国際部 中川 聖明

【増加するインバウンド】

この春にご縁があり、東京開業ワンストップセンターの窓口業務をさせていただいております。主な業務は日本人のみならず外国人の方の創業に関するご相談を受けています。また併せて大学院にも通い始め、留学生や日本で事業をされている外国人の同級生の方々との交流も始まりました。そのようなこともあり最近関心度が高くなったインバウンドの創業について記載していきたいと思います。

参考URL東京開業ワンストップセンターのURL

https://www.startup-support.metro.tokyo.lg.jp/onestop/jp/

街に出て感じられると思いますが、インバウンドは増えています。1月~3月における2023年と2022年との来日外国人数の比較では3か月集計で全体では100,606人から4,790,300人という増加で、大きく回復してきています。上昇率はグラフでは表現できません。今後は、観光客のみならず外国人の方々の投資や創業の意欲が向上することも期待されるのではないでしょうか。

図表1 訪日外客統計資料

日本政府観光局HP 訪日外客統計資料より

【在留資格の種類】

さて、外国人が日本で活動する場合、必要な在留資格を取得しなければなりません。在留資格自体は種類も多く入国管理局のHPによれば以下で内容も複雑です。

就労資格に関する在留資格については以下のとおりです。

一の表(就労資格)として外交 公用 教授 芸術 宗教 報道
二の表(就労資格,上陸許可基準の適用あり)として高度専門職 経営・管理
法律・会計業務 医療 研究 教育 技術・人文知識・国際業務 企業内転勤
介護 興行 技能 特定技能 技能実習

就労にかかわらない資格は以下のとおりです。

三の表(非就労資格)文化活動 短期滞在
四の表(非就労資格,上陸許可基準の適用あり) 留学 研修 家族滞在
五の表 特定活動

また、入管法別表第二の上欄の在留資格(居住資格)は以下があります。

永住者 日本人の配偶者等永住者の配偶者等

それぞれに 日本で行うことができる活動、該当例、在留期間が定められております

参考URL在留資格一覧表(https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/qaq5.html

 

【在留資格「経営・管理」資格の取得】

外国人の方が日本で事業を行うには「経営・管理」を取得する必要があります。日本で貿易その他の事業の経営を行い又は当該事業の管理に従事する活動で、具体的には企業等の経営者や管理業務の担当者です。期間は5年,3年,1年,6月,4月又は3月となっています。この在留資格を取得するためには、どのような事業を行うかという内容を明確にした申請することと合わせて以下の条件が必要となります。

①入国前に事務所の開設
②常勤2名以上の雇用又は500万円以上の国内での投資等の要件を満たしている

これは日本で、安定した事業を継続的に行って頂きたいという趣旨です。しかしながら、このルールでは外国人であると国内の共同支援者無しで、一人で創業することが極めて困難な状況になっています。自由にビジネスができる永住者 日本人の配偶者等、永住者の配偶者等の特別な在留資格を除いて、原則として経営・管理という在留資格が必要になります。

【外国人創業人材受入促進事業】

この状況に対して東京都では「外国人創業人材受入促進事業」が行われています。(平成28年1月29日より開始)
具体的な効果として、条件である②の常勤2名以上の雇用又は500万円以上の国内投資という条件の変更はありませんが、入国後 の6か月間で創業活動ができます。6か月間で在留資格「経営・管理」1年更新の要件を整えられればよいため、創業に関する準備活動がスムーズに行えることになります。
これは、「入国後6月以内にこれらの要件を満足する蓋然性が高く、創業活動が国家戦略特別区域における産業の国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成を図る上で適切なものであり、事業計画が適正かつ確実なものであると認められた方について、事業を始めるための準備(創業活動)の期間として6か月間の在留資格を付与する」ということです。

在留資格取得の窓口は出入国在留管理局で対応しますが、まず、東京都で「創業活動確認」を受けた後に「創業活動確認証明書」をもって東京出入国在留管理局に申請して経営管理ビザを取得すという流れになります。

この「創業活動確認証明書」ですが、まず以下の書類が必要です。

①創業活動確認申請書(兼同意書)
②創業活動計画書
③履歴書
④申請人の旅券の写し
⑤申請人の上陸後6か月間の住居を明らかにする書類
⑥発行後1か月以内の残高証明書の写し
⑦その他、必要書類 ※代理人を通して申請する場合
委任状(「本邦における事業所の設置」を委任されている必要があります)
行政書士証票又は弁護士身分証明書/届出済証明書の写し

提出書類は以上ですが個人的にはややハードルの高いと思われる内容が2つあります。1つ目は。②の創業活動計画書です。ちなみに書式は日本語ですが、内容的に金融機関の借入や補助金申請に記載する内容に近いレベルは求められるということです。ちなみに、申請書をすべて日本語で記入しなければなりません。さらにまた、申請については弁護士、行政書士の代理人申請が認められていますので、ある程度のサポートは受けられます。しかしながら日本語のコミュニケーションができる方でも文書作成が苦手な外国人には結構ご負担があるのではと推察されます。実際、日本人でも補助金申請にあたって経営計画書を作成する際は、新規性、独自性、公共性等補助金の趣旨が求める内容に言及する必要があるので難しいでしょう。

2つめは拠点の設立には難儀されることがあるようです。申請人の上陸後6か月間の住居を明らかにする書類が必要なのですが、ホテルというのはなかなかむつかしいようで、賃貸借契約書とか、賃借人、同居人の許可証等で証明を頂く申請を頂くことになるようです。

申請後は「創業活動確認証明書」の申請後は面談があります。申請される外国人の方は日本語での対応ができるように準備をしておく必要がありそうです。このあたり対応をして、証明書をもらえたら、次に入国管理事務所へ在留資格申請となりますが、首尾よく「経営・管理」在留資格が得られたら有効期間となる6か月間で、以下のような創業活動を行うことが必要となります。

①事業所の確保
②会社の設立登記
③従業員の雇用
④取引先の開拓

少なくとも2か月に1度、創業活動計画の進捗状況について東京都によるオンライン又は対面で面談がわれることになります。無事6か月を乗り切れたら、その後さらに在留資格更新をしていきます。

在留資格の変更は「留学」から行われることもあります。この場合、卒業前後のタイミングにする必要があるようです。経営管理で通学できなくなる大学があるようですし、また500万円の資金も留学中の就労での預金は使えないということだそうです。留学時の就労はあくまで生活費のためであり、事業資金を貯めるためではないという考え方だそうです。

【外国人起業家のための資金調達サポート】

人に対する支援のほかに2022年6月28日より「外国人起業家の資金調達支援事業」が開始されています。こちらは、金融機関を通じた融資と融資前後の経営サポートを組み合わせて、創業5年未満の外国人起業家の資金調達支援事業とであり、東京都から事業計画認定を受ける必要があります。

対象者 外国人起業家
東京都(政策企画局)において、事業計画の認定を受けていること。
日本国内において創業した日から5年未満であること。
事業活動の制限を受けていない在留資格を有していること。
東京都内に本店又は主たる事務所を置く法人の代表者であること。
融資限度額 1,500万円以内(運転資金のみは750万円以内)
返済期間 10年以内(うち据置期間3年以内)
融資利率 固定金利2.7%以内
保証人 法人代表者(原則)、または不要
担保  無担保

事業計画書作成後一定のやり取りを経て貸付決定となります。

参考URL 東京都の外国人起業家の資金調達支援事業(https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2022/06/27/09.html

以上の「外国人創業人材受け入れ支援事業」と「外国人起業家の資金調達支援事業」はビジネスコンシェルジュ東京(赤坂窓口)が対応しています。

参考URL(https://www.investtokyo.metro.tokyo.lg.jp/jp/oursupports/bdc-tokyo/

 

【創業の必要性】

日本人、永住者、その配偶者が日本で事業をする場合は在留資格取得の必要はありませんので、外国人が創業する場合大きな違いがあります。一方で、以下は中小企業白書2019年のグラフですが、少子高齢化により15歳から64歳までの労働力人口が落ちていく中で、国籍を問わない形での働き手の確保にとどまらず、創業して雇用創出の担い手になる方々も必要となってくると考えます。外国人の企業や就労については徐々に緩和されてきており、経済の担い手として期待されてきていると思います。ちなみに、大学院で交流している留学生の方々は、日本人に比べて旺盛な起業意欲を感じさせられことがあります。

年代別人口の推移 出展中小企業白書2019年

図表2 年代別人口の推移

【創業支援の実務】

自分は、ピンポイントで創業時行うべきことを整理して伝えることが多いのです。テーマは下図の内容を念頭にお話をしています。

図表3 創業支援相談の概要

業務について、私は始めたばかりなので、お客様からは初期の話題が中心となっています。内容は個人事業がよいのか法人設立が良いのかとか、まず何に着手をすればよいのかということがあります。もちろん資金調達のご相談もありますが、この段階では補助金や助成金申請よりもスタートアップ資金の借入先に関するご相談が多いです。今後は外国人の方の日本での拠点設置とスタッフ採用、労務管理のご相談も増えてくると思います。支援業務は一言で申せば日本の総務部の仕事に近いかもしれません。特に会社法、税務、労務に関する手続き概要を知っておくと、違和感がなくご相談が進められると感じました。

但し、創業相談にはどうしてもフォローアップができないテーマもあります。特に許認可事業を創業しようとする外国人の方からのご相談への答えができません。例えば、保育所設置、労働者派遣業、旅行業、建設業の国からの承認が必要な事業のご相談は、行政の許認可申請窓口、相談窓口の紹介のみです。個人的には許認可事業の開業は外国人の方はハードルが高いと思います。自助努力と公的支援が相まって創業につながると良いと思います。

個人的には経済活動はボーダレスと考えていますが、特にコンプライアンス、リーガルマインドは配慮して頂きたいです。これは外国人に限らずですが、財務管理をして納税をする。雇用をするにあたっては、就業規則を定め、労働契約書を締結し、労働社会保険加入を適切に行って頂きたいと思います。

【留学生】

先ほど、外国人留学生の創業意欲が高いと申し上げました。さらに日本での起業意欲が高い印象があります。日本は確かに在留許可申請が必要ですが、それでも事業環境は自由で商取引が丁寧であるということがあるそうです。私から見た場合、アジアの国では中国、台湾、韓国の方のお話ができる機会がありましたが、やはり基本的スタンス、ビジネスに対する考え方は違いがあります。協力企業で外国人の社長と接する機会があれば、基本的に考え方に違いがあるということは理解しておく必要性を感じています。経済活動はボーダレスだと思います。今後は国内でもさまざまな国籍や文化をお持ちの方が協働して経済活動に取り組んでいく姿が求められてくると思います。自分も微力ながら貢献してまいりたいと思います。

雑駁な内容ではございますが、主に外国人の創業支援に関して記載させて頂きました。

 

■中川 聖明(なかがわ せいめい)

1996年中小企業診断士登録、特定社会保険労務士、第一種衛生管理者、
2級FP技能士

製薬会社、精密機械企業で決算、税務、人事総務等の管理部門系業務に従事、現在は、ストローム経営管理事務所を開設し公的機関等で中小企業支援に従事している。

写真 中川聖明