国際部 阪本 普

1.はじめに

ポストコロナの時代を迎えて、改めて越境EC(インターネット通販サイトを通じた国際的な電子商取引)が注目を浴びています。今回は、中小企業、またその支援者の目線で越境ECにどう取り組んでいけば良いか、ジェトロの支援メニューを起点に、まず第一歩を踏み出す始め方を述べたいと思います。

越境ECは2026年にかけて530兆円へと市場の急拡大が見込まれ、将来にわたり成長と安定した需要が見込める有望市場です(図表1参照)。海外では、価格競争に巻き込まれず、日本ブランドの価値が認められるという市場も存在します。日本国内の市場が縮小するなか、越境ECは中小企業にとって、そうした海外市場に直接開かれた販路となっています。

図表1 電子商取引の世界市場規模

図表1

 

出典:2022年8月 経済産業省「令和3年度 デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」

 

越境ECは、経験やリソースがないと敷居が高い」という中小企業も多いかと思います。確かに、海外のECモールに出店する手続きが複雑、自社サイトを立ち上げても、なかなか自社の製品やサービスに対して認知を得られず販売につながらない、というのも事実でしょう。

そうした中で、ジェトロ(JETRO)で越境ECビジネスを支援する様々なサービスメニューが準備されていることは意外と知られていません。これらジェトロのサービスは、本格的に海外販売をゼロから立ち上げるための有用な導線として活用できます。ジェトロのサービスは、簡単にまとめると下表のような構成になります(図表2参照)。

図表2 ジェトロを活用した越境EC展開パターン

  第1ステップ 第2ステップ
B2C (ジェトロ)
Japan Mall 無料
自社独自
EC Mall出店 無料
B2B (ジェトロ)
Japan Street 無料
(ジェトロ)
Japan Linkage 有料

 

2.B2C 越境ECを始めよう

図表2でB2C 第1ステップである「Japan Mall」は、世界の60社以上におよぶジェトロの連携先バイヤーに商品を紹介する事業となっています(図表3参照)。対象商品は、食品・飲料、化粧品、日用品、生活雑貨、伝統工芸品など多岐にわたります。例年4月に募集開始で、登録料は無料です。

B2Cの製品を扱っているが、まだEC出店経験がないという中小企業にとって、ECモールに出店しているバイヤーへ販売することから始めるという方法になります。入口として「Japan Mall」事業に参画し、市場の認知を得て、次のステップとして、ターゲット地域のEC Mallに直接出展することが、リスクの少ないパターンといえます。

中小企業にとってのメリットは、「越境ECという海外事業でありながら、原則、国内納品、円建てで取引が完結することで複雑な輸出手続きが不要なこと」です。バイヤーとの間で買い取り契約が成立すれば、バイヤーがECサイトに出品し商品の返品リスクもありません。

この事業のさらに優れた点は、バイヤーと成約した商品のプロモーションを、ジェトロとバイヤーが共同で実施し、海外消費者の需要を喚起してくれることです。バイヤーのECサイト内特設ページや、グーグル・SNS広告、ライブコマースなどがこれに該当します。

 

図表3 Japan Mall事業の流れ

図表3

注:2023年度から、先にJapan Street(後述)に登録することに変更となりました。

出典:ジェトロホームページ 海外におけるEC販売プロジェクト

ライブコマースは中国が有名です。最近では東南アジアでもインフルエンサーを起用して、広告感を出さない、フォロワーや顧客のニーズに沿ったライブ配信でブランドのイメージを上げるといった動きが出てきています。その意味で、バイヤーによるライブやYouTube動画などを駆使したプロモーションは中小企業のブランド生成に資するものです。

では実際、どれだけの成果が出ているのか気になるところです。「Japan Mall」は、コロナ禍で拡大した世界のEC市場をとらえ、ジェトロによれば、昨年、延べ2,237社、6,640品目の商品の輸出に成功しています(図表4参照)。販売額では80億円相当の規模になります。

 

図表4 Japan Mall事業の成功事例

図表4

出典:ジェトロホームページ Japan Mall事業の成功事例

 

「Japan Mall」で実績を得たなら、次の第2ステップは、いよいよターゲットとする地域のEC Mallへ直接出店を狙うことになります。北米向けであればAmazonになりますが、東南アジアを目指すのであれば、域内最大のアクセス数を誇る、ShopeeとLazadaの2社が候補になります。

Shopeeは、シンガポールの金融・ゲーム事業を有するSEAグループの傘下にあり、東南アジアと台湾最大のネットモールで、2020年は4兆円弱の売上となっています。Lazadaは、同じくシンガポール企業ですが中国のアリババグループが出資をしています。

両社とも2020年以降に日本法人を設置して日本からの出店を可能にし、中小企業でも東南アジアEC市場への道が開けました。Shopeeは、出店費用と初め3カ月間は販売手数料無料のキャンペーンを実施しています。Lazadaは、Lazada Global Shipping(LGS)により、日本Lazadaの仕分けセンターに届けるだけで簡単に現地購入者まで配送ができます。

 

3.B2B オンライン展示会を始めよう

それでは、B2Bの対応はどうするか。コロナ前であればリアルの展示会に出展して情報収集をしたりバイヤーを募ったりするのが通常でした。ジェトロでは、B2Bの第1ステップとして、全世界のバイヤーの目に触れることができるオンラインカタログサイト「Japan Street」が用意されています。

「Japan Street」は、ジェトロが招待した海外バイヤー用の商品検索サイトで、1,000社以上のバイヤーが参加しています。対象商品には制約がなく、企業は無料で企業・商品情報と商品画面を登録するだけで世界中のバイヤーに製品を紹介することができます。昨年時点で約3,000社の日本企業が出品しています。引き合い後の商談は、基本企業自身が行います。

さらに広い事業機会の場として、ジェトロの「Japan Linkage」があります。これまでの事業と違い有料となりますが、通年・常設型で海外の有力オンライン展示会・見本市への出展プロジェクトです。対象品目は、機械・工業用品、食品、日用品など多岐にわたります。

 

各地域・分野別に、以下の8つの展示会サイトがあり、参加企業は、どれでも自由に自社の商品群の特性によって選べ、出展することができます。

展示会サイト 特性
Alibaba.com 世界最大級の B2B トレーディングプラットホーム
Hktdc.com Sourcing 世界各国200万人のバイヤーが登録する香港貿易発展局サイト
Saladplate グローバルメディアInformaMarketsの運営する食料品プラットフォーム
VirtualExpo フランス発の産業 6 分野に特化した B2B マーケットプレイス
EcplazaおよびEC21 韓国のB2Bマーケットプレイス
JOOR 米国アパレル専門 B2B プラットフォーム
Tradeindia インド発 産業B2B オンライン展示会

 

ジェトロによれば、日本企業は、2020年時点で977社が出展しており、成約先は128ヵ国、3,591件の輸出に成功しています。なかでも、最大手のAlibaba.comには、世界190ヵ国のバイヤーが集まり、1日の問い合わせ件数は30万件におよびます。

Alibaba.comを活用した愛媛県の「香月園」の例を挙げます(写真1参照)。アリババによると、同社は「地域に愛されているお茶と茶道具」のお店ですが、Alibaba.comを始めて海外展開半年で、大口取引が決まり売上が12倍になりました。すでに50数か国との取引があり、季節を問わず通年で売上が安定するという海外ビジネスのメリットを享受しています。

 

写真1 香月園 商品イメージ

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出典:「香月園」ホームページ

 

「Japan Linkage」は有料サービスですが、直接Alibaba.comなどのサイトと契約するよりは割安で、中小企業の参加費は約50万円です。一方、東京都の中小企業制度融資のメニュー「海外展開支援」を活用すると、50万円までの支援が受けられます。

 

4.最後に

以上、ジェトロのサービス活用を中心に越境ECの始め方を述べてきました。中小企業にとっても、支援者である中小企業診断士にとっても、海外展開支援には使い勝手の良いツールであることは間違いありません。

とりわけ、「Japan Mall」では、バイヤーとのマッチングさえクリアすれば、参加企業は、さらなる販売拡大のため、販売ツールの作成や製品の磨き上げなど付加価値向上に専念できます。「Japan Linkage」は、間違いなくグローバルブランドの認知向上に資するものです。

日本政府も中小企業の輸出促進に背中を押しています。2022年12月からは、「新規輸出1万者支援プログラム」も始まりました。その中でも、輸出商社とのマッチングやECサイト出展も含めた総合的支援を一気通貫で実施することになっています。公的スキームを上手に活用し、越境ECビジネスにチャレンジしていきましょう。

 

■阪本 晋 (さかもとしん)

中小企業診断士(2010年登録)、東京都中小企業診断士協会・中央支部会員、国際部部員。電機メーカーをへて現在関連会社勤務。(株)ワールド・ビジネス・アソシエイツ所属、ワールド・ビジネス研究会会員。