中央支部・国際部 伊藤 英幸

「英語力を高めたい」「論理的な思考を学びたい」という人は多いのではないでしょうか。そんな英語、そしてクリティカル・シンキングやロジカル・シンキングの力を高める方法として、筆者が学生時代から経験してきて、2023年現在も審判として関わっている「英語ディベート」をご紹介します。

1.ディベートとは

1)筆者のディベート経験

初めに、筆者のディベートへの関りについてお話します。上智大学英語研究会(ESS)にて英語ディベートを行い、大会に参加、優勝、入賞を経験。現在も、JDA、NADE等の大会で審判を務めております。JDA(日本ディベート協会)、JBDF(日本社会人ディベート連盟)会員でもあります。

 

写真1:ディベート大会決勝戦での筆者(審判紹介時)
写真1:ディベート大会決勝戦での筆者(審判紹介時)

 

2)ディベートとは

ディベートとは「与えられた論題に対して、肯定側・否定側に分かれて是非を論じる試合(ゲーム)」です。試合には豊富なディベート経験を有する審判がいて、その試合の判定(勝敗)を決めるとともに各スピーチの評価を行います。

選手は論題を議論する際には、自分達の(個人的な)意見ではなく、専門性や客観性が求められるため専門家の意見や、統計等のデータを使用します。審判は、どちらの側がより(実際に採択された場合)望ましいか、論理的か、現実的か、等の理由により勝敗を決定します。

3)行われている議題の例

数年前から、文部科学省の学習指導要領(外国語)にディベートが記載される様になりました。

論題は、政治・経済・社会、そして国際問題が主に扱われます。現在、日本では社会人、大学、高校(中学)の各世代で、活発にディベート活動が行われています。

2023年現在、行われている論題は、以下となっています。

The Japanese government should ban surrogate motherhood.
日本政府は代理母出産を禁止すべきである。(NAFA・大学生、2023年度前期)
Resolved: That the Japanese government should legalize gestational surrogacy.
日本政府は,代理出産を合法化すべきである。是か非か。(HEnDA・高校生、2023年)

 

4)本稿で扱うディベート

ディベートには様々な種類がありますが、本稿では、米国起源の事前準備型の政策ディベート(Policy-making debate)を説明します。他にも、英国起源の議会制ディベート(Parliamentary debate)や即興ディベート等があります。

2.ディベートの試合の進め方

1)ディベートの試合形式

肯定側、否定側の両チーム(選手)と審判により行われます。主な流れは以下となり、最後に審判の講評と判定があります。

表1:ディベートの試合の流れ(例)

表1 ディベートの流れ

 

 

 

 

 

 

 

 

2)議論の争点

肯定側は論題が採択されるべき、否定側は論題が採択すべきではない(または、する必要がない)と論じます。
肯定側は論題が採択されるべき理由として、論題(または論題を実現するプラン)によりもたらされるメリットが重要であること、現状では得られないこと、プランが実行可能であること等を論じます。

否定側は論題が採択すべきではない(する必要がない)理由を述べます。肯定側が論じるメリットは重要ではない、現状で達成されている、プランは実行可能ではない、メリットを上回るデメリットが発生する等と論じます。

 

3.英語ディベートで学べること、得られること

1)英語の力(「読む」「書く」「聞く」「話す」)を身に付きます

英語ディベートでは、準備段階では論題に関する情報を収集し、そして証拠資料(専門家の意見や統計等)を準備し、実際の試合に備えてのスピーチを準備します。主に英語の「読む」「書く」力が養われます。

試合においては、最初のスピーチ以外は、それまでに行われたスピーチの内容に基づき反論・再構築を行います。そのため「聞く」が必要になります。

最後に「話す」ことが求められます。試合前にチームのメンバーと共に準備した内容(「読む」「書く」)に基づき、試合中に双方の議論を踏まえ(「聞く」)、その内容に対応した議論を展開(「話す」)することが求められます。

英語を学ぶとともに、英語を活用してビジネス等に繋げたいという人にとって基礎力・総合力の向上にも繋がります。練習試合も含めて試合の後には審判や他のディベーターから試合内容や議論に加えて様々なフィードバックが得られ学びの機会になります。

2)クリティカル・シンキングとロジカル・シンキングの力を学べます

ある議論に対して、その表面的な内容をそのまま受け入れるのではなく、複数の論点に基づき分析する力(クリティカル・シンキングとロジカル・シンキング)が付きます。一見、良いと思われる議論でも、成功確率が低い、膨大な費用がかかる、等の条件・前提が付いている場合や問題点が発生する場合もあります。

自身の議論を支え、そして相手の議論に反論するには、論理的な背景が必要です。ある議論を支えるには根拠(事実・データや専門家の意見)と論拠が求められます。試合においては個々の議論だけでなく、全体、そして相手の議論の強弱とのバランス(自分達が優位な議論を中心に)に行う必要があります。

ディベートの試合において、スピーチの時間は決められて(限られて)おり議論の内容を深める必要が求められます。議論の内容を深めるとは、ある議論を論じる際に、結論だけでなく理由や意見を説明する、複数の専門家の意見を準備する、数値的な裏付けを準備する、対立する意見等にも反論を準備すると証拠資料を準備します。クリティカル・シンキングやロジカル・シンキングの力が向上します。

3)審判や聴衆を説得する力が付きます

ディベートの試合においては、審判により判定(勝敗)が下されます。そのため、上級者のディベータ―になると、双方の議論をどの様に判断するべきかを合わせて論じます(その様な議論がない場合、どの様に解釈するかは審判に委ねられます)。

対立する事象(ディベートの試合における議論)は、2つの異なる内容となる事が多くあります。例えば、肯定側が論じるメリットと否定側が論じるデメリットを考えてみます。

・短期的なメリット×中長期的なデメリット
・発生確率は高いが問題の程度は小さいメリット×発生確率は低いが(発生した場合)問題の程度は大きいデメリット
・定性的なメリット×定量的なデメリット
・日本におけるメリット×世界に与えるデメリット

といったものが考えられます。

いずれのメリット・デメリットが重要(問題)という正しい(または唯一の)解答はありません。議論そのものに加えて、議論をどの様に捉えるべきかという点を論じる力が付きます。

 

4.英語ディベートで学ぶもの~それ以外にも~

1)論題に関する知識、英語でのリサーチは世界を広げられます

試合に使うための資料を準備する必要があります。英語や日本語でのリサーチを行います。私の大学時代は、米国ディベートにおける議論の導入が行われており、当時(1980年代)から現在、世界中で問題となっている「核拡散」や、「地球温暖化」が議論として存在していました。一方、日本では一般的な議論・問題にはなっていませんでした。

情報に関しては、同じトピックに関してでも、英語と日本語では情報量の格差は大きなものがあり、英語で取り組むことや英語でのリサーチスキルを身に付けることで、情報量が拡大するとともに、最先端の情報にアクセスできる様になります。

2)日米交換ディベート(Japan-US Exchange Debate)

隔年で日本のディベータ―が米国へ、米国のディベータ―が日本へやって来る日米交換ディベートが開催されます。(2023年は6月に開催)

米国のディベートチームは、コーチと大学生のディベータ―2人で構成され、日本の代表チームとの試合とコーチによるレクチャーが行われます。コーチはコミュニケーション学を修めた元ディベータ―が多く、ディベータ―は高校・大学とディベートを行ってきた経験豊富な選手です。時には、全米大会の優勝者が来日することがあります。次回の日本代表はあなたかもしれません。

HEnDA(全国英語ディベート連盟) 2023年日米交換ディベート(動画)へのリンク
henda.global/seminar/?article_id=2732&category_id=43

 

5.英語ディベートを行うには

実際に試合を体験(見たり、読んだり、聞いたり)することが一番です。

・過去の試合の動画(大会の決勝戦)が、ディベート団体のHP
・過去の試合やモデル・ディベートの試合のトランスクリプト(速記録)

が、ディベート団体のHPや英語ディベートの書籍に掲載されています。
是非、一度ディベートを体験してみてください。

さらに興味を持ったならは、ディベート団体に参加して練習会等に参加することや大会を観戦することをお勧めします。

表2:ディベートを行っている団体:

表2 ディベートを行っている団体

 

 

 

 

 

 

 

上記の他にも多くの団体が定期的に練習会等を開催しています。

6.終わりに

英語の力アップのひとつとして、そしてクリティカル・シンキングやロジカル・シンキングの力を伸ばす方法の一つとして、英語ディベートそのものに興味を持っていただければ幸いです。

それでも、最初から英語ディベートはハードルが高いと言う方に

ここまで読んでいただいて、英語ディベートに興味を持ったのだけれど、最初から英語でディベートを行うのはハードルが高い、日本語でもディベートを行ってみたいという方もいるかもしれません。そんな場合には、日本語ディベートにも挑戦してみてください。英語と日本語の双方を行っている人も多くいます。

<参考文献>
日本語ディベートの技法 松本茂著 (2001年・七寶出版)
英語ディベート 理論と実践 松本茂・鈴木武・青沼悟著 (2009年・玉川大学出版部)
半年で話せるようになり1年で議論できるようになる英語習得法 浜野清澄著 (2020年・実務教育出版)
中学・高校 英語ディベート入門 河野周著 (2021年・三省堂)

 

伊藤 英幸(いとう ひでゆき)
2021年中小企業診断士登録、東京都診断士協会中央支部・国際部所属。
米国MBA(Case Western Reserve Univ.)、日本証券アナリスト協会検定会員、国際公認投資アナリスト。