/compare.html

また、三菱UFJ銀行も各種の活用できるデータを持っているとのことです。日本アセアンセンターも同様に色々なソースのデータがあり、活用できるそうです。

他には、日本の企業の中で進出意欲の高い業種は国ごとにどのようになっているか、という質問がありました。インドネシアでは資源に関連する事業、タイではサービス業の進出が増えてきているそうです。最近は、タイに住む日本人向けの事業ではなく、ローカルのタイ人向けのサービス業の進出が増えてきているそうです。ベトナムでは食品会社、健康食品関連の会社が日本から進出しているとのことでした。また、ベトナムでは、日本語ができる人が増えているそうで、日本人気は落ちていないようですが、それ以上に日本以外の諸外国も影響を与えてきています。10代から20代の若者に、日本をどのようにアピールしていけるかは今後の課題です。ちなみにベトナムでは、韓国からのカルチャーの影響が強くなってきているとの話もありました。インドネシアではジャパンブランドは根強いとのことです。タイでは、親日の度合いは高いのですが、一方で韓国の投資が伸びてきており、韓国の存在感が高くなってきているようです。

 

おわりに

今年は、日本とASEAN諸国間の周年行事が重なってきています。カンボジアと日本は、友好70周年記念。インドネシアと日本は国交樹立65周年。ベトナムは日本との外交50周年と目白押しです。
日本アセアン友好50周年に因んだ国際セミナーを開催しましたが、改めて、ASEAN諸国の発展が目覚ましい現実を知ることができました。ASEAN諸国において人口増加、経済発展が年々進む中、日本は高齢化、人口減少、経済の停滞と厳しい状況に直面していますが、マイナスに捉えるのではなく、ASEAN諸国とのパートナーシップ、友好関係をさらに深め、互いに持っていないものを補い合いながら、共にWinWinの関係を築いていく継続的な努力が必要であると実感したセミナーでした。今回は、東京都中小企業診断士協会中央支部と日本アセアンセンターの共催のセミナーができ、互いの持ち味をコラボレーションでき、有意義な場となりました。

*各種パワーポイント資料は、日本アセアンセンター石田氏のセミナー当日の講演資料から抜粋しております。

■宮川 公一(みやかわ こういち)
東京都出身。慶應義塾大学法学部政治学科卒。
現在、アースサポート株式会社勤務。
2011年4月中小企業診断士登録。東京協会中央支部国際部。介護福祉士、事業再生士補、介護福祉経営士1級、医療経営士3級。健康経営エキスパートアドバイザー、日本経営診断学会員、人を大切にする経営学会員。